剣と魔法の世界を拳ひとつで生き残る!

黒咲 ちゃまめん

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1章 サリオン編

3話 二人の適性者

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 知らない天井だ。
 この世界で知ってる天井は、あのクソみたいな聖堂の天井だけだった。

 「ご気分はいかがですか?」
 視線を横に向けると、そこにはライと、優しげな女性がいた。

 「うちの子を助けてくださり、ありがとうございました」
 ライの母親――ミニロートが、静かに頭を下げる。

 「いや……私は何も覚えてなくて。むしろ、私のせいで大聖堂が……」

 感謝されるような立場じゃないのに。戸惑う私に、ライがぽかんとした顔を向ける。

 「あんなにかっこよくて、強かったのに……記憶が無いんですか?」

 「銅像が崩れて……そこで気を失ったと思う」

 何度思い返しても、肝心なところが真っ白だ。
 するとライが、興奮気味に言葉を重ねる。

 「銅像が落ちてきた時、僕の上にあった上半身の部分を、天音さんが一撃で砕いたんだよ!」

 ……ピンとこない。

 「とりあえず、ご飯にしましょ。主人も礼を言いたくて仕方ないみたいで」

 ふっと鼻を掠めた香りが、忘れていた空腹を呼び起こす。

 「ご馳走になります!」

 ***

 「うちの子を本当に、ありがとうございました」

 服の上からでもわかるほど筋骨隆々とした大男――ミリク・キリシュアに深々と頭を下げられているという現実に、脳が追いつかない。

 「いや、ほんとに記憶がなくて。私、今日この世界に来たばっかで……」

 その一言で、場が静まり返る。

 「この世界に来た、というのは……別の世界から来られた、ということですか?」

 ミリクの問いに、私は観念してうなずく。

 「それで水晶に触れたら、サリオンの魔術師像ではなく、武闘師像が光った……ふむ……」

 ミリクが何やら難しい顔で呟く。

 「魔術ではない何かが、天音さんにはある……ということかしら」

 ミニロートの言葉に、私は返す言葉もなく、ただ苦笑するしかなかった。

 「ま、何はともあれ。助けていただいたのは事実。さ、冷めないうちに食べましょう」

 ミリクの一言で場が和らぎ、ようやく箸を持てた。

 ***

 夕食後、ライの部屋のベッドを借りて寝かせてもらえることになった。
 寝心地は良いが、本人のベッドだと思うとちょっと落ち着かない。

 「疲れたな……」

 灯りはロウソクだけ。電気なんてものは当然ない。
 窓の外には、星がきらめいていた。

 「寝よ……」

 時計なんてない。眠くなったら寝る。それがこの世界の流儀らしい。

 ***

 「天音さん!」

 大きな声に跳ね起きる。

 「は、はいっ!」

 視線を巡らせると、ライがいた。慌てた様子で、息を切らしている。

 「囲まれてます!」

 「囲まれてる?」

 窓から外を覗くと、家の周りを大量の兵士が取り囲んでいた。
 先頭にはミリクと、あの神父がいる。

 「きゃっ!」

 床が突然崩れ、私は兵士たちの前に落とされる。

 「ごめんなさい! 息子の恩人なのはわかっていますが……!」

 ミリクが謝罪しつつ、私に手を伸ばそうとする。

 「待て。その女……我が子と“共鳴”している」

 神父が冷たく告げた。
 その言葉に、全身から嫌な汗が噴き出す。

 「この二人はここで始末する。英雄の像を壊した罪だ」

 「そんなの……!」

 私だって、こんな国に望んで来たわけじゃない。
 目を覚ましたら、知らない土地で、勝手に罪を与えられて……殺される? 冗談じゃない!

 「私は私のやるべきことがあって、この世界に来た。理由なく飛ばされたわけじゃない。私は……私の意思で、生き抜いてみせる!」

 握った拳に力が宿る。心臓が高鳴る。

 「打て!」

 神父の号令で、騎士たちの背後から複数の岩石が飛んでくる。

 「騎士団の包囲魔法だ! 危ない!」

 ライの叫びが耳に届いた、その瞬間――

 時間が止まったかのように、世界が静まり返る。

 「……何、これ?」

 視界の隅に、立っていた。
 懐かしい、あの人が――ばあちゃんが。

 「ばあちゃん! ばあちゃん!」

 何度呼んでも、ばあちゃんは微笑んでいるだけ。
 動こうとしても、体が動かない。

 「私を置いていって……氣とか異世界とか、何にも知らないのに……勝手に飛ばされて、勝手に殺されそうになって……!」

 「……今度会ったら、全部の愚痴聞いてもらうから……!」

 その時だった。
 岩石が眼前に迫る。

 「砕けろ……!」

 手に触れた瞬間、岩は轟音と共に真っ二つに砕け散った。
 砂塵が舞い、世界が揺れる。

 静寂の中で、心臓が激しく跳ねる。

 「まだだ」

 もう一度、心臓が鳴る。

 「ここでやらなきゃ、殺られる」

 神父を見ると、怯えきった目でこちらを見ていた。

 「……なんだ、その目は……」

 私を恐れている。
 こんな小物に、私は――

 さらに鋭利な岩の弾幕が襲いかかる。

 「痛っ!」

 ライの声。
 目を向けると、血が滲んでいた。

 (目的は……そっちか)

 氣の素質を持つライを狙っている――!

 体が勝手に動いた。自分でも驚く速さ。
 足が砕けそうでも、痛みは感じなかった。

 ここだ。

 ――青白い光が弾けた。

 私の拳は、神父の胸に突き刺さっていた。
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