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第1章:出会い
第9話:お礼と支配組頭
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檜垣屋の隠居と主人は、翌日奉行所の退出時間である七つ(午後四時)を待って、お礼言上のために支配組頭柘植伝兵衛の屋敷に伺った。
町年寄が願い事をして、解決に足る知恵を奉行所の次席権力者に頂いたのだ。
それ相応のお礼を持参するのは常識だった。
隠居の檜垣常央が直接お願いしたのは嫡男の柘植定之丞だが、当然その願いは嫡男を通じて、御普請格御組頭として御用部屋に詰めている柘植伝兵衛に伝わっている。
支配組頭の筆頭ともなれば、奉行が異動で山田にいない時、何かの所用で奉行所を留守にしている時は、職務を代行するほどの権力者だ。
通常の職務も、公事の訴訟、諸願届の吟味調査、奉行所の賄料や御金出納に関する一切、諸検視や諸検分の出役、平御組方の取締や人事管掌と奉行所を実際に掌握しているのは支配組頭なのだ。
遠国奉行に任命されるような旗本は優秀に違いないのだが、派遣されて直ぐに任地の土地柄や人柄、風土事情などが分かるはずもない。
奉行として役目を全うするには、土着して元服直後から見習いとして出仕し、現地の事も役目も知悉している支配組頭を頼るしかないのだ。
その事は、神領に住む人全てが知っていた、
何か望みがあるのなら、奉行よりもお頭衆に頼るべきなのをよく知っていた。
「柘植様、この度は御嫡男の定之丞様に、目の前の深い霧が晴れるような知恵を授けていただき、お礼の言葉もございません。
些少ではございますが、お礼をお持ちさせていただきました。
ご笑納していただければ、これに勝る喜びはありません」
「定之丞から話は聞いている。
実際に行うとなれば、檜垣屋にも利の有る事だが、負担も大きいだろう。
我らに対するお礼も独りで負担しなくていい。
時が来たら、我からも三方と宇治の者達に話して聞かせてやる。
本家と話がすんだら改めて参れ」
「何から何までお情けをかけていただき、感謝の言葉もありません。
本家には朝のうちに相談に参り、外宮は纏めるとの返事をもらっております。
懇意の町年寄りと暖簾分けした御師宿にも賛同をもらっております。
心配だったのは三方の年寄衆でしたが、柘植様が直々にお声を掛けてくださるなら、何の心配もありません」
「そうか、味方が固まっているのなら実施は早い方が良いだろう。
同心の小林が一度話をしてきたが、具体的な解決方法を提案しないばかりか、私利私欲が見えたので、支配組頭一同で話し合って却下した。
今回のように、具体的な解決策を提案するのなら、再度支配組頭一同で話し合った上で、御奉行に奏上できる」
「差し出がましい事だとは重々承知しておりますが、あえて言わせていただきます。
定之丞様のお知恵だと、御奉行様にお知らせされないのですか?」
「我からそのような事を御奉行の耳に入れる訳にはいかぬ」
「私共が奏上させていただく届出に、定之丞様からお知恵を拝借したと書いても、ご迷惑にならないでしょうか」
「迷惑にはならぬ」
「はっ」
「殿様、お茶をお持ちしました、入って宜しいでしょうか」
「うむ、入れ」
柘植伝兵衛の答えを聞いて妻女が入って来た。
「檜垣屋から大層な弁当を差し入れてもらいました。
お話が終わったのでしたら、檜垣屋と一緒に頂かれてはいかがですか」
「そうか、気を使わせたな」
「とんでもございません。
頂いたご恩に比べれば、些少過ぎて恥ずかしいです」
「手持たせで悪いが一緒に食べてくれ」
「はい、有難く相伴させていただきます。
厚かましいお願いをして宜しいでしょうか」
「なんだ」
「お知恵を下さった定之丞様とご一緒させていただけないでしょうか」
「よいぞ、定之丞を呼んでまいれ」
「はい」
柘植伝兵衛に言われた妻女が定之丞を呼びに行った。
如才無い檜垣屋の隠居は、柘植家の家族全員が食べる分の弁当に加えて、自分達がご相伴する分、若党と中間、女中や下男の分まで弁当を届けていた。
二百俵の蔵米だけでは、支配組頭の家計は火の車だ。
家族や家臣を養うための二十人扶持と、引越金百両が幕府から下されるが、町衆からの付け届けがなければ貧しい暮らしをしなければいけない。
真面目にお役目に励めば励むほど持ち出しが多くなるので、普段の食事は質素倹約を心がけているので、檜垣屋からの差し入れは久しぶりの御馳走だった。
町年寄が願い事をして、解決に足る知恵を奉行所の次席権力者に頂いたのだ。
それ相応のお礼を持参するのは常識だった。
隠居の檜垣常央が直接お願いしたのは嫡男の柘植定之丞だが、当然その願いは嫡男を通じて、御普請格御組頭として御用部屋に詰めている柘植伝兵衛に伝わっている。
支配組頭の筆頭ともなれば、奉行が異動で山田にいない時、何かの所用で奉行所を留守にしている時は、職務を代行するほどの権力者だ。
通常の職務も、公事の訴訟、諸願届の吟味調査、奉行所の賄料や御金出納に関する一切、諸検視や諸検分の出役、平御組方の取締や人事管掌と奉行所を実際に掌握しているのは支配組頭なのだ。
遠国奉行に任命されるような旗本は優秀に違いないのだが、派遣されて直ぐに任地の土地柄や人柄、風土事情などが分かるはずもない。
奉行として役目を全うするには、土着して元服直後から見習いとして出仕し、現地の事も役目も知悉している支配組頭を頼るしかないのだ。
その事は、神領に住む人全てが知っていた、
何か望みがあるのなら、奉行よりもお頭衆に頼るべきなのをよく知っていた。
「柘植様、この度は御嫡男の定之丞様に、目の前の深い霧が晴れるような知恵を授けていただき、お礼の言葉もございません。
些少ではございますが、お礼をお持ちさせていただきました。
ご笑納していただければ、これに勝る喜びはありません」
「定之丞から話は聞いている。
実際に行うとなれば、檜垣屋にも利の有る事だが、負担も大きいだろう。
我らに対するお礼も独りで負担しなくていい。
時が来たら、我からも三方と宇治の者達に話して聞かせてやる。
本家と話がすんだら改めて参れ」
「何から何までお情けをかけていただき、感謝の言葉もありません。
本家には朝のうちに相談に参り、外宮は纏めるとの返事をもらっております。
懇意の町年寄りと暖簾分けした御師宿にも賛同をもらっております。
心配だったのは三方の年寄衆でしたが、柘植様が直々にお声を掛けてくださるなら、何の心配もありません」
「そうか、味方が固まっているのなら実施は早い方が良いだろう。
同心の小林が一度話をしてきたが、具体的な解決方法を提案しないばかりか、私利私欲が見えたので、支配組頭一同で話し合って却下した。
今回のように、具体的な解決策を提案するのなら、再度支配組頭一同で話し合った上で、御奉行に奏上できる」
「差し出がましい事だとは重々承知しておりますが、あえて言わせていただきます。
定之丞様のお知恵だと、御奉行様にお知らせされないのですか?」
「我からそのような事を御奉行の耳に入れる訳にはいかぬ」
「私共が奏上させていただく届出に、定之丞様からお知恵を拝借したと書いても、ご迷惑にならないでしょうか」
「迷惑にはならぬ」
「はっ」
「殿様、お茶をお持ちしました、入って宜しいでしょうか」
「うむ、入れ」
柘植伝兵衛の答えを聞いて妻女が入って来た。
「檜垣屋から大層な弁当を差し入れてもらいました。
お話が終わったのでしたら、檜垣屋と一緒に頂かれてはいかがですか」
「そうか、気を使わせたな」
「とんでもございません。
頂いたご恩に比べれば、些少過ぎて恥ずかしいです」
「手持たせで悪いが一緒に食べてくれ」
「はい、有難く相伴させていただきます。
厚かましいお願いをして宜しいでしょうか」
「なんだ」
「お知恵を下さった定之丞様とご一緒させていただけないでしょうか」
「よいぞ、定之丞を呼んでまいれ」
「はい」
柘植伝兵衛に言われた妻女が定之丞を呼びに行った。
如才無い檜垣屋の隠居は、柘植家の家族全員が食べる分の弁当に加えて、自分達がご相伴する分、若党と中間、女中や下男の分まで弁当を届けていた。
二百俵の蔵米だけでは、支配組頭の家計は火の車だ。
家族や家臣を養うための二十人扶持と、引越金百両が幕府から下されるが、町衆からの付け届けがなければ貧しい暮らしをしなければいけない。
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