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第一章

第3話:弟の分際で

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「さあ、自分のやった事の責任ととってもらいましょうか!」

 私は弟のオスカルに詰め寄った。
 なんとしてでも、こいつにもサインと押印させなければいけない。
 抵抗するようなら、ボコボコのタコ殴りにする事も辞さない。
 それだけの決意を眼に込めて脅かしてやりました。

「それは構いませんが、行く当てはあるのですか、姉上?」

 私の決意など知らないように、オスカルがあっさりと承知する。
 肩透かしを喰らった気分だが、私はそんな事で悩むほど複雑な性格ではない。
 サインと押印をしてくれるのなら、私から長引かせる気はない。
 
「当てくらい幾らでもあるわ、でもどこに行くかは教えないわよ」

 私は事前に予防線を張っておく。
 こいつに話してしまって、ペラペラと喋られてはかなわない。
 特に国王と王妃に話されてしまったら、騎士団を差し向けても連れ戻そうとする。
 あの鳥頭を操縦して、国の舵取りができるのは私だけだと、妙に頼られてしまっているのだ。

「いえ、そこまで聞こうとは思っていませんよ。
 お金と食料はもっておられるのですか?
 王都の外は、随分と治安が悪いと聞いていますよ」

 泣き虫の女装癖弟のくせに、姉を心配するなんて生意気ですね。
 でも、口先だけでなく、本気で心配してくれているようなので、許してやります。

「直ぐに泣く弱虫の弟のくせに、生意気な口を利くんじゃないわよ。
 この日の為に以前からちゃんと準備をしているわよ。
 逃亡資金も貯めてあるし、食糧も確保してあるし、護衛も用意しているわ。
 お前はさっさとこれにサインと押印すればいいのよ」

 私が斬り捨てるように話すと、オスカルが傷ついたような顔をする。
 そもそもお前が今回のきっかけを作ったのに、何故そんな顔をする?
 私が普通の貴族令嬢で、王太子がまともだったら、私は自殺するくらい傷ついていたのだぞ、お前はそれが分かっているのか!
 ええい、何故私が罪悪感を感じなければいけないのだ?

「分かりました、姉上、直ぐにサインと押印をさせていただきます。
 ただ父上や母上に伝える事はありませんか?
 学園の御学友に伝えることがあるのなら、私がお伝えさせていただきます」

 本当に、気が利くのか、神経を逆なでしようとしているのか、苛立つ弟です。
 前世の記憶がるので、この世界の両親への愛情は微妙ですが、それでも相応の愛情は持っているのです。
 ここで両親への伝言などと言われたら、逃げ出す事に罪悪感を感じてしまう。
 学園の友人達にも、色々な思い出があって、別れ難い友人もいるのです。
 泣き虫の弟の分際で、本当に苛立つ奴です!
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