元聖女、追跡中。

克全

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第1章

8話

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「ウへへへへ。
 随分と奇麗な姉ちゃんだな。
 修道着というのもそそるぜ。
 たっぷり可愛がってやるからよ。
 姉ちゃんも楽しみだろ?」

「俺たちは女の扱いには慣れているかなら。
 天国にいかせてやるよ」

「おう、そうだ、そうだ。
 そうなったらもう神父も司祭も神様も忘れられるぜ」

「おうよ。
 俺たちが姉ちゃんの神様になってやるよ。
 そのガキを殺してな!」

 キャスバルは助けに行こうとした。
 今度こそ姿を現わそうとした。
 これがいい機会だと思った。
 だが、その決意など何の意味もなかった。
 盗賊たちがその場に倒れたのだ。

 今回は狼が助けに現れたわけではない。
 オリビア自身も何もしていない。
 奇病で聖女の力を失う前でも、オリビアは治癒魔法しか使えなかった。
 攻撃魔法も補助魔法も使えなかったはずだ。
 いったい何が起こったのか、練達の忍者キャスバルにもわからなかった。

 「ネイを殺すと言った貴方たちは、この手で殺してしまいたいけれど、ネイに人殺しを見せるわけにはいきませんから、見逃してあげます。
 これからも王太子のために、人を殺し金を集めればいいのです。
 神に見捨てられて滅びる国です。
 今更私が情けをかけてもどうにもなりません。
 かわいそうですが、民は巻き添えで死ぬしかありません」

 オリビアがチラリと私の方を見ます。
 信じられません。
 信じたくありません!
 王太子たちの無能とオリビアに対する不正義は知っていました。
 ですが、盗賊を使って金を集めていたのが王太子だったとは、全く気がついていませんでした。

 いえ、オリビアの言っている事が、嘘だという事もあります。
 自分が陥れられたのです。
 報復に罠を仕掛けた可能性もあります。
 そう自分を納得させようとしても、させることができません。
 重追放刑に処せられてから、ずっと見てきたオリビアです。
 彼女が嘘をつかない事は、嫌になるくらい見てきました。
 自分を恥じるほど見てきたのです。

「直ぐに王都に報告しましょう」

 配下の一人が声をかけてきます。
 私よりも経験を積んだ忍者です。
 本気で殺しあえば、私の方が死ぬことになるでしょう。
 その練達の忍者が、私を殺さんばかりの眼力を込めて献策するのです。
 私情を押し殺し、忠実に任務を果たす忍者が、オリビアに同情し、王太子たちを増悪しているのが分かります。

「そう、だな。
 だがさすがにこれは、父上に握り潰されるかもしれない。
 いや、父上が上奏しても、大臣の誰かが握り潰すかもしれない」

「お任せください。
 私も長く役目を果たしてきました。
 誰にも知られずに、陛下にお知らせする方法を知っております。
 必要ならば、誰が報告したかを隠す事もできます」

「構わん。
 誰も握り潰さなかったら、私の名前で陛下のもとに届く報告だ」

 キャスバルは腹をくくった。
 報告を受けた国王から刺客を送られる可能性すらあるのだ。
 だがそれは、目の前にいる配下も同じだ。
 それだけの覚悟をして、献策しているのだ。
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