月乙女の伯爵令嬢が婚約破棄させられるそうです。

克全

文字の大きさ
8 / 29
第1章

7話

しおりを挟む
 アリスはこんな場所にいたくなかった。
 ジョーンズ伯爵家との婚約破棄賠償など、父親に任せたかった。
 だがそうはいかなかった。
 ヴラド大公に当人も出るべきだと言われたら、参加しない訳にはいかない。
 しかしその場は地獄だった。
 特にジョーンズ伯爵家のジョージにとっては。

 
「問題はビクトリア王女の妊娠だ。
 これを誤魔化さないと、下手をすればジョーンズ伯爵家は改易だ。
 いや、一族皆殺しもあり得るぞ」

 ヴラド大公の言葉に、スミス伯爵家当主のオリバーが倒れた。
 気の弱い人なのだ。
 そうでなければ、王家よりも歴史が古い超名門貴族が、ジョーンズ伯爵家に家を乗っ取られるような状況にまで追い込まれるはずがない。

「殿下がお口添えして下さるのですよね。
 だから結納金の百倍も賠償せよと申されたのですよね」

「一番簡単なのは、王女殿下の子をお流しすることだが、それは嫌なのだろう」

「当たり前でございます。
 王孫殿下でございますぞ。
 お流しにするなど出来ません」

「王家との絆を確保したいのだろうが、王家に恥をかかせれば、命が無いのだぞ。
 まあここは命の賭け時ではあるな。
 余からも陛下に口添えしてやろう。
 だが分かっているな」

 アリスは本当に怖かった。
 本当なら交渉の矢面に立つはずの父が気絶してしまった。
 普通なら自分一人で交渉しなければならない緊急事態だ。
 父の代わりに執事長が後見してくれているとは言っても、貴族ではない彼はジョーンズ伯爵家に強く出られたら引き下がらなければならない。
 だが今回は他にも強い味方がいた。

 理由は分からないが、ヴラド大公が味方してくれている。
 ヴラド大公の交渉術は、スミス伯爵とは雲泥の差だった。
 ヴラド大公には財力も武力もあるから、スミス伯爵とは比較出来ない。
 だがヴラドがスミス伯爵の立場であっても、ありとあらゆる方法を使って、同じ条件をジョーンズ伯爵家から引き出していただろう。
 アリスはそう感じていた。

「アリス殿。
 一つ頼みたいことがあるのだが、聞いてもらえるだろうか」

「ヴラド大公殿下には一方ならぬお世話になりました。
 スミス伯爵家に出来る事でしたら、何でもさせて頂きます」

 アリスは極限まで緊張していた。
 ヴラド大公が何か要求して来るのは予想していた。
 何の思惑もなくて助力してくれる貴族など存在しない。
 力がなくて、助力しても代価を得られない弱い貴族もいる。
 スミス伯爵などはそうだ。
 ヴラド大公はそうではない。

「それほど難しい事ではないのだ。
 いや、普通の人間には難しいのだが、アリス殿には簡単な事だ」

 アリスの緊張は限界を超えそうだった。
 他の人間には難しくて、アリスには簡単な事。
 貞操を要求されているのだ。
 だが自分のような十人並みの女が、年収の千倍もの価値がないのは、重々理解していた。

 だから、自分の結婚を何かの陰謀に使うのだと思った。
 財力も武力もないが、歴史だけは古いスミス伯爵家だ。
 ワラキア公国が後ろ盾になるなら、色んな使い道があるのだろう。
 アリスは覚悟を決めてヴラド大公の言葉を待った。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

崖からポイ捨てされた不運令嬢ですが、銀髪イケメン竜王に『最愛の伴侶』としてスカウトされました!

有賀冬馬
恋愛
不作も天災も、全部わたしのせい!? 「不運な女」と虐げられ、生贄として崖から捨てられたわたし、ミラ。 でも、落ちた先で待っていたのは、まぶしいほど綺麗な銀髪の竜王・アルベルト様でした! 「君がいたから、この国は守られていたんだよ」 えっ、わたしって実はすごい聖女だったの!? 竜宮城で贅沢三昧&溺愛生活スタート! そんな中、わたしを捨てて大ピンチになった元婚約者が「ミラ、戻ってきて!」と泣きついてきて……。

【短編】婚約破棄の断罪裁判を開いた王太子、証言で全て自分の首を絞める

あまぞらりゅう
恋愛
エドゥアルト王太子から「婚約破棄だ!」と断罪されるシャルロッテ侯爵令嬢。 彼は彼女の『悪行』を暴くため、証人を次々と呼び出す。 しかし、証言されるのは、全て『彼女が正しかった証拠』ばかり。 断罪裁判はいつしか、王太子自身の罪を暴く場へと変わっていき……? ※覚えやすさや分かりやすさを重視しているので、登場人物の名前は「キャラクター名+身分表記」にしています ★他サイト様にも投稿しています!

悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~

糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」 「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」 第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。 皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する! 規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)

【完結】毒殺疑惑で断罪されるのはゴメンですが婚約破棄は即決でOKです

早奈恵
恋愛
 ざまぁも有ります。  クラウン王太子から突然婚約破棄を言い渡されたグレイシア侯爵令嬢。  理由は殿下の恋人ルーザリアに『チャボット毒殺事件』の濡れ衣を着せたという身に覚えの無いこと。  詳細を聞くうちに重大な勘違いを発見し、幼なじみの公爵令息ヴィクターを味方として召喚。  二人で冤罪を晴らし婚約破棄の取り消しを阻止して自由を手に入れようとするお話。

婚約破棄される前に、帰らせていただきます!

パリパリかぷちーの
恋愛
ある日、マリス王国の侯爵令嬢クロナは、王子が男爵令嬢リリィと密会し、自分を「可愛げのない女」と罵り、卒業パーティーで「婚約破棄」を言い渡そうと画策している現場を目撃してしまう。 普通なら嘆き悲しむ場面だが、クロナの反応は違った。

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

婚約破棄!ついでに王子をどん底に突き落とす。

鏡おもち
恋愛
公爵令嬢パルメは、王立学院のパーティーで第一王子リュントから公開婚約破棄を突きつけられる。しかし、周囲の同情をよそにパルメは歓喜した。

処理中です...