【完結】雪女と炎王子の恋愛攻防戦

雪村

文字の大きさ
46 / 53
9章 歯車を止める氷

46話 雪女様、当たってます

しおりを挟む
ヒートヘイズとアイシクルの国境に来ると明るさが段違いになる。まだ夜明け前だというのにフェニックスがヒートヘイズの太陽となっていた。


「良かった!逃げてなかった!」


途中で置いて行ってしまった馬は大人しく僕を待っててくれたようでヒートヘイズ領の草を食べている。この馬に乗れば早く目的地に辿り着くことが出来るだろう。


「雪女様!早速馬に…」

「………」

「雪女様?どうかしましたか?」


僕は手を繋ぎながら馬の方に行こうとするけど、途中で雪女様の足が止まる。そんな雪女様の目線の先にはヒートヘイズの簡易砦があった。

今も戦いは続いていて、青白い光が微かに見えている。


「やはり先にあちらへ向かいますか?」

「いいえ。私が行ってもどうにもなりません。ダイヤの元へ行きます。ただ…」

「ただ?」

「ダイヤの所に行っている間、ヒートヘイズ側の人間はアイシクルの攻撃に耐えれますか…?」

「勿論。ヒートヘイズの騎士達は勇敢な者ばかりです。それに今はフェニックスと焔の神が守ってくれています。安心して任せてあげてください」

「……はい。行きましょう」


雪女様は僕の手を強く握って頷く。今度は僕が手を引っ張る番だ。馬に近づいた僕は鞍を外して2人で乗れるようにする。

危ないけれども僕が雪女様を支えていれば問題ない。一旦手を離して僕が馬に乗り込み、再び雪女様に手を伸ばす。


「手を取ってください」

「はい」


雪女様の軽い体を持ち上げるようにして、僕の前に乗せると後ろから抱きしめるような体勢になった。


「今は許してください。飛ばしますので馬に捕まってて。もし危なくなったらすぐに言ってくださいね」

「わかりました。この体勢については黙っておきます」


片手で手綱を握り馬を走らせればヒートヘイズ領に僕と雪女様が駆けていく。もう片方の手は雪女様の平べったいお腹に回して落ちないように支えた。


「こんな時に言うのもなんですが」

「はい?」

「ちゃんと食べてますか?痩せすぎかと」

「本当に意味のない質問ですね。雪の女神は空気と氷さえあれば生きていけます」

「ということは父上の場合空気と炎か……。では雪女様が人間に戻ったらヒートヘイズ名物の篝火クレープを全種類ご馳走します。僕はふくよかになっても構いませんので」

「やめてください」


でも心配になってしまうくらい細いのだ。雪の女神も焔の神もだが、後継者が出てくるまで死ぬことは出来ない。だから食という概念が無くても長く生きれる。

それでも壊れてしまいそうな雪女様の体を見ていると何かを食べさせなければというので頭が埋め尽くされそうだった。


「イグニ、あれを!」

「あれは…」


すると突然雪女様が大きな声を出す。視界に映っているものを僕にも共有するために雪女様は指を差してくれた。そして僕の視界にも驚きの光景が映ってしまう。


「ダイヤ…?」


雪女様が呟いた名を持つ者の仕業だろうか。フレイヤ達が戦っていた場所には大きな氷が聳え立っていた。それは今も生きたように周りを氷で侵食していく。


「雪女様、この先に進むのは危険です。巻き込まれます」

「ならば私1人でも行きます」

「ダメです!貴方が行くのであれば僕も行きます!」

「しかし、イグニの体が…」


僕は馬を止めて改めて自分の体を確認する。火傷を負った皮膚と血が出た背中は雪女様の氷が張られていて、触覚が機能しないほどに麻痺している。

今更だけど自分の体がボロボロなのを理解した。雪女様と一緒に行っても足手纏いになる確率が高い。それでもここで食い下がるのは男として、新国王として情けないことだ。


「行きます。雪女様となら地獄だって行けますから」

「私は地獄に行くつもりはありません」

「ハハッ!では一緒に天国にでも行きましょう!」

「何で死ぬ前提なんですか!?変な考えはやめなさい!」

「そうですね!ではこれを」

「わっ」


僕は腰に巻いていたマントを雪女様に被せる。ビリビリに破かれているけど、血は付いてないからセーフだろう。下の方でマントの端と端を結べばフードのようになった。


「どこで誰が雪女様を見ているかわかりませんからね」

「ならもっと早くやりなさい。……でも、ありがとうございます」

「お似合いですよ」


僕と雪女様は馬から降りて聳え立つ氷を目指す。お利口すぎる馬は見送るように鼻を鳴らしていた。


「そういえば解決しなければならないことに焔の神について言っていましたよね?それはどう言うことですか?」

「あくまで予想ですが…。イグニはあのフェニックスを見て何も思わないのですか?」

「えっと、かっこいいとか?」

「違います!あれほどかき集めた熱と炎と何処に放出するかです!」

「なるほど…!でも時々炎を天に吐き出しています。そのおかげでアイスマンは溶けたのですが」


雪女様と早歩きで向かっている途中、ふと気になったことを問いかけてみる。今は手を繋いでないので何だか片手が寂しかった。

僕の問いに雪女様は火山にあるフェニックスを見上げながら厳しそうに唇を強く閉じる。それが何を意味しているのかはまだ僕はわからなかった。


「ヒートヘイズ領に入ってから2回ほど炎を吐き出すのを見ました。あれは凄まじいほどに火力があります。しかし火力があるからこそ、1回の炎の息が少ない」

「確かに」

「それに今はアイスマンが無数に居る空間です。フェニックスの炎、アイスマンの存在がヒートヘイズ領の気温を一定に保っています」

「じゃあ女王を説得したとして、アイスマンが居なくなったらヒートヘイズは…」

「フェニックスの熱で丸焦げでしょうね」


雪女様の仮説は現実的で本当に起こってしまうかもしれない。丸焦げになるヒートヘイズを想像するとゾワっとする。

となるとまずは父上を止めなければならないのか?でもアイシクルの侵略にも手をつけなければ騎士達の命が危ない。解決策が思い浮かばない僕の腕からは水が垂れた。


「イグニ。あまり感情的にならないように。氷が溶けてしまいます」

「あ、はい。すみません…」


僕は自然と力を入れていたみたいで若干氷が溶けたようだ。雪女様は僕の腕に触れて新しく氷を付けてくれる。この火傷は残ってしまうだろうな。

でも誰かを助けるために得た傷は誇りだ。僕は手を握りしめて自分を肯定する。すると隣で雪女様がため息をついた。


「だから力を入れないでください!」

「す、すみません!つい!」

「ああ!もう!」


雪女様は怒ったように僕の腕に近づいて自分の腕を絡める。手を繋ぐ時よりもピッタリとなった僕達の距離は今までで1番近くなった。


「雪女様…?」

「私も徐々に力がコントロール出来なくなってるんです。これなら直接冷気を当てられます。迷惑かけないでください」

「あ、あ、あた…」

「イグニ?」


きっと雪女様は勢いで腕を組んだ。そう、何も考えなかったのだ。だから柔らかい感触が僕の腕に当たる。


「あた、たかい、です」

「は?」


当たっているなんて言ったら離れてしまうのは目に見えた。それが嫌な僕は誤魔化すように直前で言葉を変える。雪女様は僕がおかしくなったと思ったのだろう。平常に戻るように冷気をより強くした。

結局、胸が当たっていることを僕は言わなかったので雪女様は気付かずに歩き続ける。バレたら氷漬けだ。

僕は幸せに浸りながらもバレた時のことを考えて肝を冷やしながら歩いて行ったのだった。僕は、元王子であり新国王。そして紛れもなく男だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

処理中です...