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第二章「セントエクリーガ城下町」
第二十六話「心底」
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しばらくお湯に浸かっているうちに、耳鳴りはだいぶましになった。
しかし責任感に押しつぶされそうになっているのか頭痛と吐き気は絶えず押し寄せてくる。
もうここから逃げたい……
本音を言うと俺はケイが好きではない。
だからと言って嫌いなわけでもない。
ただ邪魔な足枷だと思ってしまっている自分がいる。
カイの目から光が無くなる直前、カイは俺にケイを頼むと言った。
その時は喜んで大人になるまでケイの面倒を見るつもりだった。
なぜなら、カイはこの世界にきてから初めての友達だと思っていたし、短い間だったが確かな男同士の絆を感じていた。
だからこそ俺はその親友とも呼べるカイの死体から、靴を盗ってまでケイをこの城下町まで運んだのだのだ。
しかしケイと俺の関係は何かと聞かれればやはり俺は答える事が出来ない。
確かにあの日、川でケイに会っていなければ俺は飢え死にしていたかもしれない。
だから本来ならば恩を感じるべき相手なのだろうが、そんなものは微塵も感じていない。
なぜならそれは結果論であって、実際あそこで死んでいても悔いはなかったと思う。
なぜなら既に俺は一度死んでいるからだ。
俺は人生に未練なんてなかった。
早く死ななければとさえ思っていた。
それに俺はあの時ケイの友達を見捨てている。
なぜなら俺はあの女の子をシルエットとしか見ていなかったからだ。
名前なんてもちろん憶えていない。
少しでも感謝をしていれば、あんなことをしなかったはずだ。
これは自分でも暴論だと思っているが、やはりケイに愛を持って接せない。
ケイの顔を見るたびにカイの面影と思い出がふと脳裏によぎり、辛さと悲しさと悔しさが波のように押し寄せてくる。
だからこそ冷静になるにつれ、ケイの事を『めんどくさい』『所詮、赤の他人だ』『ケイを置いて逃げたい』という思いが俺の中を巡り、ケイの面倒を見るのを一年間と決めたり、コビーに押し付けようとしたり、ついには逃げようとしてしまった。
今は精一杯この感情を『この子は親友の妹で、捨てて逃げるのは悪だ』『約束は守るべきだ』という理性で押し付けているが、この矛盾がいつはじけてしまうかは自分でも分からない。
だからこそヒナコに相談しようかと思ったのだが、ただ不安を煽ってしまっただけだ。
出会って間もない女の子に話したのは明らかに間違っていた。
これは俺の失態だ。
今はカイに対する確かな尊敬と友情に頼り、一人で抱えていくしかないのかもしれない。
「……クソッ」
俺はもう一度、額までお湯に浸かり、顔を出す勢いのままお湯から出て浴室を後にした。
つま先立ちでタオルの場所まで戻ると身体をテキトーに拭き、下から順に着替え始める。
ワイシャツを羽織ると、ボタンを留めながら自然と鏡の前まで足を運んだ。
「……あ」
俺は鏡に映る自分の姿に驚いた。
この世界にきてから一週間、自分の姿をはっきりと見るのは初めてだ。
見た目に違和感は無く安心感さえ感じるのに、まるで他人のようにも感じる不思議な感覚だ。
しかし薄々感じていたが、顔は明らかに日本人でアレンと名乗るには相応しくない。
それよりも風呂あがりだというのに、まるで雪山を歩いてきたかのような青い顔をしている。
ヒナコが心配するのも無理はない。
「ふっ」
俺は鏡を見ながら笑みを浮かべてみる。
だが、いくら口角を上げても覇気は戻らず、死人を想っている目をしている。
しばらく自分を確かめるかのように、顔を動かしながら鏡を見つめた。
「ハハハハハ」
「なかなか良いじゃないか」
俺は無理やり声を出して笑うと、手のひらを目に押し付け、強くこする。
バチンッ
両手で頬を強く叩き、顔に血色が戻ったのを確認すると風呂場を後にした。
しかし責任感に押しつぶされそうになっているのか頭痛と吐き気は絶えず押し寄せてくる。
もうここから逃げたい……
本音を言うと俺はケイが好きではない。
だからと言って嫌いなわけでもない。
ただ邪魔な足枷だと思ってしまっている自分がいる。
カイの目から光が無くなる直前、カイは俺にケイを頼むと言った。
その時は喜んで大人になるまでケイの面倒を見るつもりだった。
なぜなら、カイはこの世界にきてから初めての友達だと思っていたし、短い間だったが確かな男同士の絆を感じていた。
だからこそ俺はその親友とも呼べるカイの死体から、靴を盗ってまでケイをこの城下町まで運んだのだのだ。
しかしケイと俺の関係は何かと聞かれればやはり俺は答える事が出来ない。
確かにあの日、川でケイに会っていなければ俺は飢え死にしていたかもしれない。
だから本来ならば恩を感じるべき相手なのだろうが、そんなものは微塵も感じていない。
なぜならそれは結果論であって、実際あそこで死んでいても悔いはなかったと思う。
なぜなら既に俺は一度死んでいるからだ。
俺は人生に未練なんてなかった。
早く死ななければとさえ思っていた。
それに俺はあの時ケイの友達を見捨てている。
なぜなら俺はあの女の子をシルエットとしか見ていなかったからだ。
名前なんてもちろん憶えていない。
少しでも感謝をしていれば、あんなことをしなかったはずだ。
これは自分でも暴論だと思っているが、やはりケイに愛を持って接せない。
ケイの顔を見るたびにカイの面影と思い出がふと脳裏によぎり、辛さと悲しさと悔しさが波のように押し寄せてくる。
だからこそ冷静になるにつれ、ケイの事を『めんどくさい』『所詮、赤の他人だ』『ケイを置いて逃げたい』という思いが俺の中を巡り、ケイの面倒を見るのを一年間と決めたり、コビーに押し付けようとしたり、ついには逃げようとしてしまった。
今は精一杯この感情を『この子は親友の妹で、捨てて逃げるのは悪だ』『約束は守るべきだ』という理性で押し付けているが、この矛盾がいつはじけてしまうかは自分でも分からない。
だからこそヒナコに相談しようかと思ったのだが、ただ不安を煽ってしまっただけだ。
出会って間もない女の子に話したのは明らかに間違っていた。
これは俺の失態だ。
今はカイに対する確かな尊敬と友情に頼り、一人で抱えていくしかないのかもしれない。
「……クソッ」
俺はもう一度、額までお湯に浸かり、顔を出す勢いのままお湯から出て浴室を後にした。
つま先立ちでタオルの場所まで戻ると身体をテキトーに拭き、下から順に着替え始める。
ワイシャツを羽織ると、ボタンを留めながら自然と鏡の前まで足を運んだ。
「……あ」
俺は鏡に映る自分の姿に驚いた。
この世界にきてから一週間、自分の姿をはっきりと見るのは初めてだ。
見た目に違和感は無く安心感さえ感じるのに、まるで他人のようにも感じる不思議な感覚だ。
しかし薄々感じていたが、顔は明らかに日本人でアレンと名乗るには相応しくない。
それよりも風呂あがりだというのに、まるで雪山を歩いてきたかのような青い顔をしている。
ヒナコが心配するのも無理はない。
「ふっ」
俺は鏡を見ながら笑みを浮かべてみる。
だが、いくら口角を上げても覇気は戻らず、死人を想っている目をしている。
しばらく自分を確かめるかのように、顔を動かしながら鏡を見つめた。
「ハハハハハ」
「なかなか良いじゃないか」
俺は無理やり声を出して笑うと、手のひらを目に押し付け、強くこする。
バチンッ
両手で頬を強く叩き、顔に血色が戻ったのを確認すると風呂場を後にした。
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