長年のスレ違い

scarlet

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第三章

気持ちを伝えてくれる人

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先輩が気持ちに区切りをつけようとしている時間帯。
私を選んでくれって......そんなの、言えない。
けど、夜白先輩が本当に真山先輩を好きじゃなくなったのなら、私を選んでほしい...

屋台が立ち並ぶ明るい方を見ながら、いつ先輩が来るのかな?って考えていたら、

「藍!」

と、前から階段を駆け上がりながら、先輩がこちらに向かって走って来ている姿が見えた。

「せ、先輩!」

ートクン

ートクン

その場で待っていられずに、すぐに先輩の元へと走る。
先輩は階段を駆け上がりながら、息をきらしつつも、私の前へと立った。

何だか、先輩の顔を見る事が出来なくて、思わず下を向いてしまう。
これが私の悪い癖って分かってるのに.....
と、自分に自信がなくなってしまう。

「何も聞かないのか?」

「え?」

と、その言葉に弾かれるように先輩の顔を見た。

「綺月とどうなったのかって」

「.....聞いてもいいんですか?」

なるべく、その話題については自分から触れてはいけないと思っていたけど、

「うん。というか、聞いてほしい」

先輩は聞いてほしいみたいだった。

「じゃあ、教えてください」

先輩の瞳には、何かを決意したような真っ直ぐで強い意志が物語られていた。

───────────────────────

「......突然勝負をしよって言ってきたんだ」

「勝負、ですか?」と、藍が小首を傾げていた。

「うん......綺月が得意なゲームで、勝った方がお願いを聞いてって言ってきて、」

『……勝負しよう』

『え?』

『射的とかはどう?』

『別にいいけど、なんで……』

『もし、私が勝ったら私のお願いを叶えて』

『分かった』

「それで引き受けたんだ」

「お願いを......?」

『で、綺月のお願いは?』

「うん。もちろん、綺月が勝ったよ......それで、」

『弘大の事、今は何とも思ってないよ?』

『だからさ、あの子のところに迷わずに行って』

「って、言ってさ......俺、真っ先に藍ところ行こうとしたんだ。それしたら、」

『弘大は今までさんざん我慢してきた。もう、これ以上弘大が誰かのために我慢する必要はない…』

『本当に好きなあの子と、藍と幸せになったらいいの』

───────────────────────

夜白先輩は真山先輩のために、わざと......?

「ってさ。ほんと、バカだよな......あいつ」

くしゃっと髪の毛を掴みながら、何かを後悔するかのようにただ下を向いていた。

「きっと最初から.....」

「......最初から、藍に勝つつもりなかったんだと思う」

やっぱり、真山先輩も分かってるんだ。
夜白先輩が何であんな事をわざわざ言ったのかって。

「綺月......俺を藍のところに行かせようとしていた。それが俺の幸せだって......」

だんだんと先輩の声が弱々しくなっていく。
きっと、夜白先輩の事を考えているんだろう。

「バカだよな......本当に、バカ......」

先輩......

「......ごめん。俺、藍のところには戻れない...」

ーズキン

やっぱり......

「藍の事は今でも好きだ。けど、心の中には綺月が居るんだ」

───────────────────────

「俺は綺月の気持ちに気付かずに、たくさん傷つけたのに......それでもまだ想ってくれて...」

愛される事に慣れてなくて、
だけどバカみたいに俺を愛してくれる人。

かけがえのない人。

「俺、綺月を失いたくないんだ!一番大切で、幸せにしたい!......ごめん!」

───────────────────────

ーギュッ

「夜白先輩はすごいですね。私は先輩が好きで、他の人に渡したくなかった」

どうしても夜白先輩からとり戻したくて、先輩を苦しめるって分かってても、気持ちを止められなかった。

「でも、夜白先輩は違う。先輩が苦しまないように、一番に先輩の気持ちを守ろうとしてた」

ただ一途にひたむきに愛し抜いて、守り抜く。

「私、先輩の事が一番好きなのは自分だと思ってた......けど、悔しいけど......夜白先輩には勝てなかった」

───────────────────────

藍......

「行ってください。夜白先輩のところに」

藍は今すぐにでも泣きたいはずなのに、俺の前では笑顔で居ようとしてくれている。

俺が藍の元へと引き返さないようにって。

「......今度こそ、本当にさよらなですね。先輩」

終わっていく、俺の初恋。

でも、

「藍の事は忘れない。藍は俺が初めて人を好きになった人だから」

さようなら。さようなら、藍...

恋する幸せも、涙する切なさも、
全部藍が教えてくれた。

藍は永遠に胸の中で輝き続ける、

俺の初恋の人。

───────────────────────

やっと気づいた。
本当に先輩の事が好きなら、
先輩の幸せを一番に考えてあげなくちゃって。

ごめんなさい。先輩...
自分の事だけしか見えてなかった。
先輩を本当に愛してるなら、
夜白先輩のところへ帰してあげなくちゃいけなかった。

誰かを愛するって事は、
その人の笑顔や幸せを一番に祈る事なんですよね。

さようなら、先輩......

そして、ありがとう。
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