伊勢山田奉行所物語

克全

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第4章:伊勢屋と共有田と金貸し

第44話:金貸し

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 太平寺村の村高が三百三十一石なのは既に話してある。
 相給の旗本仙谷因幡守家が二百二十七石で寄合旗本蒔田家が百四石。
 
 旗本仙谷因幡守家は庄屋に年貢一切を任せていた。
 一方の寄合旗本蒔田家は、初代の頃には大名で、備中国の賀陽郡と窪屋郡、摂津国の豊島郡と八部郡、河内国の大県郡、山城国の久世郡を合わせて一万石だった。
 
 それを二代目の定正が、父親から代替わりする時に弟の長広に三千石を分与して、大名から旗本になったのだ。

 率直に言って、格式や名誉は兎も角、経済的には大名よりも旗本の方が楽なのだ。
 官位官職を得る費用などは、大名は自費だが旗本は幕府が出してくれる。
 外様だったら大名でいるよりも旗本になった方が良い。

 もしかしたら、蒔田定正は鋭敏な経済感覚を持っていたのかも入れない。
 定正自身が独力で手に入れていた千三百十石と相続分を合わせて、八千三百十石の寄合旗本になったのだが、三代目の定行以降は七千七百石となっていた。

 三代定行以降は備中国の窪屋郡に五ケ村、浅口郡に三ケ村、賀陽郡に八ケ村、少し離れた摂津国に一ケ村、更に遠く離れた河内国大県郡太平寺村の百四石だ。

 これも旗本仙谷因幡守家同様に、年貢一切を庄屋に任せるのが普通なのだが、ここで不正が行われた。
 担当の役人が袖の下を受け取って博徒に年貢一切を任せてしまったのだ。

「おう、われ、何に勝手なことしくさっとるんじゃ。
 舐めとったらぶち殺すぞ、われ」

 同じ河内国だが、高安郡を挟んだ河内郡の博徒、枚岡鬼三郎が蒔田家に取り入り、太平寺村の年貢一切を任されるようになっていた。

 鬼三郎は、河内国一宮の枚岡神社を取り仕切る事で力をつけた博徒だ。
 そこから枚岡鬼三郎を通名にしている、河内でも名の知れた親分だった。

 流石に三百石少しの貧乏村に鬼三郎当人が乗る込む事はなく、子分が借金の取り立て、いや、女房娘を宿場女郎にすべくやって来ていた。

「勝手な事とはおかしなことを申される。
 私共は檀家の皆さんが困っていると聞いて、借金の肩代りをさせていただくと言っているだけでございます。
 それに、この金利は御上の定めを破った不当なもの。
 正当な金利にして頂きたいと申しているだけでございます」

「何調子こいとんじゃ、われ。
 これ以上舐めた事言うとったらぶち殺すぞ」

「殺す、ですか、私達を殺すと、本気で言っておられるのですか」

「おう本気じゃ、誰が冗談で玉とる言うか。
 わしの本気が分かったらさっさといね」

「お伊勢様に使える従五位上、権禰宜檜垣右京様の家臣を殺すと言った以上、天罰が下るのは避けられませんが、分かっておられるのですね」

「じゃかましいわ、天罰が怖くて博打が打てるか。
 四の五の言ってないで、後ろの娘を渡しやがれ」

「しかたありません、私がお伊勢様に代わって天罰を下して差し上げます。
 枚岡の博徒が口先だけでない事を、私に見せてください」

「われ、この、舐め腐りやがって、死にさらせ」

 弟分二人に見られているからだろう。
 挑発され続けていた兄貴分が、我慢できずに大脇差を抜いて斬りかかって来た。

 草が役目の下忍とはいえ、博徒風情に後れを取るはずもない。
 背中は同じ下忍の八吉が守ってくれている。
 何の不安もなく博徒を叩きのめせた。

「ぎゃっ」

 先祖代々伝わる小具足であっさりと博徒の腕をとり、肘を折った。
 泣き喚くのを構わず更に膝を蹴り砕く。

「「ひっ」」

 兄貴分の大脇差を奪った陣吉は、大脇差の峰を返して斬り殺さないようにした。
 下手に峰で打つと打刀が歪んで駄目になってしまうのだが、元々博徒の物だ。

 二人の弟分の両鎖骨に上段から力一杯叩き込む。
 目にもとまらぬ上段四連打だ。

「「ぎゃあああああ」」

 両鎖骨を粉々に砕かれた弟分二人も地面をのたうち回る。
 この時代の骨接ぎでは、粉砕骨折を完璧に治せるはずもない。
 三人の博徒は一生不具として生きるしかなくなった。
 
「庄屋さん、ちょっと遠いですが、雁多尾畑の代官所と京橋の御番所に、この件を伝える使いを出していただきます」

「私共がですか」

「はい、私と八吉がここを離れてしまうと、枚岡の鬼三郎が押しかけてきた時に、どうしようもなくなってしまいます」

「それは確かにその通りです。
 ちょっとした暴れん坊が相手なら、若い衆でどうにでもなりますが、命知らずの鬼三郎が相手では、村の若い衆では太刀打ちできません」

「今見られていたように、私達は腕に覚えがあります。
 私達がいれば、女子供が攫われる事もないでしょう。
 ですが、後々の事を考えると、奉行所か代官所に助けを求めておくべきです」

「分かりました、直ぐに使いを出します」
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