3 / 11
2話
しおりを挟む
「やってられません!
政略結婚の約束すら守れない相手と、結婚などできません。
絶対に嫌です!
私は今ここで宣言します。
アレクサンダー様と離婚します。
いえ、そもそもこの結婚は無効です。
見届人二人、ちゃんと見聞きしていましたね。
アレクサンダー様と私の結婚は白の結婚です。
今回の事は、我が家とオールトン侯爵家に間違いなく報告しなさい!
王家にもですよ!」
「若奥様!」
「ソフィアお嬢様!」
「どうか、どうか、どうかお待ちください。
再度の機会をアレクサンダー様にお与えください!」
「さようでございますよ、ソフィアお嬢様!
このような事は初夜ではよくあることなのです。
意外ではございましたが、アレクサンダー様は初心なのでしょう」
オールトン侯爵家の見届人と我が家の見届人が、必死で止めています。
交互に訴えかけてきます。
二人とも辺境の状況、オールトン侯爵家と我が家と状況をよく理解しているのでしょうが、アレクサンダー様の事を理解していません。
アレクサンダー様は初心なのではなく、アメリアに呪縛されてるのです。
アメリアの事が忘れられないのです。
アレクサンダー様に恋焦がれていたからこそ、私には分かります。
思わずアレクサンダー様に目をやってしまいました。
まだ身体がピクピクと痙攣していますから、殺してしまったわけではないです。
可哀想なアレクサンダー様。
哀れなアレクサンダー様。
まだ完全に怒りがおさまったわけではありませんが、アレクサンダー様の気持ちが分からないわけではないのです。
魂の伴侶ともいえる、相思相愛のアメリアが死んでしまったのです。
自分も死にたかったことでしょう。
後追い自殺したかったのだと思います。
でも死ぬことは許されなかった。
オールトン侯爵家の次期当主として、家臣領民を護らなければいけません。
隣国が攻勢を強め、領内の村や街が襲撃されている状況で、家督争いのような内部抗争など許されないのです。
優しい方なのです。
貴族とは思えないくらい、優し過ぎるくらい優し方なのです。
私のような出来損ないに手を差し伸べてくださるくらい、優しい方なのです。
だからこそ、何もなかった私は、いえ、忌み嫌われ傷つけられてきた私は、アレクサンダー様に執着してしまったのです。
「やあ、ソフィア。
今日は何をして遊んでいたんだい?
一人で遊んでいても楽しくないだろう?
僕たちと一緒に勉強しよう。
こちらにおいで」
アレクサンダー様は本当にお優し方でした。
アメリアとの婚約が整い、二人は実家から常に一緒にいる事を求められました。
ですが無理をされているようにはみえませんでした。
自然と、いえ、互いに惹かれて側にいるのがわかりました。
私も幼いとはいえ、アレクサンダー様がアメリアを愛しているのは、女の本能でわかります。
二人の仲睦まじい姿を見るのは、心臓を剣で貫かれるような痛みを伴いました。
それでも、何もない私は、アレクサンダー様を欲したのです。
どれほど辛く苦しく痛みを伴っても、アレクサンダー様に言葉に縋りつきました。
母上や父上、一族一門の貴族だけではなく、平民の使用人からも顧みられず、いつも一人でいる私には、アレクサンダー様の慈愛の視線と言葉しかなかったのです。
教師役の者や、側仕えや護衛は、アレクサンダー様の言葉に甘えて、一緒に学ぼうとする私を厳しい目で見ました。
幼く弱かった私は、その視線に恐怖して思わず足を止めてしまいました。
「その視線と表情はいけないな。
許されない不敬だよ。
恐れ多くもソフィアは、国王陛下の姪に当たられるのだよ。
ウェルズリー侯爵閣下やイヴリン王妹殿下がどのように接しても構わないが、臣下の分際でそのような態度をとるのは、死刑に当たるのではないかな。
少なくとも僕は絶対に許さないよ。
ソフィアは僕の義姉になるのだよ。
義姉にそのような態度をとる者は、僕の側には近寄らせない。
今この場で解任してあげるよ。
どうするんだい?
態度を改めるのかい?
それとも辞めるのかい?」
私は、その場で号泣してしまいました。
それまでの私は、母上や乳母から受ける躾の痛みで、使用人になにをされても我慢するしかありませんでした。
泣くことも許されませんでした。
泣けば泣くほど、激しい痛みを伴う躾を受けることになるのです。
何があろうと我慢して、声を出さずに生きるしかありませんでした。
そんな私に、アレクサンダー様は慈愛をくださいました。
初めて知る慈愛に、泣きじゃくる以外の表現はできませんでした。
そんな私が、アレクサンダー様に執着するのは当然だと思うのです。
慈愛だけで満足しようと思いました。
でもできませんでした。
慈愛ではなく情愛まで欲してしまったのです。
絶対に手に入らないのは分かっていたのに、それでも渇望してしまったのです。
アレクサンダー様が私をかばってくださって以降、貴族以外の使用人の態度が一変しました。
アレクサンダー様の本気に恐怖したのでしょう。
内心はともかく、表面上は母上や父上に接するのと同じように仕えてくれるようになりました。
アレクサンダー様のお陰で、三人一緒に学ぶ事ができました。
今私が貴族らしく振舞えるのは、アレクサンダー様のお陰なのです。
でも、私は強くなったのです。
アレクサンダー様のお陰で強くなったのです。
逆にアレクサンダー様には、私に見えなかった弱さがあったのでしょう。
母上に対する、いえ、全ての貴族に対する憎しみと、アレクサンダー様に対する執着で強くなった私には、その弱さが我慢できなくなっていたのです。
「いいえ無理です!
アレクサンダー様はアメリアに呪縛されているのです!
今のアレクサンダー様に、政略結婚の義務を果たす事はできません。
オールトン侯爵家の事もウェルズリー侯爵の事も、私の知った事ではありません。
私は家を出ます。
元々私は忌み嫌われてきた、いらない子でしょう。
私の好きにさせていただきます。
父上も母上も後の事は好きにすればいいわ!」
政略結婚の約束すら守れない相手と、結婚などできません。
絶対に嫌です!
私は今ここで宣言します。
アレクサンダー様と離婚します。
いえ、そもそもこの結婚は無効です。
見届人二人、ちゃんと見聞きしていましたね。
アレクサンダー様と私の結婚は白の結婚です。
今回の事は、我が家とオールトン侯爵家に間違いなく報告しなさい!
王家にもですよ!」
「若奥様!」
「ソフィアお嬢様!」
「どうか、どうか、どうかお待ちください。
再度の機会をアレクサンダー様にお与えください!」
「さようでございますよ、ソフィアお嬢様!
このような事は初夜ではよくあることなのです。
意外ではございましたが、アレクサンダー様は初心なのでしょう」
オールトン侯爵家の見届人と我が家の見届人が、必死で止めています。
交互に訴えかけてきます。
二人とも辺境の状況、オールトン侯爵家と我が家と状況をよく理解しているのでしょうが、アレクサンダー様の事を理解していません。
アレクサンダー様は初心なのではなく、アメリアに呪縛されてるのです。
アメリアの事が忘れられないのです。
アレクサンダー様に恋焦がれていたからこそ、私には分かります。
思わずアレクサンダー様に目をやってしまいました。
まだ身体がピクピクと痙攣していますから、殺してしまったわけではないです。
可哀想なアレクサンダー様。
哀れなアレクサンダー様。
まだ完全に怒りがおさまったわけではありませんが、アレクサンダー様の気持ちが分からないわけではないのです。
魂の伴侶ともいえる、相思相愛のアメリアが死んでしまったのです。
自分も死にたかったことでしょう。
後追い自殺したかったのだと思います。
でも死ぬことは許されなかった。
オールトン侯爵家の次期当主として、家臣領民を護らなければいけません。
隣国が攻勢を強め、領内の村や街が襲撃されている状況で、家督争いのような内部抗争など許されないのです。
優しい方なのです。
貴族とは思えないくらい、優し過ぎるくらい優し方なのです。
私のような出来損ないに手を差し伸べてくださるくらい、優しい方なのです。
だからこそ、何もなかった私は、いえ、忌み嫌われ傷つけられてきた私は、アレクサンダー様に執着してしまったのです。
「やあ、ソフィア。
今日は何をして遊んでいたんだい?
一人で遊んでいても楽しくないだろう?
僕たちと一緒に勉強しよう。
こちらにおいで」
アレクサンダー様は本当にお優し方でした。
アメリアとの婚約が整い、二人は実家から常に一緒にいる事を求められました。
ですが無理をされているようにはみえませんでした。
自然と、いえ、互いに惹かれて側にいるのがわかりました。
私も幼いとはいえ、アレクサンダー様がアメリアを愛しているのは、女の本能でわかります。
二人の仲睦まじい姿を見るのは、心臓を剣で貫かれるような痛みを伴いました。
それでも、何もない私は、アレクサンダー様を欲したのです。
どれほど辛く苦しく痛みを伴っても、アレクサンダー様に言葉に縋りつきました。
母上や父上、一族一門の貴族だけではなく、平民の使用人からも顧みられず、いつも一人でいる私には、アレクサンダー様の慈愛の視線と言葉しかなかったのです。
教師役の者や、側仕えや護衛は、アレクサンダー様の言葉に甘えて、一緒に学ぼうとする私を厳しい目で見ました。
幼く弱かった私は、その視線に恐怖して思わず足を止めてしまいました。
「その視線と表情はいけないな。
許されない不敬だよ。
恐れ多くもソフィアは、国王陛下の姪に当たられるのだよ。
ウェルズリー侯爵閣下やイヴリン王妹殿下がどのように接しても構わないが、臣下の分際でそのような態度をとるのは、死刑に当たるのではないかな。
少なくとも僕は絶対に許さないよ。
ソフィアは僕の義姉になるのだよ。
義姉にそのような態度をとる者は、僕の側には近寄らせない。
今この場で解任してあげるよ。
どうするんだい?
態度を改めるのかい?
それとも辞めるのかい?」
私は、その場で号泣してしまいました。
それまでの私は、母上や乳母から受ける躾の痛みで、使用人になにをされても我慢するしかありませんでした。
泣くことも許されませんでした。
泣けば泣くほど、激しい痛みを伴う躾を受けることになるのです。
何があろうと我慢して、声を出さずに生きるしかありませんでした。
そんな私に、アレクサンダー様は慈愛をくださいました。
初めて知る慈愛に、泣きじゃくる以外の表現はできませんでした。
そんな私が、アレクサンダー様に執着するのは当然だと思うのです。
慈愛だけで満足しようと思いました。
でもできませんでした。
慈愛ではなく情愛まで欲してしまったのです。
絶対に手に入らないのは分かっていたのに、それでも渇望してしまったのです。
アレクサンダー様が私をかばってくださって以降、貴族以外の使用人の態度が一変しました。
アレクサンダー様の本気に恐怖したのでしょう。
内心はともかく、表面上は母上や父上に接するのと同じように仕えてくれるようになりました。
アレクサンダー様のお陰で、三人一緒に学ぶ事ができました。
今私が貴族らしく振舞えるのは、アレクサンダー様のお陰なのです。
でも、私は強くなったのです。
アレクサンダー様のお陰で強くなったのです。
逆にアレクサンダー様には、私に見えなかった弱さがあったのでしょう。
母上に対する、いえ、全ての貴族に対する憎しみと、アレクサンダー様に対する執着で強くなった私には、その弱さが我慢できなくなっていたのです。
「いいえ無理です!
アレクサンダー様はアメリアに呪縛されているのです!
今のアレクサンダー様に、政略結婚の義務を果たす事はできません。
オールトン侯爵家の事もウェルズリー侯爵の事も、私の知った事ではありません。
私は家を出ます。
元々私は忌み嫌われてきた、いらない子でしょう。
私の好きにさせていただきます。
父上も母上も後の事は好きにすればいいわ!」
12
あなたにおすすめの小説
〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····
藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」
……これは一体、どういう事でしょう?
いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。
ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全6話で完結になります。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
〖完結〗もうあなたを愛する事はありません。
藍川みいな
恋愛
愛していた旦那様が、妹と口付けをしていました…。
「……旦那様、何をしているのですか?」
その光景を見ている事が出来ず、部屋の中へと入り問いかけていた。
そして妹は、
「あら、お姉様は何か勘違いをなさってますよ? 私とは口づけしかしていません。お義兄様は他の方とはもっと凄いことをなさっています。」と…
旦那様には愛人がいて、その愛人には子供が出来たようです。しかも、旦那様は愛人の子を私達2人の子として育てようとおっしゃいました。
信じていた旦那様に裏切られ、もう旦那様を信じる事が出来なくなった私は、離縁を決意し、実家に帰ります。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全8話で完結になります。
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる