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異世界 〜不可解〜

言わない言葉

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それでも俺は美姫ちゃんを離さない。

美姫ちゃんも俺の背中に回した手を動かす気配は無いので巫女様には申し訳ないけど、あともう少し待ってもらうようだ。

巫女様ならきっと微笑んで許してくれるだろう。



「雅人、ごめん」

「ん?何が?」

「私の方が年上なのになんか子供みたいに泣いちゃって」

「泣いてないよね?」

「……泣いてない」

「全然美姫ちゃんは子供っぽくない。俺よりも断然大人。子供は俺みたいな奴を言うんだよ」

「本当、雅人って私に甘いよね…」



美姫ちゃんは俺の胸に頭突きしながらそう言う。

なんて可愛い行動なのだ。

俺は少し速くなる心臓を宥めるのに必死になってしまう。



「甘いって言うか、本当の事を言ってるだけ」

「嘘つき」

「嘘じゃないよ」

「小さい時からそうじゃん。普通なら悪いことを他の人になすりつけようとする場面でも雅人は自分が悪いって言い出す。実際私が悪かった時もあったのに」

「そうだっけ?」

「そうだよ。雅人は優しすぎるの」

「優しくなんか……」

「私なんかに優しくしないでさ、好きな子に優しくしてあげなよ」



美姫ちゃんの言葉に俺は少し眉を下げる。

抱きしめ合っているのでお互いに顔は見えないので俺の表情を美姫ちゃんはわからない。

でもそれで良かった。

もし見られたらきっとその顔の正体を問い詰められて………俺はまた美姫ちゃんに想いを伝えてしまうはずだ。

どうせ忘れられるのに。

俺は顔を隠すためにまた美姫ちゃんを引き寄せる。

心臓の速さで勘付かれる可能性だってあるのに強く抱きしめた。



「雅人?」

「ごめんね」

「何が…」

「俺、弱いから」

「急にどうしたの?雅人は弱くなんかないよ」

「…ありがとう、美姫ちゃん」



俺は腕の力を緩めて美姫ちゃんから自分の体を引き離す。

素直に美姫ちゃんは離れてくれて不思議そうな顔をしながらも照れ笑いをした。



「雅人も大きくなったね」

「いつの間にか美姫ちゃんの身長越してた」

「もっと伸びるよ。そしたらモテモテだな~」

「そうだと、いいな」

「自信持ちなよ!私が保証する。あ、でも雅人は好きになった人にはデレデレしそう」

「俺もそうだと思う。クールな性格じゃないから」

「それも良いところ!そういえば巫女様は…….」

「先に社へ戻って行ったよ。気を利かせてくれたみたい」

「後でお礼言わなきゃね。でも、雅人が無事で本当に良かった」



美姫ちゃんはまた可愛い笑顔で笑ってくれる。

俺もつられて笑顔になった。

2人で並んで社の入り口まで歩いて中に入る。

いつも通り勝手に開かれた扉の向こうには綺麗になっている部屋の真ん中に巫女様が微笑んで座っていた。



「おかえりなさい」

「ただいま戻りました」

「巫女様、遅くなってすみません」

「良いんです。2人の邪魔をする権利は私にはありません」



巫女様は静かに首を振る。

当たり前だけど、全く怒ってない様子だ。

俺と美姫ちゃんは座布団に座った。



「ひとまず村人、雅人、美姫に怪我が無くて心底安心しました。私も村に出向いてこの目で確認しましたが、そこまで大きな被害ではありません。しかし久しぶりに見る村の姿がああなっていると心が痛みますね……」

「巫女様…」

「ええ、大丈夫。心配してくれてありがとう美姫。なってしまったものは仕方ありません。大事なのはこれからどうするかです。村人達なら上手くやってくれるでしょう」

「はい。私も出来る限りお手伝いします」



美姫ちゃんは意気込むように巫女様と話す。

でも俺は黙ったまま。

村に被害が及ぶ強風が俺達の仕業と知ったら美姫ちゃんはどんな風になってしまうかと想像する。

お世話になって、家族同然の村人達を傷つける元凶が俺達だったら……。

考えただけで恐ろしいし、息が詰まりそうだ。



「雅人、大丈夫?」

「う、うん」

「体調悪い?もしかしたら、さっきの強風で気分悪くなった?」

「そう言うわけじゃないんだ」

「じゃあ何?」

「その…」



言って良いのか、俺。

いつもの自問自答が始まるけど一向に答えは出ない。

ここで話題を途切れさせることも出来るけど美姫ちゃんは納得いかずに聞いて話を元に戻すと思う。

現実を言うか。

それとも美姫ちゃんの心を守る。

2択に絞られても選び難いことだった。

………無理ならば俺が決めなくてもいいだろ?

頭の中に悪魔が浮かび囁いてくる。

俺は隣を座る美姫ちゃんに向けて体を動かすと戸惑う美姫ちゃんの姿を見た。



「美姫ちゃん。俺はさっき霊獣白虎様に会ったんだ。そこで言われた事がある。でもそれは辛い内容なんだ。美姫ちゃんが聞きたいなら話すし、嫌なら俺の中で留めておくよ」

「辛い、内容……」

「巫女様。美姫ちゃんが聞く選択をしたら、俺が話して良いですか?」

「勿論です」

「ありがとうございます」



巫女様の了承を得て俺は美姫ちゃんの返事を待つ。

美姫ちゃんは迷っている。

しかし俺はわかっていた。

美姫ちゃんの性格上絶対に本当の事を俺に問いかける事を。

それでも迷おうとするのは俺が前置きに言った『辛い』が自分の中でグルグルと回っているのだろう。

美姫ちゃんに選択を委ねた俺はズルい。

それは自分が1番わかってる。

バシッと決めた方がカッコいいのだって知ってる。

だから弱虫なんて自覚するんだ。

とっくに言わなければいけないことは読めている俺は優柔不断を通り越した性格。

そんな自分に呆れていると美姫ちゃんの小さな口が開く。



「今の、生活が壊れるなら、聞きたくない」



巫女様の社の中で舞った美姫ちゃんの言葉は予想にはなかったもの。

しかし俺は驚くことはなく、巫女様と目を合わせる。

巫女様はきっと俺が言おうとしていることは全てわかっているはずだ。

白虎様と常に繋がっているのだから。

巫女様は自分の目をゆっくりと閉じた。

そんか姿を見て俺は美姫ちゃんに視線をずらす。

不思議と冷静だった俺はまた美姫ちゃんに問いかけた。



「理由を聞かせてくれる?」



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