レベルってなんですか?

Nombre

文字の大きさ
113 / 244
第二章「セントエクリーガ城下町」

第七十六話「家族写真」

しおりを挟む
 俺は棚の上にある写真の前で足を止める。

 写真には、オムさん、ベッドの上にいる女の人、それに寄り添う男の人、そして小さな男の子と女の子が写っている。
 多分、ケイとカイの家族写真だ。

 ケイのお母さんは<聖騎士>と聞いていたが、お父さんの事はなにも聞いていなかった。
 植物に関する研究なにかをしていたのだろうか……

 もしかしたら、この部屋で奥さんを治すための薬を開発しようとしていたのかもしれない。
 しかし、それならば城下町で研究するか……


 ……死んだ人の想像をするなんて、やるだけ虚しいだけだ。


「<貧者の袋>」

 俺は写真立てから写真を外し、なるべく折らないように財布の中にしまった。

 ……そういえば、俺の今のHPってどの程度なんだろう。

 俺は部屋のドアから引き返して残っている赤い花を手に取ると、グローブの隙間から見える手首に押し当てた。

「……あぶなっ」

 俺の手首に触れた花は、10枚ある花びらを全て散らした。
 つまり今の俺のHPは1割にも満たないということだ……

 俺は赤い花を床に放ると、部屋を後にする。


 これで目的は完了だ。


 オムさんの家の外に出ると、煙の臭いが漂ってくる。
 壁の中に人は見当たらないので、どうやら誰かが壁の外で火を焚いているようだ。


「カイ、ありがとう」

 俺は背中に背負っていたカイの靴を降ろし、大剣の残骸の傍にそっと置いた。
 そして無意識に手を合わせる。


 俺はその場で足を踏み鳴らし、<猫足>のよって自分の足音が消えていることを確認すると、正門の方に近づく。


 先程まで村人の死体に群がっていたアゲハ蝶はいつの間にか姿を消していた。

 おそらく雨が近い。

 正門の壁に張り付くように立ち、顔だけ出して煙の匂いがする川の方向を確認すると、先程の隊がテントを張っていた。


 俺は隊の方を気にしながら川と反対側の山道を登り、遠回りをして川沿いに戻ると、セントエクリーガ城下町の方へ足を進める。



 ……どうするか。

 <遁走>を使いながら必死に走っているが、膝が震えていて走る体力も正直もう無い。

 太陽の位置も想定よりも低くなっている。
 おそらく3時頃だろう。

 そもそも、三日かかる道を一日で往復しようとしたのが間違いだった。

 しかし、もう無心で走るしかない。



「はぁ……はぁ……はぁ……」
「やっと……着いた」

 小雨が降る中、やっとの思いで壁の前までついた。

 運よくモンスターに遭遇することは無かったが、酸欠なのか頭がガンガンする。
 胸も苦しいし、ゲロも吐きそうだ。

 トンネルを抜けて壁の中に入ってからも俺は大きな道を小走りで進んでいく。

 ここまでも長かったが、ここからヒナコの宿までも意外と遠い。


 途中、レゼンタックの時計台を見ると、9時手前を指していた。


「はぁ……もう無理だ……」

 やっとヒナコの宿の前までたどり着いた。
 なんと言われるかは分からないが、怒られる心構えは出来ている。


「ただいまぁ……」

 俺は髪と顔に付いた水滴を軽く払うと、宿の引き戸を開けた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...