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第1章:出会い
第7話:本音と発案
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隠居は見事な手前でお茶を点てて柘植定之丞をもてなした。
柘植定之丞も美しい所作でお茶を頂いた。
大柄で無骨な姿からは想像もつかない優雅な振る舞いだった。
隠居はそれだけで、並の武士とは比べ物にならないくらい、厳しく躾けられたのを読み取っていた。
「それで、何故小林にあのような事をやらせたのだ」
柘植定之丞は十八歳とは思えない堂々とした態度で問いかけた。
「正直なところをお話ししますと、先ほど申し上げた家の跡取り娘が、少々問題の有る男に惚れてしまったのでございます」
「ほう、それは心配だな。
八百屋お七の例もある、隠居が手を尽くすのも仕方がないな」
「その男の無能さと性根の悪さを孫娘に理解させたいと思っていたのですが、都合よく家の前で癩病が行き倒れてくれたのでございます。
山田三方の為にもなり、我が家の為にもなりますので、小林様に動いていただいたのでございます」
「小林の奴、好い面の皮だな」
「孫娘が惚れたのが若様なら、このような事には成らなかったと思いますと、残念でなりません」
「このような見かけだ、八日市小町に惚れられる事はあるまい。
それに、私も同心の家に生まれていたら分からなかったぞ。
目先の袖の下や大店の生活に心を狂わせていたかもしれない」
柘植定之丞は隠居の誘いに全く動じなかった。
幕府を背景にした支配組頭の権力は大きいが、財力だけで言えば山田三方で一二を争う檜垣屋隠居の誘いに、全く迷う事がなかった。
「ご謙遜を」
隠居は満足げな姿で柘植定之丞を称えた。
称えているのが間違いなく柘植定之丞に伝わるような表情を作り態度の表した。
「お爺様、お呼びでございますか」
その直後に躙口からゆうが声をかけてきた。
「ゆうか、お客様がお見えだ、入ってご挨拶をしなさい」
「はい、失礼いたします」
ゆうが作法通りに入って来て挨拶をした。
「檜垣屋富徳の娘、ゆうと申します」
「見習支配組頭の柘植定之丞様だ。
癩病の件でわざわざ訪ねて来てくだされたのだ」
「手間をお掛けしてしまい、申し訳ございません。
先日癩病が宿の前で行き倒れているのを見かけまして、最近癩病が多くなっているのに思い当たり、小林様にご相談させていただいたのでございます」
「その話は隠居から聞いた、結局お前は何がしたいのだ」
「癩病を助けてあげたいのです。
ですが、山田三方に負担をかかる方法は避けたいのです。
私では良い方法が思いつかず、小林様を頼ったのです」
「癩病に苦しむ者達を救いたいという心根は立派だ。
だがそれはお前ひとりの願いでしかない。
そんな願いのために御公儀の力を使わせるわけにはいかない。
小林が己の力で手助けするのは勝手だが、奉行所の力を使う事は許されん」
「はい、申し訳ありません」
「ただ、癩病かどうかは別にして、神領内で勝手に乞食をする事は許されない。
お伊勢参りなら許されるが、本来在所を勝手に出て行く事は許されないのだ。
そのような者は、かねてよりの御公儀の方針通り、野非人として非人小屋に入れるか在所に追い返す」
「ありがとうございます」
「お前に礼を言われるいわれはない。
私は見習支配組頭として当然の事をしただけだ」
「はい、申し訳ございません」
「柘植様、伊勢乞食を取り締まっていただけるのは、檜垣屋としても八日市の町年寄りとしてもありがたい事なのですが、具体的にどうしていただけるのでしょうか」
隠居が小さくなる孫娘を助けるように柘植定之丞に話しかけた。
「特別何ができる訳ではない。
これまで通り取り締まりを行うだけだ」
「これまで通りでございますか」
「そうだ、これまで通り、神領での物乞いは拝田衆と牛谷衆以外は許さないように、町衆が一丸となって取締まる。
檀家衆には案内の手代がついているから、間違って伊勢乞食に銭を撒く事はないだろうが、抜け参りや思い立っての伊勢参りには案内がいない。
そのような者達には、町衆が目を配るしかない」
「それができればいいのですが」
「人手に余裕がある家が抜け参りなどに子供をつければ、神領の非人か伊勢乞食かおしえてやれるではないか」
柘植定之丞は、御師宿に奉公している丁稚を使えばいいと言い出した。
「それだけの余裕がある御師宿がどれほどありますか」
「それは考え方次第だ。
抜け参りや思いついて伊勢参りをするような者達は、伊勢講に入っていない。
そのような者達を檀家にできるのなら、わざわざ東国や西国に行って檀家を集めるよりも、手間も金もかからないのではないか」
「おお、その通りでございます。
いい年をして情けない、全く思いつきませんでした。
人や金を使ってでもやるべき事でございました」
「神領に入って直ぐに、檀家であるかどうかにかかわらず、檀家を持たない手代に案内させれば、手代は自分の檀家を手に入れられ、将来の暖簾分けにつながるぞ」
「柘植様、ありがとうございます。
もう遅くなってしまいました。
お礼にもなりませんが、懐石をお出ししたいのですが、宜しいでしょうか」
柘植定之丞も美しい所作でお茶を頂いた。
大柄で無骨な姿からは想像もつかない優雅な振る舞いだった。
隠居はそれだけで、並の武士とは比べ物にならないくらい、厳しく躾けられたのを読み取っていた。
「それで、何故小林にあのような事をやらせたのだ」
柘植定之丞は十八歳とは思えない堂々とした態度で問いかけた。
「正直なところをお話ししますと、先ほど申し上げた家の跡取り娘が、少々問題の有る男に惚れてしまったのでございます」
「ほう、それは心配だな。
八百屋お七の例もある、隠居が手を尽くすのも仕方がないな」
「その男の無能さと性根の悪さを孫娘に理解させたいと思っていたのですが、都合よく家の前で癩病が行き倒れてくれたのでございます。
山田三方の為にもなり、我が家の為にもなりますので、小林様に動いていただいたのでございます」
「小林の奴、好い面の皮だな」
「孫娘が惚れたのが若様なら、このような事には成らなかったと思いますと、残念でなりません」
「このような見かけだ、八日市小町に惚れられる事はあるまい。
それに、私も同心の家に生まれていたら分からなかったぞ。
目先の袖の下や大店の生活に心を狂わせていたかもしれない」
柘植定之丞は隠居の誘いに全く動じなかった。
幕府を背景にした支配組頭の権力は大きいが、財力だけで言えば山田三方で一二を争う檜垣屋隠居の誘いに、全く迷う事がなかった。
「ご謙遜を」
隠居は満足げな姿で柘植定之丞を称えた。
称えているのが間違いなく柘植定之丞に伝わるような表情を作り態度の表した。
「お爺様、お呼びでございますか」
その直後に躙口からゆうが声をかけてきた。
「ゆうか、お客様がお見えだ、入ってご挨拶をしなさい」
「はい、失礼いたします」
ゆうが作法通りに入って来て挨拶をした。
「檜垣屋富徳の娘、ゆうと申します」
「見習支配組頭の柘植定之丞様だ。
癩病の件でわざわざ訪ねて来てくだされたのだ」
「手間をお掛けしてしまい、申し訳ございません。
先日癩病が宿の前で行き倒れているのを見かけまして、最近癩病が多くなっているのに思い当たり、小林様にご相談させていただいたのでございます」
「その話は隠居から聞いた、結局お前は何がしたいのだ」
「癩病を助けてあげたいのです。
ですが、山田三方に負担をかかる方法は避けたいのです。
私では良い方法が思いつかず、小林様を頼ったのです」
「癩病に苦しむ者達を救いたいという心根は立派だ。
だがそれはお前ひとりの願いでしかない。
そんな願いのために御公儀の力を使わせるわけにはいかない。
小林が己の力で手助けするのは勝手だが、奉行所の力を使う事は許されん」
「はい、申し訳ありません」
「ただ、癩病かどうかは別にして、神領内で勝手に乞食をする事は許されない。
お伊勢参りなら許されるが、本来在所を勝手に出て行く事は許されないのだ。
そのような者は、かねてよりの御公儀の方針通り、野非人として非人小屋に入れるか在所に追い返す」
「ありがとうございます」
「お前に礼を言われるいわれはない。
私は見習支配組頭として当然の事をしただけだ」
「はい、申し訳ございません」
「柘植様、伊勢乞食を取り締まっていただけるのは、檜垣屋としても八日市の町年寄りとしてもありがたい事なのですが、具体的にどうしていただけるのでしょうか」
隠居が小さくなる孫娘を助けるように柘植定之丞に話しかけた。
「特別何ができる訳ではない。
これまで通り取り締まりを行うだけだ」
「これまで通りでございますか」
「そうだ、これまで通り、神領での物乞いは拝田衆と牛谷衆以外は許さないように、町衆が一丸となって取締まる。
檀家衆には案内の手代がついているから、間違って伊勢乞食に銭を撒く事はないだろうが、抜け参りや思い立っての伊勢参りには案内がいない。
そのような者達には、町衆が目を配るしかない」
「それができればいいのですが」
「人手に余裕がある家が抜け参りなどに子供をつければ、神領の非人か伊勢乞食かおしえてやれるではないか」
柘植定之丞は、御師宿に奉公している丁稚を使えばいいと言い出した。
「それだけの余裕がある御師宿がどれほどありますか」
「それは考え方次第だ。
抜け参りや思いついて伊勢参りをするような者達は、伊勢講に入っていない。
そのような者達を檀家にできるのなら、わざわざ東国や西国に行って檀家を集めるよりも、手間も金もかからないのではないか」
「おお、その通りでございます。
いい年をして情けない、全く思いつきませんでした。
人や金を使ってでもやるべき事でございました」
「神領に入って直ぐに、檀家であるかどうかにかかわらず、檀家を持たない手代に案内させれば、手代は自分の檀家を手に入れられ、将来の暖簾分けにつながるぞ」
「柘植様、ありがとうございます。
もう遅くなってしまいました。
お礼にもなりませんが、懐石をお出ししたいのですが、宜しいでしょうか」
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