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5章 炎王子と女騎士団長
20話 応えられない想い
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父上がアイシクルへの訪問が決まった後、色々な打ち合わせを終え、僕は1人で治療室に来ていた。
月が昇っているこの時間は城の中がとても静かだ。個室で寝ているフレイヤは静かに目を瞑っている。しかし僕の足音に気付いたのかゆっくりと目を開けてこちらを見た。
「フレイヤ」
「イグニ王子。わざわざありがとうございます」
「今話し合いが終わった。老医師は居ないのだな」
「たった今帰ったところです」
「そうか。…起き上がらなくて良い。横になっててくれ」
僕は近くの椅子に座って話し合いの結末をフレイヤに伝える。やはりフレイヤも父上が直々にアイシクルに出向くとは思ってなかったのか口を軽く開けて固まっていた。
「話し合いはこんな感じで終わった。明日、アイシクルへ向かうらしい」
「そうでしたか。騎士団長として護衛をする立場なのに申し訳ありません」
「フレイヤのせいではない。謝るな」
「はい…」
本当にこの人は真面目すぎる。重いものを自分から背負うタイプだ。僕のように楽観的に物事を見るのも苦手だろう。
「霜の方は大丈夫か?」
「少しだけ赤くなっているだけで問題ありません。これなら数日すれば消えるでしょう」
その答えに僕はホッとした。以前傷をなるべく作りたくないと言っていたフレイヤの気持ちを聞いたから跡に残ってしまえば溶かした僕の責任になる。
それは婚約者としてではなく、女性の体に傷をつくるというのが許せないだけだ。フレイヤは片腕を見せてくれて大丈夫ということを示してくれた。
「イグニ王子のお陰で私の命が救われました。あの時、きっと国王様を待っていたらきっと凍えて死んでいたかもしれません。本当にありがとうございます」
「良いんだ。この力が人を助けられるとわかったのもフレイヤの氷を溶かしたお陰だ。こちらこそだよ」
「いずれは国王様のようにマグマのような炎が出るんですよね」
「訓練次第ではな。炎帝の丘で見た父上の炎…あれは凄まじかった」
「離れた私達まで熱かったですから。きっと国王様は沢山の努力をしたのだと、思える炎でした」
するとフレイヤは僕の片手を取って手のひらを撫でるように触る。それがくすぐったくて顔を少し歪めてしまった。
「どうした?」
「あれだけ力を使われたので火傷を負ってないか心配になりました」
「ヒートヘイズ王族は体質的に熱に強い。あのくらいなら長時間使っても火傷はしない」
「なら良いんです。私のためにイグニ王子が怪我をしたとなったら申し訳なくて…」
「人を助けて出来た怪我は名誉だ。それはフレイヤも同じ。背中の傷も誇って良いと言っただろう?」
「……ふふっ」
「なんか変なことでも言ったか?」
「いえ。私は幼い頃から騎士の見習いとしてここに居たので小さいイグニ王子も知っています。イグニ王子はそんな小さい頃から優しいのは変わってないなと思いまして」
唐突に褒められるとどういう反応をして良いのか迷う。フレイヤは僕が幼い頃、小さな騎士見習いとしてこの城にやってきた。
あまり接点は無かったものの会えば話すという関係だった僕達。まさか婚約者の関係になるとは全く想像してなかった。
「本当、優しすぎるくらいに」
「自分ではよくわからないな。もしかしたらフレイヤが見た優しい僕は偽りかもしれないぞ?」
「でもイグニ王子はこうやって私を気にかけてくれます」
これは何言ってもダメなやつだ。フレイヤは僕より年上だからなのか余裕があるように見える。
自室で話し合ったあの時も主導権は完全にフレイヤに握られていた。
「それを言ったらフレイヤだって優しいじゃないか」
「イグニ王子だけです」
「………」
完敗。これはフレイヤのアタックが始まっている。
僕は心の中でヒダカとヒメナを呼んだが、助けが来ることはなかった。雪女様との逢瀬ではいつも僕がアタックしている側なのに…。
「ぼ、僕はそろそろ」
逃げなければ。次々に襲う恥ずかしさに耐えられなくて僕は椅子を立つ。しかしずっと手を掴んでいたフレイヤが力を入れてそれを止めた。
「イグニ王子」
「…何だ?」
「好きです」
フレイヤのその一言は初めて聞いた言葉だった。立っている僕は見下ろすようにフレイヤを瞳に映す。
若干の恥ずかしさを含んだ彼女の顔は騎士でもない、政略的な許嫁でもない。恋をする女性の顔をしていた。
「……ありが、とう」
同じ言葉は返せなかった。返すのが普通でも“好き”の動きが出来なかったのだ。掠れた声で感謝の意思を伝えればフレイヤは少し微笑んで手を離す。
「イグニ王子に火のご加護があらんことを」
僕は小さく頷いて治療室を出ていく。扉を閉めてフレイヤと壁が出来た途端僕は膝から崩れ落ちるようにしゃがみ込んでしまった。
フレイヤは僕を好いている。それが今、やっと確信したのだ。遅いくらいに気付いたフレイヤの恋心は僕の迷いをより深くさせる。すると扉の奥からは鼻を啜るような音が聞こえた。
「フレイヤ……」
呟いた僕の声は1枚の扉に阻まれて届くことなく消えていく。フレイヤは泣いていた。
とても静かに涙を流しているのがわかる。僕は彼女に気付かれないように腰を上げるとすぐさまその場を立ち去ってある場所に向かった。
月が昇っているこの時間は城の中がとても静かだ。個室で寝ているフレイヤは静かに目を瞑っている。しかし僕の足音に気付いたのかゆっくりと目を開けてこちらを見た。
「フレイヤ」
「イグニ王子。わざわざありがとうございます」
「今話し合いが終わった。老医師は居ないのだな」
「たった今帰ったところです」
「そうか。…起き上がらなくて良い。横になっててくれ」
僕は近くの椅子に座って話し合いの結末をフレイヤに伝える。やはりフレイヤも父上が直々にアイシクルに出向くとは思ってなかったのか口を軽く開けて固まっていた。
「話し合いはこんな感じで終わった。明日、アイシクルへ向かうらしい」
「そうでしたか。騎士団長として護衛をする立場なのに申し訳ありません」
「フレイヤのせいではない。謝るな」
「はい…」
本当にこの人は真面目すぎる。重いものを自分から背負うタイプだ。僕のように楽観的に物事を見るのも苦手だろう。
「霜の方は大丈夫か?」
「少しだけ赤くなっているだけで問題ありません。これなら数日すれば消えるでしょう」
その答えに僕はホッとした。以前傷をなるべく作りたくないと言っていたフレイヤの気持ちを聞いたから跡に残ってしまえば溶かした僕の責任になる。
それは婚約者としてではなく、女性の体に傷をつくるというのが許せないだけだ。フレイヤは片腕を見せてくれて大丈夫ということを示してくれた。
「イグニ王子のお陰で私の命が救われました。あの時、きっと国王様を待っていたらきっと凍えて死んでいたかもしれません。本当にありがとうございます」
「良いんだ。この力が人を助けられるとわかったのもフレイヤの氷を溶かしたお陰だ。こちらこそだよ」
「いずれは国王様のようにマグマのような炎が出るんですよね」
「訓練次第ではな。炎帝の丘で見た父上の炎…あれは凄まじかった」
「離れた私達まで熱かったですから。きっと国王様は沢山の努力をしたのだと、思える炎でした」
するとフレイヤは僕の片手を取って手のひらを撫でるように触る。それがくすぐったくて顔を少し歪めてしまった。
「どうした?」
「あれだけ力を使われたので火傷を負ってないか心配になりました」
「ヒートヘイズ王族は体質的に熱に強い。あのくらいなら長時間使っても火傷はしない」
「なら良いんです。私のためにイグニ王子が怪我をしたとなったら申し訳なくて…」
「人を助けて出来た怪我は名誉だ。それはフレイヤも同じ。背中の傷も誇って良いと言っただろう?」
「……ふふっ」
「なんか変なことでも言ったか?」
「いえ。私は幼い頃から騎士の見習いとしてここに居たので小さいイグニ王子も知っています。イグニ王子はそんな小さい頃から優しいのは変わってないなと思いまして」
唐突に褒められるとどういう反応をして良いのか迷う。フレイヤは僕が幼い頃、小さな騎士見習いとしてこの城にやってきた。
あまり接点は無かったものの会えば話すという関係だった僕達。まさか婚約者の関係になるとは全く想像してなかった。
「本当、優しすぎるくらいに」
「自分ではよくわからないな。もしかしたらフレイヤが見た優しい僕は偽りかもしれないぞ?」
「でもイグニ王子はこうやって私を気にかけてくれます」
これは何言ってもダメなやつだ。フレイヤは僕より年上だからなのか余裕があるように見える。
自室で話し合ったあの時も主導権は完全にフレイヤに握られていた。
「それを言ったらフレイヤだって優しいじゃないか」
「イグニ王子だけです」
「………」
完敗。これはフレイヤのアタックが始まっている。
僕は心の中でヒダカとヒメナを呼んだが、助けが来ることはなかった。雪女様との逢瀬ではいつも僕がアタックしている側なのに…。
「ぼ、僕はそろそろ」
逃げなければ。次々に襲う恥ずかしさに耐えられなくて僕は椅子を立つ。しかしずっと手を掴んでいたフレイヤが力を入れてそれを止めた。
「イグニ王子」
「…何だ?」
「好きです」
フレイヤのその一言は初めて聞いた言葉だった。立っている僕は見下ろすようにフレイヤを瞳に映す。
若干の恥ずかしさを含んだ彼女の顔は騎士でもない、政略的な許嫁でもない。恋をする女性の顔をしていた。
「……ありが、とう」
同じ言葉は返せなかった。返すのが普通でも“好き”の動きが出来なかったのだ。掠れた声で感謝の意思を伝えればフレイヤは少し微笑んで手を離す。
「イグニ王子に火のご加護があらんことを」
僕は小さく頷いて治療室を出ていく。扉を閉めてフレイヤと壁が出来た途端僕は膝から崩れ落ちるようにしゃがみ込んでしまった。
フレイヤは僕を好いている。それが今、やっと確信したのだ。遅いくらいに気付いたフレイヤの恋心は僕の迷いをより深くさせる。すると扉の奥からは鼻を啜るような音が聞こえた。
「フレイヤ……」
呟いた僕の声は1枚の扉に阻まれて届くことなく消えていく。フレイヤは泣いていた。
とても静かに涙を流しているのがわかる。僕は彼女に気付かれないように腰を上げるとすぐさまその場を立ち去ってある場所に向かった。
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