【完結】優しい君に「死んで」と言われたある夏の日

雪村

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夏休み前

頬を緩ます頼み事

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夕食の時間。

リビングのテーブルには2人前のお寿司とサイドメニューの唐揚げが置いてあった。

久しぶりの豪華食事だ。

一応裕福だからと言っても毎日良いものを食べているわけじゃない。

作るのは自分だから簡単で時間もかからない料理を作ってしまう。

それを盛り付けないでフライパンに置いたまま食べることもあった。

案外普通の家庭と変わらないのだ。

今、目の前にあるお寿司だって多分有名チェーン店だと思う。

裕福=豪華なのは家の外観だけだと覚えて欲しい。

特に涼あたりには。



「「いただきます」」



好きな寿司ネタから食べるのが私の食べ方。

口に色んな味が無い状態で好きなお寿司を食べる。

最高だ。

頬を緩ませる私に対してお父さんはデフォルトの無表情で食べている。

久しぶりに一緒の夕食でも会話は無い。

するとお父さんは箸を置いて冷蔵庫に向かう。

そこからビールを取り出してまた食卓の椅子に座った。

プシュとビールが開く音と同時にお父さんは口を開ける。



「夏休みの予定は?」

「友達と海行くくらい」 

「そうか」



お昼の時と同じ返事で返すお父さん。

もう少し会話を広げようとする意識は無いらしい。

これでこの会話は終わりだ。

私は少し呆れ気味で中トロを食べる。

お父さんは缶のままビールを飲んだ。
  


「お前の夏休みの時間を削ってもいいか?」

「どう言うこと?」



まさかの話には続きがあったらしく私は中トロを味わえずに飲み込んでしまう。

もったいない事をしてしまった。

それでもお父さんの話に耳を傾けて、目もちゃんと見る。

またお父さんはビールを1口飲むと缶を置いて腕を自分の腕を組んだ。



「実は桜に手伝って欲しいことがある」

「な、何?」

「私の仕事の事だ。桜が身近な人で1番適任だと思う」

「何をさせられるの?」

「簡単に言えばコミュニケーションをとって欲しい。ある人物とな。ただ実際に見てもらった方が説明はしやすいんだ。もし良ければ明日でも仕事場に来てくれないか?」

「怖い人じゃない?」

「全くだ。一度会ってみて無理だと思ったら断っても良い。どうだ?夏休みの間で十分だ」



お父さんの言葉に私は少し下を向いて悩む。

コミュニケーションをとるなんてそこまで私はお喋りではない。

仲良くなればベラベラと喋るけど。

でも他でないお父さんからの頼みだ。

こんなのは今までなかった。

私を頼ってくれている。

そう思ってしまえば答えは1択だった。



「明日会ってみて…」

「わかった。ありがとう桜。助かる」



私が了承してもお父さんの顔は変わらなかった。

それでもお父さんからの「ありがとう」を受け取れただけ嬉しく感じる。

私は違う意味で頬を緩ませた。
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