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4章 反社会政府編 〜生徒との関係〜
35話 書庫談笑
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「それじゃあシンリンさんはカムラ王都っていう場所から来たんすね」
「カムイ王都だ」
「ハルサキさんもカムイ王都出身っすか?」
「俺は都内で産まれた」
午前中にある俺の授業が終わり現在は昼ご飯を食べた後の正午過ぎ。俺とカナト、ハルサキは書庫に訪れていた。
俺はミロクニから借りた本を読み進めるために。カナトは暇だから着いてきただけ。ハルサキは静かな空間に居たいらしく書庫にいる。
しかし実際はカナトが喋りかけてくるので完全に無音の状態ではない。俺も一言二言交わすが、ほとんどは適当な相槌で返していた。
喋る本人は1冊も本を持って来ないでただ机に上半身を寝そべらせている。まぁでも、こいつはまだAクラスに馴染めているわけじゃない。少しずつではあるが他の生徒達はカナトの事を理解してはいる。しかし自分勝手な行動や言葉がたまに現れるためまだまだ距離は空いている感じだ。
ヒマワリとは違う種類の暴走なので、俺も手を焼いていないと言ったら嘘になる。だからAクラスの生徒達が居座る教室に居るよりも少人数の場所に居た方が彼にとっては楽なようだった。
「カナトはあまり戸惑ってないようだな。この人の出身について」
「だって変わり者のAクラスの先生っすからね。驚きもしませんよ」
「……そうか」
「でも今のところ、変わっているのって言ったらレオンさんとリンガネさんくらいっすね。あの2人は色んな意味を含めて厄介です」
「お前も十分厄介だ」
「本当シンリンさんって自分に素直っすよね。だからセンリさんに怒られるんじゃないんですか?」
「俺は嫌われるためにやっているのだ。自分に正直になって嫌われるのなら一石二鳥」
「そろそろ貴方の嫌われようとする考えは終わりにした方が良いと思う。やるだけ無駄な気がする。ご両親もまだ見つかってないのなら尚更」
「…まぁ、父上と母上が見つかっていないのは事実だが」
ここに来て2週間を経とうとしているが、未だに父上と母上の行方は不明だ。時々食堂で出くわすリコン学長に問い詰めても首を振るだけ。
ここが死者の世界ならいてもおかしくないはずなのにずっと見つからないのはより心配になってくる。そういえばこいつらはどういう理由で死んだのだろう。俺は賊によって殺された身だが、全員が同じ死に方ではない。でも流石にそれは聞けなくて俺は口を紡ごうとした。
「……じゃあ何故ヒマワリは…?」
「シンリンさんが呼んでる本ってミロクニさんが紹介したんすよね?」
「えっ、ああ。そうだ」
「今のところ半分以上読んでますけど、どんな感じなんですか?」
「簡単に言えば英雄の物語だな。王道の悪役を倒す英雄譚だ」
「そういうのが好きなのか、ミロクニさん」
「ミロクニはAクラスの中でも物語好きだ。以前リンガネとヒーローについて語り合っていた」
「へぇ、意外っす」
俺もそう思う。物静かなミロクニがこの本のように激しい戦いを好んで読むのは意外だ。読み続けていてわかったのは、この物語は戦闘描写が多い。時折休息のように日常的なものも挟んだくるが殆どが英雄の戦いについてだった。
けれども悪くはない。むしろ熱くなるのを感じる。カムイ王都で英雄と言えばやはり王家の人間達であり、勿論俺も皇子として英雄扱いされることが多かった。誰もが首を垂れて崇拝される王家。
しかし最近、それで本当に良かったのかと疑問を持ち始めている俺がいた。こいつらAクラスの生徒達と関わることによって不思議と初めての感情が泉のように湧き出る。王家について疑問に思ったことなんて一度も無かったのに。でも湧き出た気持ちをどうするのかと言われても俺にはわからなかった。
「大丈夫か?」
「何がだ」
「貴方の顔が段々と険しくなっている。もしかしてクライマックスの時点なのか?」
「くらいなんとかはわからないが、そろそろ終わりに近づいている。……でも少し集中力が切れたみたいだ」
「なら別の話でもしますか?」
「別の話?」
ずっと机に伏していたカナトは起き上がって何かを企む笑顔をした。こいつはレオンと違って貼り付けている笑顔ではない。他の感情を含んだ笑顔を見せてくるので次に起こるのが幸か災いかはわかってしまう。今の場合、災いに分類される笑みだ。
「やっぱり男子だけの集まりだったら女子の話っすよ」
「は?」
「俺は別に興味ない」
「ハルサキさんだって立派な思春期男子じゃないっすか。タイプの女性1人くらいいるでしょ?」
「いない」
「またまたぁ~」
「そういうカナトはどうなんだ。どうせ俺と同じで誰も居ないだろ」
「僕はAクラスで言えばアサガイちゃんが良いかな。まともそうだし」
「アサガイ委員長はまともだ」
「シンリンさんもそう思うっすよね!顔も申し分ないくらいの美人で性格もまとも。Aクラスに居なければモテそうだけど」
「……俺の推測だとアサガイ委員長は誰か好きな人いるぞ」
「「え?」」
ハルサキの言葉に俺とカナトは同時に声を出した。カナトは少し落ち込んだように頭を抱える。俺はあの真面目な性格でも好きな人がいるアサガイ委員長に驚きを隠せなかった。
「カムイ王都だ」
「ハルサキさんもカムイ王都出身っすか?」
「俺は都内で産まれた」
午前中にある俺の授業が終わり現在は昼ご飯を食べた後の正午過ぎ。俺とカナト、ハルサキは書庫に訪れていた。
俺はミロクニから借りた本を読み進めるために。カナトは暇だから着いてきただけ。ハルサキは静かな空間に居たいらしく書庫にいる。
しかし実際はカナトが喋りかけてくるので完全に無音の状態ではない。俺も一言二言交わすが、ほとんどは適当な相槌で返していた。
喋る本人は1冊も本を持って来ないでただ机に上半身を寝そべらせている。まぁでも、こいつはまだAクラスに馴染めているわけじゃない。少しずつではあるが他の生徒達はカナトの事を理解してはいる。しかし自分勝手な行動や言葉がたまに現れるためまだまだ距離は空いている感じだ。
ヒマワリとは違う種類の暴走なので、俺も手を焼いていないと言ったら嘘になる。だからAクラスの生徒達が居座る教室に居るよりも少人数の場所に居た方が彼にとっては楽なようだった。
「カナトはあまり戸惑ってないようだな。この人の出身について」
「だって変わり者のAクラスの先生っすからね。驚きもしませんよ」
「……そうか」
「でも今のところ、変わっているのって言ったらレオンさんとリンガネさんくらいっすね。あの2人は色んな意味を含めて厄介です」
「お前も十分厄介だ」
「本当シンリンさんって自分に素直っすよね。だからセンリさんに怒られるんじゃないんですか?」
「俺は嫌われるためにやっているのだ。自分に正直になって嫌われるのなら一石二鳥」
「そろそろ貴方の嫌われようとする考えは終わりにした方が良いと思う。やるだけ無駄な気がする。ご両親もまだ見つかってないのなら尚更」
「…まぁ、父上と母上が見つかっていないのは事実だが」
ここに来て2週間を経とうとしているが、未だに父上と母上の行方は不明だ。時々食堂で出くわすリコン学長に問い詰めても首を振るだけ。
ここが死者の世界ならいてもおかしくないはずなのにずっと見つからないのはより心配になってくる。そういえばこいつらはどういう理由で死んだのだろう。俺は賊によって殺された身だが、全員が同じ死に方ではない。でも流石にそれは聞けなくて俺は口を紡ごうとした。
「……じゃあ何故ヒマワリは…?」
「シンリンさんが呼んでる本ってミロクニさんが紹介したんすよね?」
「えっ、ああ。そうだ」
「今のところ半分以上読んでますけど、どんな感じなんですか?」
「簡単に言えば英雄の物語だな。王道の悪役を倒す英雄譚だ」
「そういうのが好きなのか、ミロクニさん」
「ミロクニはAクラスの中でも物語好きだ。以前リンガネとヒーローについて語り合っていた」
「へぇ、意外っす」
俺もそう思う。物静かなミロクニがこの本のように激しい戦いを好んで読むのは意外だ。読み続けていてわかったのは、この物語は戦闘描写が多い。時折休息のように日常的なものも挟んだくるが殆どが英雄の戦いについてだった。
けれども悪くはない。むしろ熱くなるのを感じる。カムイ王都で英雄と言えばやはり王家の人間達であり、勿論俺も皇子として英雄扱いされることが多かった。誰もが首を垂れて崇拝される王家。
しかし最近、それで本当に良かったのかと疑問を持ち始めている俺がいた。こいつらAクラスの生徒達と関わることによって不思議と初めての感情が泉のように湧き出る。王家について疑問に思ったことなんて一度も無かったのに。でも湧き出た気持ちをどうするのかと言われても俺にはわからなかった。
「大丈夫か?」
「何がだ」
「貴方の顔が段々と険しくなっている。もしかしてクライマックスの時点なのか?」
「くらいなんとかはわからないが、そろそろ終わりに近づいている。……でも少し集中力が切れたみたいだ」
「なら別の話でもしますか?」
「別の話?」
ずっと机に伏していたカナトは起き上がって何かを企む笑顔をした。こいつはレオンと違って貼り付けている笑顔ではない。他の感情を含んだ笑顔を見せてくるので次に起こるのが幸か災いかはわかってしまう。今の場合、災いに分類される笑みだ。
「やっぱり男子だけの集まりだったら女子の話っすよ」
「は?」
「俺は別に興味ない」
「ハルサキさんだって立派な思春期男子じゃないっすか。タイプの女性1人くらいいるでしょ?」
「いない」
「またまたぁ~」
「そういうカナトはどうなんだ。どうせ俺と同じで誰も居ないだろ」
「僕はAクラスで言えばアサガイちゃんが良いかな。まともそうだし」
「アサガイ委員長はまともだ」
「シンリンさんもそう思うっすよね!顔も申し分ないくらいの美人で性格もまとも。Aクラスに居なければモテそうだけど」
「……俺の推測だとアサガイ委員長は誰か好きな人いるぞ」
「「え?」」
ハルサキの言葉に俺とカナトは同時に声を出した。カナトは少し落ち込んだように頭を抱える。俺はあの真面目な性格でも好きな人がいるアサガイ委員長に驚きを隠せなかった。
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