夢にまで見た異世界召喚に巻き込まれたけれど、虐め勇者の高校生に役立たずはいらないと追放された。

克全

文字の大きさ
35 / 37
第一章

第30話:閑話・勇者の動向4

しおりを挟む
異世界召喚から71日目:

 勇者ラントこと赤居嵐羽も全くのバカではない。
 露骨に待遇が変わったら、それも酒池肉林の勇者の立場から、監視されている罪人の立場になったら分かる。

 さすがに部屋はこれまで通り勇者用の豪華絢爛な部屋だった。
 囚人用の牢屋に移動させたら暴れる事くらいファイフ王国側も分かっている。
 勇者に少々ケガさせるくらいはかまわないが、死なせるような事は許されない。

 役立たずの勇者には、次の勇者召喚の生贄になってもらわなければいけない。
 だから、食事が囚人用の粗末なモノになり、飲み物もワインなどの高級なアルコールから井戸水に変わっていた。

 自分が用済みになった事を悟った赤居嵐羽は、自分が死刑同然の追放にしろと命じた男の事を思い出していた。
 次に同じような目に会うのは自分だと激しい恐怖に襲われた。

 元々勇者の部屋は外からだけ鍵がかけられる軟禁部屋だった。
 だが、囚人用部屋とは大きく違う所があった。
 ドアに食事だけ入れる為の小窓がついていないのだ。

 表向き歓待している勇者の部屋に、囚人部屋用の小窓などつけられなかった。
 だから、カビの生えたパンと水同然のスープを部屋の中に入れるには、ドアを開けなければいけなかった。

 ドーン!

 赤居嵐羽は食事を届けに来た下女に体当たりして逃げた。
 全スキルがこの世界の平均を下回っていても、最下級の待遇しか受けられない下女よりは高かった。

 下女を突き飛ばして部屋から逃げ出した赤居嵐羽はダンジョンに向かった。
 城の外に出た事もない赤居嵐羽に逃げられるところなど限られていたのだ。

 幸か不幸か、ファイフ王国側が勇者召喚用のモンスターを集めていたので、城内にあるダンジョンは何時でも入れる状態になっていた。
 警備の兵士もダンジョンの方を警戒して、自分達の城の方に背中を向けていた。

 抵抗されて赤居嵐羽を殺してしまう事を恐れたファイフ王国側は、武器や防具を奪わすに幽閉していた。

 赤居嵐羽が弱すぎて、武器や防具を持った状態でも軽く勝てると思っていたから、下手に抵抗されるよりは武器や防具をそのままにしていた方が良いと判断していた。
 だが今回は火事場のバカ力ではないが、赤居嵐羽が思いがけない力を発揮した。

「うぁわあああああ!」

 赤居嵐羽が繰り出した槍が警備兵を背中から突き刺した。
 もう1人の警備兵が慌てて振り返ったが、丁度その時に赤居嵐羽が繰り出した2度目の槍が腹に吸い込まれた。

「ぐっは!」

 赤居嵐羽は槍を引き戻そうとしたが、1人目の背中と違ってビクともしない。
 刺された警備兵の腹筋が収縮して槍を取らえていた。
 逃げたい一心の赤居嵐羽は、槍を捨ててダンジョンの奥に走って行った。

 1人でゴブリンにも勝てない赤居嵐羽がダンジョンの中で生きていける訳がない。
 それどころかゴブリンの居る場所にもたどり着けなかった。
 集まってくる牙鼠すら斃せなかった。

 徐々に革靴を噛み破られ、ついには自分の足の肉を生きたまま食いちぎられた。
 あまりの激痛と前をさえぎる牙鼠に足を取られて倒れてしまった。

 赤居嵐羽にフルプレートアーマーを装備するだけの筋力があれば、このような事にはなっていなかっただろう。
 赤居嵐羽の筋力では、部分的にしかプレートアーマーを装備できなかった。

「ギャアアアアア、いたい、いたい、いたい。
 やめてくれ、ゆるしてくれ、やめてくれ、いやだ、ギャアアアアア!」

 最悪な事に、直ぐに死ぬことになる致命的な所だけが金属性だった。
 だから牙鼠が食い破るのは、手足からになってしまう。
 
 クッチャ、クッチャ、クッチャ、クッチャ、クッチャ。

 自分の身体が喰われる音が耳に入っているが、痛みのあまり分からない。
 肉を食い破られる痛みも激しいが、それ以上に骨を喰われる痛みが激烈だ。

 骨に痛覚はないが、骨を覆う骨膜には痛覚がある。
 骨膜を喰われるたびに脳天を突き抜けるような激痛がはしる。

 腕から喰い始めた牙鼠が心臓を食い破ってくれるまで死ねない。
 いや、そこまで行く前に失血死できるのが1番楽な死に方だったろう。

 だが失血死する前に、子牙鼠が鎧の中に入ってきてしまった。
 鎧の太もも部分から入り込んだ子牙鼠は、隙間の多い下腹部に来てしまった。

 赤居嵐羽は、尻の穴を食い破られ、腸や肝臓といった内臓を喰い荒らされる激痛の中で死ぬことになった。

 ★★★★★★

「殺すな、女勇者は絶対に殺すな!」

 ファイフ王国によるゴブリン狩りが大々的に行われていた。
 人間の代わりにゴブリンで勇者召喚を行う画期的な実験をするためだった。
 やらされているのはゼルス王国から逃げてきた者達。

 アーサー王子とモーガン王女、2人の取り巻きだった近衛騎士達。
 彼らに断る権利などなかった。
 役に立つ事を証明しなければ、処刑される可能性があった。

 それどころか、勇者召喚の生贄にされる可能性さえあった。
 ファイフ王国の、捕虜を生贄にして勇者召喚を行うという悪行は、大陸中に鳴り響いていた。

 アーサー王子とモーガン王女たちは必死でゴブリンを捕獲した。
 これまでファイフ王国側が投入していた将兵とは段違いの実力だった。
 ゴブリン程度なら、ファイター種であろうと生け捕りにできた。

 だから、まだ成長前なら、ロード種でもキング種でも斃せた。
 さすがに生後1カ月程度でもロード種やキング種は特別だ。

 遠近の攻撃魔術を放ってくる幼いキング・ゴブリンが相手では、アーサー王子達でも生け捕りにはできない。

「「「「「ぎゃっ、ぎゃっ、ぎゃっ、ぎゃっ、ぎゃっ」」」」」

 ゴブリン達も必死だった。
 自分達を率いてくれるかけがえのないリーダー、王や貴族は殺させない。
 そう決意して必死で戦う。

 これまでのような弱い相手なら幼いキング・ゴブリンを護りきれただろう。
 多くの普通種が殺されたり捕えられたりしただろうが、大切な未来の王や、王を生める子袋を逃がす事ができただろう。

 だが今回は相手が悪すぎた。
 思想や性格は悪いが、戦闘力に関してはファイフ王国の騎士や兵士とは比較にならないくらい強かった。

 ゼルス王国のダンジョンで鍛え上げた猛者中の猛者が相手だった。
 その結果は、女勇者達にとって運が良かったとは言えないだろう。

「優しくだ、想像以上に手加減しないと簡単に死んでしまうぞ。
 こいつらを生け捕りにしなければ、俺達が生贄にされる。
 少々のケガは覚悟して生け捕りにしろ!」

「「「「「はっ」」」」」

 アーサー王子の指揮を受けて、元近衛騎士達は身体を張った。
 ゴブリン程度では、近衛騎士仕様のフルアーマープレートに傷1つつけられない。

 だが、ホブゴブリンなら傷や凹みくらいはつけられる。
 ファイター・ゴブリンなら鎧の上から致命傷を与えられる。
 それはメイジ・ゴブリンの魔術も同じだった。 

「ぎゃっ、ぎゃっ、ぎゃっ、ぎゃっ、ぎゃっ」

 追い詰められたキング・ゴブリンの子供が魔術を放つ。
 女勇者から生まれたからか、奇跡に近い確率で生まれたキング種。
 1年で成人するゴブリン種とはいえ、1カ月弱で呪文を唱えられるのは奇跡だ。

「「「「「ギャアアアアア!」」」」」

 アーサー王子達が炎にまかれて大火傷する。
 それでもひるむことなく剣を振るって戦う。
 生け捕りにするのは不可能と判断して、心臓を一突きにすべく剣を振う。

「いやぁあアアアア!」

 仲鳴麻穂は思わず絶叫をしていた。
 自分が腹を痛めて生んだゴブリンが目の前で斬り殺されたのだ。
 6人の騎士に前後左右から滅多切りにされたのだ。

 好き好んでゴブリンの子を産んだ訳ではない。
 恐ろしく醜いキング・ゴブリンの幼体に愛情を抱いていたわけでもない。
 だが、それでも、自分が産んだ子が目の前で惨殺されるのは衝撃的だった。

 キング・ゴブリンの幼体にひかれて集まって来ていたゴブリン達。
 普通なら家族的な小集団しか作らないゴブリンが、1000を超える数が集まり、町を超え国を作ろうとしていたのに、あっけなく捕らえられて滅んだ。

 仲鳴麻穂はホブゴブリン達に下層に連れ去られそうになっていたが、アーサー王子達が負傷を恐れず戦った事で保護された。
 無理な戦いをしたので、ホブゴブリン達を生け捕りにはできなかった。

 他の女勇者、竹内音夢と八鳥涼花は他のダンジョンで生きていた。
 2人が産んだキング・ゴブリンの幼体と共に。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

器用貧乏な赤魔道士は、パーティーでの役割を果たしてないと言って追い出されるが…彼の真価を見誤ったメンバーは後にお約束の展開を迎える事になる。

アノマロカリス
ファンタジー
【赤魔道士】 それは…なりたい者が限られる不人気No. 1ジョブである。 剣を持って戦えるが、勇者に比べれば役に立たず… 盾を持ってタンクの役割も出来るが、騎士には敵わず… 攻撃魔法を使えるが、黒魔道士には敵わず… 回復魔法を使えるが、白魔道士には敵わず… 弱体魔法や強化魔法に特化していて、魔法発動が他の魔道士に比べて速いが認知されず… そして何より、他のジョブに比べて成長が遅いという… これは一般的な【赤魔道士】の特徴だが、冒険者テクトにはそれが当て嵌まらなかった。 剣で攻撃をすれば勇者より強く… 盾を持てばタンクより役に立ち… 攻撃魔法や回復魔法は確かに本職の者に比べれば若干威力は落ちるが… それを補えるだけの強化魔法や弱体魔法の効果は絶大で、テクトには無詠唱が使用出来ていた。 Aランクパーティーの勇者達は、テクトの恩恵を受けていた筈なのに… 魔物を楽に倒せるのは、自分達の実力だと勘違いをし… 補助魔法を使われて強化されているのにもかかわらず、無詠唱で発動されている為に… 怪我が少ないのも自分達が強いからと勘違いをしていた。 そしてそんな自信過剰な勇者達は、テクトを役立たずと言って追い出すのだが… テクトは他のパーティーでも、同じ様に追い出された経験があるので… 追放に対しては食い下がる様な真似はしなかった。 そしてテクトが抜けた勇者パーティーは、敗走を余儀無くされて落ち目を見る事になるのだが… 果たして、勇者パーティーはテクトが大きな存在だったという事に気付くのはいつなのだろうか? 9月21日 HOTランキング2位になりました。 皆様、応援有り難う御座います! 同日、夜21時49分… HOTランキングで1位になりました! 感無量です、皆様有り難う御座います♪

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

【完結】魔界を追放された俺が人間と異種族パーティを組んで復讐したら世界の禁忌に触れちゃう話〜魔族と人間、二つの種族を繋ぐ真実〜

真星 紗夜
ファンタジー
 俺が……元々は人間だった……⁉︎  主人公は魔界兵団メンバーの魔族コウ。  しかし魔力が使えず、下着ドロボウを始め、禁忌とされる大罪の犯人に仕立て上げられて魔界を追放される。    人間界へと追放されたコウは研究少女ミズナと出会い、二人は互いに種族の違う相手に惹かれて恋に落ちていく……。   あんなトコロやこんなトコロを調べられるうちに“テレパシー”を始め、能力を次々発現していくコウ。  そして同時に、過去の記憶も蘇ってくる……。    一方で魔界兵団は、コウを失った事で統制が取れなくなり破滅していく。    人間と異種族パーティを結成し、復讐を誓うコウ。  そして、各メンバーにも目的があった。  世界の真実を暴くこと、親の仇を討つこと、自らの罪を償うこと、それぞれの想いを胸に魔界へ攻め込む……!

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

処理中です...