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第一章

第2話:速攻

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 私は王太子にサインと押印させた書類を持って、急いで貴族院に走った。
 公爵令嬢の権力を使って、直ぐに全ての手続きを終えるのだ。
 情報が王家に洩れてしまったら、今までのように王権でなかった事にされる。
 もうあんな鶏頭王太子に悩まされるのは絶対に嫌だ。
 その為に馬鹿を利用して、口にしていない書類にもサインと押印させたのだ。

「あのう、本当にいいのでしょうか?
 この書類を受理してしまったら、王太子殿下との婚約が解消されるだけでなく、王都からも追放されてしまいますが……」

 気の弱そうな事務員が書類を受理するのを嫌がっている。
 まあ、こいつが受理して受付印を押しても、普通は上役や貴族院議会で承認されなければ、決定されないだろう。
 だが、私が承認されたと信じて、王都を出てしまった後では、決定されようが決定されなかろうが関係ない。

「分かっているだろうが、王家に報告したらただじゃすまないよ。
 私はもう我慢の限界にきているんだからね。
 私を虚仮した奴らは、公爵家の権力を使って潰してやるからね。
 あんたもそうだよ、生まれてきたことを後悔するくらい追い込んでやるよ。
 それには王太子も加わるんだ、今はよくても、代が変わったら死ぬよ」

 少し脅かし過ぎたようです、事務員が眼に見えてブルブルと震えだしました。
 フェルドが国王となり私が王妃となった時の、自分の運命を想像したのでしょう。
 まず間違いなく家族もろとも殺されると思ったのでしょうね。
 それに比べれば、手続き通り書類を受理して、明日出てきた上司に渡して、理由を知る者が驚き慌てるまで知らぬふりをする方が、まだましだと理解したのでしょう。

「でも、黙っていたら、私はどうなるのでしょうか?」

 ふう、困った奴です、誤魔化し方も処世術も思い浮かばないようです。
 そんな男だからこそ、上司同僚に仕事お押し付けられて、一人貴族院事務所に残っていたのでしょう。
 しかたありませんね、最低限の事を教えておいてやりましょう。

「貴男も、王太子が過去に何度も婚約破棄騒動を起こしている事は知っているわね。
 今回も同じで、国王陛下と王妃殿下が無効にすれば済む事なので、下手に騒いだり受け取らなかったりして、思いつめた私が自殺したりしないように、黙って受け取ったと言えばいいのよ、分かった?」

 私の話を聞いた事務員は、まるで首振り人形のように、頭を上下にカクカクさせていたが、急に思い出したかのようにサインをして受理印を押し、上司の机だろう所に書類を置いて戻って来た。

「私は家に帰って酒を飲んで寝ます」

 そう言い切ったかと思うと、私に出て行ってもらいたそうにする。
 私には証拠となる受理印の押された証明書さえあればいいのだ。
 後で非承認になろうが知った事ではないのだよ。
 後はレナス公爵家の後継者であるオスカルに書類を書かせればいい。
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