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臣従

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「古竜! 止めろ! 止めてくれ! 殺さないでくれ!」
「大丈夫だ。古竜はとても生命力が強いから、これくらいで死んだりはせん。むしろこれで負けを認めてくれるか心配なくらいだ」
「そうなのですか? それでは少し困りますね。手加減せずに戦うとなると、冗談抜きで殺してしまうかもしれません」
「なんだと? あれで手加減していただと?!」
「おい、何を見ていたのだ、ダンジョン。若様は槍の刃先を一切使わず、全て柄の部分を使っておられたではないか。もし刃先を使っておられたら、最初の一撃で古竜の頭は両断されていたぞ」
「そうか。そうだな。確かに手加減しているな。だったら本当にもう止めてくれ! 古竜には俺からよく話して聞かすから、これ以上古竜を傷つけないでくれ」
「私も無理に戦いたいわけではありませんし、古竜を傷つけたいわけでもありません。ですが伝説の古竜が、戦いもせず人間に臣従するとは思えなかったので、しかたなく戦ったのです」
「分かった。だがもうよかろう。古竜もルイ様の強さは十分分かったはずだ」
「本当に分かってくれたのなら、もう戦わなくていいのですが?」
「クッソー!」
「まだ負けを認めないようだな」
「止めろ、止めてくれ!」
「黙れ、ダンジョン! 我はまだ負けておらん!」
「もう負けを認めろ! 長年ダンジョン内の戦いを見てきたが、ルイ様と古竜の実力差は明らかだ。この力量差は努力で補えるモノじゃない。俺は古竜を死なせたくない!」
「黙れ! 古竜の誇りにかけて、負けを認めるわけにはいかん!」
「やれやれ、負けたら臣従すると言いながら、臣従するのが嫌で死ぬまで戦うのは、一番恥ずかしいことだと分かっていないのだな」
「なんだと?!」
「約束を守らない事。約束を守るのが嫌で犬死しようとする事。どちらも低級な獣がすることで、知性のある生き物がすることじゃないですよ」
「うぬ~、人間ごときに負けて、家臣にさせられる屈辱に耐えろと言うのか! それが誇り高い行動だと言うのか?!」
「あのね、古竜。ここで死ぬまで戦ったら、人間に負けて殺されたことは動かないし、戦う前にかわした約束を守らなかった事実も残るのは分かるね」
「うぬ~、それは分かる。分かるが、それがどうしたのだ?!」
「じゃあここで俺に負けを認めたら、人間に負けたことは同じだけど、約束を守ったと言う事が残るのも分かるね?」
「うぬ~、だが、だがその代わり、死ぬのを恐れて人間に臣従したと言う恥をかかなくてすむ」
「でも、臣従するのが嫌で、最初に臣従すると言う約束を破った。嘘をついて死んだと言う恥が残るよ。それでもいいのかい?」
「うぬ~、死なずに臣従した方が、恥が少ないと言いたいのだな?」
「そうだよ。それに俺が他の古竜も負かしたら、それほど恥ではなくなるだろ」
「それは、そうなのだが」
「だったら急いで死なないで、俺が他の古竜を負かすまで待てばいいじゃない。それとも俺が他の古竜に負けると思うのかい?」
「そんなことはない! 我を負かしたお前が、他の古竜に負けるはずがない!」
「だったらそれまで待ちなよ」
 ルイとダンジョンに説得され、古竜はルイの家臣になった。
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