レベルってなんですか?

Nombre

文字の大きさ
62 / 244
第二章「セントエクリーガ城下町」

第二十五話「揺らぎ」

しおりを挟む
「……水飲む?」

 ヒナコは俺の手から自分の手を放し、食器棚からコップを2つ持ってきた。

「……大丈夫」

 俺が返事をする前にヒナコは2つのコップに水を注いだ。

「それで……どこかってどこ?」

 ヒナコは水を一口飲むと椅子に座り直した。

「……分からない」
「海かな」

 俺はヒナコにつられるように水を一口飲んだ。

 めまいが少し治まったので、コップを両手で持ったままゆっくりと顔を上げる。

「そっか……」
「でもそんな事しないでしょ?」

 ヒナコの姿はぼやけてよく分からないが、机の上にある手が少し震えているように見えた。

「うん……多分……」

 俺は再び水を飲もうと口に含んだが、喉を通らなかったので少しコップに戻してしまった。

 手持無沙汰になったので机の下で手を組む。

「……私の両親はさ、私が13歳の時からこの宿を残してギルセリアに働きに行ってるの」
「ちょうどケイちゃんと同じぐらいの歳の時だよ」

 ヒナコは話し始めると、再び俺の手に自分の両手を被せる。
 やはりヒナコの手は少し震えていたが、俺の手も同じく震えていたようだ。

 ヒナコの手の冷たさのせいか、段々と身体が楽になってくる。

「でもね、捨てられた訳じゃなくってね」
「さっきも言ったけどこの宿、全然儲からなくてさ、何度も話し合って決めた事だよ」
「本当は私も一緒に行けばよかったんだけど、おばあちゃんが建てたこの場所が好きで壊したくなかったから残ったの」
「だから会うことが出来なくても毎月、何枚もの手紙が送られてくるし電話もたまにしてる」
「……それでも私は寂しいよ」

 ヒナコが片方の手を離したので無理やり顔を上げて確認すると、涙を隠すように目を拭っていた。

「だからさ……」「ごめん」

 ヒナコが続けようとしたのを、俺は遮る。

「今の話忘れて」
「……ヒナコは俺とケイの事聞かないの?」

 俺はヒナコの涙を見て、話を無理やり変えた。

「訳アリなのは薄々感じてるよ?」
「でもまだ初日だし、そのうち聞こうと思ってた」

 ヒナコは目尻を少し赤くしながら笑顔を見せた。

 どたどたどたどた

 廊下を走る音が近づいてくる。

「出たよーー!」

 引き戸を勢いよく開け、ケイがダイニングに飛び込んできた。
 髪が湿っていて、服も変わっている。

「テレビ見ていい?」

 ケイは返事を待たずにテレビから一番近い椅子に腰かける。

「うん、いいよ」

 ヒナコが返事をすると同時に、ケイは手慣れた手つきでテレビに電源を入れた。

「俺も風呂入ってくるよ」
「ケイ、このドーナツ食べていいよ」

 俺はわざとらしくそう言って席を立ちあがり、ケイに背を向けて部屋を出ようとする。

「ありがと!」

 ケイの元気な返事が背後から聞こえた。

「あ、タオルの場所教えるね」

 ヒナコもそう言って立ち上がり、早歩きで俺の横に並んだ。

 薄暗い廊下をケイの残した水滴に沿って進む。

「俺とケイの事はまた今度話すよ」

 俺は風呂場らしき場所の引き戸を開ける。

「うん、ありがと」
「タオルそこにあるから」

 そう言い残しヒナコは廊下を戻っていった。

 脱衣場は洗面台が一つと棚があるだけで、宿として見れば小さいのかもしれないが、一人で着替えるのには十分広い。


 俺はタオルの入っている棚の近くにスーツを脱ぎ捨て、急いで浴室に入った。
 ウォロ村ほど大きくないが、日本人が作っただけあって木製の浴槽だ。

 手入れがしっかりされているのか、木目がしっかりと出ていてカビ1つ無い。
 
 テキトーに身体を洗うと浴槽に素早く入り肩まで浸かる。


「はぁ……ダメだろ」

 10秒ほど額までお湯に浸かると、顔を出し、浴槽の淵に頭を乗せて天井を見上げた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...