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4章 反社会政府編 〜生徒との関係〜
37話 弱る委員長
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「リコン学長か…」
「カナトもシンリンに心を開いているようで安心したわ。まさかクラスを変更して1日で心を開くのは予想外だったけど」
「学長と違ってシンリンさんは関わりやすいからっす。……何笑ってるんすか?」
「いいえ。何でもないわ。それじゃあ私はここで。これからセンリとお茶会なの」
「医務室の大量の茶菓子はやはりそれのためか」
「バレてたのね。でも取っちゃダメよ」
「怒られるのは目に見えてる。わざわざそんな事はしない」
「なら良かった。それじゃあね」
リコン学長は手を振りながら俺達とは逆の方向にある医務室へと向かって行った。チラッと後ろにいるハルサキを見てみると、顔を下に向けていて目を合わせてくれない状態だ。そんなハルサキにカナトは満足そうにニヤついて俺に目配せをする。
(殴られたくないのなら何も言わない方が良いっすよ)
(わかってる)
目を合わせて言葉を交わさずとも通じ合えた俺とカナトは軽く頷いてまた歩き出した。
「行くぞハルサキ」
「…そうだな」
やっと顔を上げてくれたハルサキは歩く廊下の先に目を向けると何やら驚いた表情をする。それに釣られた俺達もハルサキの視線の先に首を回した。
「アサガイ委員長か?」
廊下の突き当たりで3人の男子生徒と1人の女子生徒が何やら話をしている。その1人の女子生徒は見間違えるはずもない、アサガイ委員長。しかし4人の中はあまり良い雰囲気とは言えなかった。
何やらアサガイ委員長が壁に追いやられているようでそれを囲むように3人の男子生徒が立っている。ここからではアサガイ委員長の顔が陰になって表情がよくわからない。俺はカナト達と一緒に少しずつアサガイ委員長に近づいた。
「ーーだろ?やっぱりーーーないな」
「お前ーーなんか?」
「こいつはーー」
「へぇ、ならーー」
近づいてもボソボソと話しているので肝心の部分は聞き取れない。でも取り囲む見た目からしてハルサキもカナトも不審に思っているようだ。
「やめてください…」
アサガイ委員長の小さな声が聞こえるところまで足が辿り着くと、俺は途端に早歩きになった。
「シンリンさん?」
後ろからカナトが俺の名を呼ぶが振り向きもせずに歩く。3人の男子生徒の背後に立った俺は真ん中に立つ奴の肩を強く掴んだ。
「イテッ、誰だよ」
「Aクラスの指導者シンリンだ。何をしている?」
「はぁ?別に何もしてねぇし」
「しかしアサガイ委員長はやめろと言っていた。ならば早々に立ち去るべきだと思うが?」
「だから何もしてねぇって言ってんだろ!しつこいんだよ。これだからAクラスの関係者は…」
「Aクラスの関係者は何だ?」
「ゴミみてぇな思考しかねぇんだな、お前らは!」
「ちょっと!やめてください!」
「黙ってろ。夏華」
「っ…!」
「なつか?」
1人の男子生徒が低い声で誰かの名を口に出す。それと同時にアサガイ委員長は縮こまるように前で両手を強く握った。その姿に俺はこいつら3人に怒りを持ち更に強く肩を握る。
「やめろよ!」
「その程度の力では振り払えないぞ」
「はいはい、シンリンさん。終わりにしましょ」
「これ以上何かしたらまた貴方がセンリ先生に怒られる」
俺が怒りに任せて力を入れていると後から登場したハルサキとカナトが手を伸ばして止めに来る。ハルサキは男子生徒の肩に置く俺の手を剥がして距離を取らせるとその間にカナトが入って3人の男子生徒に笑いながらも睨みを効かせた。
「お、お前Kクラスの…」
「元Kクラスっす。現在はAクラスに移動したんすよ。それよりさ、これ以上シンリンさんの邪魔するなら僕が相手してあげましょうか?これから訓練室に行くっす。骨を折らない程度に遊びましょうよ」
「は、はぁ?」
「おいこいつヤベェって。何人もの教師ボコったって噂あるだろ」
「それ事実っす」
「ひっ…」
「だ、だから変わり者の不幸クラスに入ったんだよ…。ざまぁみろだ」
「……誰が?不幸だって?」
そう言いながらカナトはゆっくりと片腕を上げる。すると殴られると思った男子生徒は真っ青な顔をしながら立ち去って行った。あれだけ威勢を張っていたのに急な手のひら返しじゃないか。それを見たアサガイ委員長は力が抜けたように壁に寄りかかりながらしゃがんだ。
「おい!大丈夫か!?」
俺は自分の膝に顔を埋めるアサガイ委員長に駆け寄るがどうしたら良いかわからずに慌てふためいてしまう。カムイ王都にいた頃、俺の周りではこんな風に誰かが弱みを見せることがなかった。例え小さな子供でも王家の一族の前では泣くことはない。だから目の前で誰かが弱くなっている時、どう対応すれば良いのかを知らないのだ。
以前経験したカナトの涙の時もそうだった。俺は誰かの心を助けることが苦手なんだ。
無駄な動きと思考ばかりしていると意味もなくアサガイ委員長に伸ばしていた手が力無く握られる。俺の大きな手を握ったのは紛れもなくアサガイ委員長で、小さく白い手は震えていた。
「アサガイ委員長」
「すみません、すみません…」
「謝るな。何があったかわからないけど、心が休まるなら手を握ってても構わない」
俺は泣き出すアサガイ委員長の手を痛くない程度に強く握りしめた。隣で様子を見ているハルサキもカナトも、彼女が見せる涙に戸惑っている。あれほどまで凛々しく強いアサガイ委員長の初めての姿に俺は苦しいほどに何もしてあげられない自分の無力さを痛感した。
「カナトもシンリンに心を開いているようで安心したわ。まさかクラスを変更して1日で心を開くのは予想外だったけど」
「学長と違ってシンリンさんは関わりやすいからっす。……何笑ってるんすか?」
「いいえ。何でもないわ。それじゃあ私はここで。これからセンリとお茶会なの」
「医務室の大量の茶菓子はやはりそれのためか」
「バレてたのね。でも取っちゃダメよ」
「怒られるのは目に見えてる。わざわざそんな事はしない」
「なら良かった。それじゃあね」
リコン学長は手を振りながら俺達とは逆の方向にある医務室へと向かって行った。チラッと後ろにいるハルサキを見てみると、顔を下に向けていて目を合わせてくれない状態だ。そんなハルサキにカナトは満足そうにニヤついて俺に目配せをする。
(殴られたくないのなら何も言わない方が良いっすよ)
(わかってる)
目を合わせて言葉を交わさずとも通じ合えた俺とカナトは軽く頷いてまた歩き出した。
「行くぞハルサキ」
「…そうだな」
やっと顔を上げてくれたハルサキは歩く廊下の先に目を向けると何やら驚いた表情をする。それに釣られた俺達もハルサキの視線の先に首を回した。
「アサガイ委員長か?」
廊下の突き当たりで3人の男子生徒と1人の女子生徒が何やら話をしている。その1人の女子生徒は見間違えるはずもない、アサガイ委員長。しかし4人の中はあまり良い雰囲気とは言えなかった。
何やらアサガイ委員長が壁に追いやられているようでそれを囲むように3人の男子生徒が立っている。ここからではアサガイ委員長の顔が陰になって表情がよくわからない。俺はカナト達と一緒に少しずつアサガイ委員長に近づいた。
「ーーだろ?やっぱりーーーないな」
「お前ーーなんか?」
「こいつはーー」
「へぇ、ならーー」
近づいてもボソボソと話しているので肝心の部分は聞き取れない。でも取り囲む見た目からしてハルサキもカナトも不審に思っているようだ。
「やめてください…」
アサガイ委員長の小さな声が聞こえるところまで足が辿り着くと、俺は途端に早歩きになった。
「シンリンさん?」
後ろからカナトが俺の名を呼ぶが振り向きもせずに歩く。3人の男子生徒の背後に立った俺は真ん中に立つ奴の肩を強く掴んだ。
「イテッ、誰だよ」
「Aクラスの指導者シンリンだ。何をしている?」
「はぁ?別に何もしてねぇし」
「しかしアサガイ委員長はやめろと言っていた。ならば早々に立ち去るべきだと思うが?」
「だから何もしてねぇって言ってんだろ!しつこいんだよ。これだからAクラスの関係者は…」
「Aクラスの関係者は何だ?」
「ゴミみてぇな思考しかねぇんだな、お前らは!」
「ちょっと!やめてください!」
「黙ってろ。夏華」
「っ…!」
「なつか?」
1人の男子生徒が低い声で誰かの名を口に出す。それと同時にアサガイ委員長は縮こまるように前で両手を強く握った。その姿に俺はこいつら3人に怒りを持ち更に強く肩を握る。
「やめろよ!」
「その程度の力では振り払えないぞ」
「はいはい、シンリンさん。終わりにしましょ」
「これ以上何かしたらまた貴方がセンリ先生に怒られる」
俺が怒りに任せて力を入れていると後から登場したハルサキとカナトが手を伸ばして止めに来る。ハルサキは男子生徒の肩に置く俺の手を剥がして距離を取らせるとその間にカナトが入って3人の男子生徒に笑いながらも睨みを効かせた。
「お、お前Kクラスの…」
「元Kクラスっす。現在はAクラスに移動したんすよ。それよりさ、これ以上シンリンさんの邪魔するなら僕が相手してあげましょうか?これから訓練室に行くっす。骨を折らない程度に遊びましょうよ」
「は、はぁ?」
「おいこいつヤベェって。何人もの教師ボコったって噂あるだろ」
「それ事実っす」
「ひっ…」
「だ、だから変わり者の不幸クラスに入ったんだよ…。ざまぁみろだ」
「……誰が?不幸だって?」
そう言いながらカナトはゆっくりと片腕を上げる。すると殴られると思った男子生徒は真っ青な顔をしながら立ち去って行った。あれだけ威勢を張っていたのに急な手のひら返しじゃないか。それを見たアサガイ委員長は力が抜けたように壁に寄りかかりながらしゃがんだ。
「おい!大丈夫か!?」
俺は自分の膝に顔を埋めるアサガイ委員長に駆け寄るがどうしたら良いかわからずに慌てふためいてしまう。カムイ王都にいた頃、俺の周りではこんな風に誰かが弱みを見せることがなかった。例え小さな子供でも王家の一族の前では泣くことはない。だから目の前で誰かが弱くなっている時、どう対応すれば良いのかを知らないのだ。
以前経験したカナトの涙の時もそうだった。俺は誰かの心を助けることが苦手なんだ。
無駄な動きと思考ばかりしていると意味もなくアサガイ委員長に伸ばしていた手が力無く握られる。俺の大きな手を握ったのは紛れもなくアサガイ委員長で、小さく白い手は震えていた。
「アサガイ委員長」
「すみません、すみません…」
「謝るな。何があったかわからないけど、心が休まるなら手を握ってても構わない」
俺は泣き出すアサガイ委員長の手を痛くない程度に強く握りしめた。隣で様子を見ているハルサキもカナトも、彼女が見せる涙に戸惑っている。あれほどまで凛々しく強いアサガイ委員長の初めての姿に俺は苦しいほどに何もしてあげられない自分の無力さを痛感した。
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