【完結】雪女と炎王子の恋愛攻防戦

雪村

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9章 歯車を止める氷

43話 猿と王子

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流石に馬に乗っていても女王との戦いに体力を取られたのか息切れがする。僕は途中で降りると、馬を木に繋げることも忘れて氷の塔へと走っていった。


「ああ!邪魔だ!」


背中で揺れる赤と黒のマントが鬱陶しく感じてしまい勢いよくむしり取る。それを握りながら腕を懸命に振って、地面の氷に足を滑らせながらやっと氷の塔がある開けた場所に着いた。


「なんか様子が…」


やっと着いた氷の塔はいつもより静かで、逆に不気味になってくる。それに変なのは氷の塔の扉の外側に無数の氷柱が突き刺さっているのだ。

もしかして雪女様は何処かへ行った?侵入者が入らないようにと扉を閉めたのか?僕は更に近づいて上を見上げる。


「雪…」

「こんなところにヒートヘイズの王子が居ては戦にならないぞ?」


雪女様の名前を呼ぼうとした途端、僕の首に冷たい何かが当てられる。全く気配なんてしなかったし、氷を踏む足音さえ聞こえなかった。


「誰だ?」

「関所で会った者だ」

「グレイシャー公爵か」

「覚えてくれていて嬉しいよ」

「僕を王子だとわかっていても上から目線な態度は嫌でも記憶に残るからな。……殺しに来たのか?」

「まず王子サマがここに居る理由を言え」


脅すように氷で出来た剣であろう物を僕の首に当てる。冷気が僕の体に鳥肌を立てた。

それでも僕は体に纏わせるように炎を放出すればグレイシャー公が離れるのがわかる。振り向けばやはり氷の剣を持って僕に殺意の眼差しを向けていた。


「この塔の主に会いに来た」

「戦争中、呑気に逢瀬か?だいぶ頭の中が平和なことだな」

「お前達の被害妄想ほどではないだろう」

「…女王と接触したのか」

「よくお分かりで。やはりあいつは普段から被害妄想が凄いんだな」

「姉のためならどんな道でも突き進む姉妹愛よ」


ニタニタと笑う姿は普通の人が見たら恐怖心が湧き上がるだろう。でも僕は優先すべきことがある。ここで尻込みすることは出来ない。

破いたマントを腰に巻いて手を空け、剣を取り出しグレイシャー公に向ける。


「2択だ。ここで僕にやられるか、大人しく引き下がって僕と雪の女神を会わせるか。選んでくれ」

「笑わせるな。俺は3択目の、グレイシャー公に殺されるを選ぶ」

「つまらない冗談はやめてくれ」


2人で小さな笑みを溢した時、剣と剣が火花を立てた。公爵と言えど剣術は嗜んでいるようでフレイヤに教わった斬撃を容易く受け止められる。

こいつを倒して雪女様が何処に居るのかを聞き出さなければ。


「本当にフロスに似ているな、王子サマ。人を極力傷付けないようにする戦い方は……優しさではなく甘えだぞ!」


グレイシャー公はもう片方の手から鋭い氷柱を出して僕に突きつけるように攻撃してくる。避けるのと攻撃するのを同時にやるのは未熟な僕には難しかった。

攻撃出来たのは最初だけで、完全にグレイシャー公に押された形になる。


「そのまま逃げていたら扉の氷柱に刺さるぞ?王子サマ!」

「くっ……!」


後ろ後ろへと下がっていく僕の体。足は凍った地面で滑りそうになるし、手は剣を受けるだけで精一杯。

体に炎の力を込めようとしてもさっきの放出で限界が来てしまった。無理矢理出そうとしても身体中の皮膚の痛みで着火程度しか出せない。

腕は火傷を負っていて、きっと服の下も軽く焼けてしまっているはずだ。


「ほら大好きな氷だ」


グレイシャー公がそう言った瞬間、手から一際鋭い氷柱が出てくる。それを避けた僕に足を伸ばして蹴り上げられれば体は吹き飛ばされて氷の塔の扉に直撃した。


「はぁ、はぁ…いった…」

「ハッ。神聖なる氷の塔に忌々しい血を付けるなんてな。何してくれるんだよ」


お前がやったんだろ。しかしその言葉の代わりに痛みに耐える声しか出てこない。貫通はしてないものの、僕の背中には氷柱が刺さってしまった。


「まぁ王子サマならこれくらいの氷柱溶かせるだろう?どうせならあの火の鳥みたいなのを出してくれよ。ここも壊して構わないからさ」

「何言って…」

「ヒートヘイズの火山にいる火の鳥で若干計画は狂ったけど……まだ終演には程遠い。戦争は1夜で終わることはないんだ」

「僕が…終わらせる…」

「ならやってみろ。その炎でアイシクルを燃やしてみせろよ」

「それはしない…」

「はぁ」


大きくため息をついたグレイシャー公は僕の近くに来るとより氷柱が刺さるかのように足で体を押してくる。それに僕は悲鳴のような声を上げた。


「言っただろ?考えが甘いって。どちらかが滅ばない限りは戦争は続く。例え片方が降参しても関係なんて元には戻らないんだ。良いか?戦争っていうのは武器だけで終わるものではない」

「バカ言うなよ」

「あ?」

「戦争する理由は力で押さえつけるためだ。それは相手へ恐怖を植え付けて強制的な平伏を意味する。確かにそうすれば楽に片付けられるだろう…」

「だからなんだよ」

「つまり、僕が言いたいのは」


僕は体全体に力を込める。氷柱のお陰で篭っていた熱い体温が戻りつつあった。火傷も冷たさで痛みがわからないくらいに麻痺している。

グレイシャー公に向けて僕は顔を上げると、これでもないくらいにバカにした笑みを向けた。


「猿でも出来る方法はしない。力で捩じ伏せるだけの思考を持つお前みたいな猿はお利口にバナナでも食ってろ!」
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