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追撃

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 二魔族が魔王の怒りを買い、塵一つ残すことなく焼き殺されてしまったことは、ただ一魔残った魔族には直ぐ分かった。
 二魔の裏切りが魔王の怒りを買った事実は、残った魔族に裏切る事も逃げる事も許さなくなった。
 生き残りの魔族に許された道は、何としてでもこの世界で魔王召喚を成功させて、魔王の助力を得ることだけだった。
 しかも時間が残されていなかった。
 魔王様の怒りがいつ降りかかるか分からない状況の上に、敵であるベル王家の追手が迫っているのだ。
 魔王様に敵わないのはしかたがないにしても、情けない事ではあるが、ベル王家の人間ごときにも勝てないと言う事実があるのだ。
 最悪なのは、魔王召喚に必要な生贄をそろえるために、バカ王女と魔族たちが集めた兵力を、裏切った二魔族が率いていたことだ。
 生き残った魔族は、バカ王女の護りを任されていたのだが、ルイとダイが来たのを察して、さっさと役目を投げ出して逃げたのだ。
 だから全く兵力を持たず、自分一人で多くの生贄を殺さなければならなかった。
 ベル王家の護るベルト王国に手出しはできなかった。
 ルイがいるネッツェ王国との国境線に近づくことも危険だった。
 王都にはダイが残っていた。
 エステ王国内の民を虐殺するだけでは、一方的な殺害だけになってしまい、当初の作戦のような戦争の広がりは望めなかった。
 そこで生き残った魔族が考えたのは、イマーン王国との国境線を護っていた、ネッツェ王国の守備隊を壊滅させることだった。
 イマーン王国は元々食料生産力が低い山岳国で、豊富な鉱物資源を輸出して足らない食料を補っていたが、今年は凶作であったせいで、輸出だけでは必要な食料が確保できず、ネッツェ王国に略奪の為の戦争をしかけていたのだ。
 この状態でネッツェ王国の国境守備隊が壊滅すれば、イマーン王国は軍民一体となって略奪に走るだろう。
 どのような理想も正義も、大切な家族を餓死させると言う現実の前には無力であり、他人を殺してでも食料を手に入れようとした。
 ルイが魔王に一撃を与え、ダイが魔王召喚魔法陣の場所を探しているときに、生き残りの魔族はイマーン王国とネッツェ王国の国境戦に急いでいた。
 生き残った魔族がエステ王国を捨てて逃げたことが、ルイとダイの探知魔法に引っかからなかった原因だった。
 ルイとダイも、魔王召喚魔法陣が隠されている場所は、エステ王国の中にあると思っていた。
 そしてルイとダイも、気配が感じられなくなった魔族は、魔王を裏切ろうとして殺されたか、自分たちを恐れて魔界に逃げたのだと思っていたのだ。
 その事は、決してルイとダイの落ち度だとは言えないし、元凶である魔王召喚魔法陣さえ破壊すれば、この世界でどれほど人が殺されても、魔王が召喚されることはないから、魔王召喚魔法陣を探すことを優先したのも間違いではない。
 だがそれが、新たな殺戮と戦闘を止められなかったのも事実だった。
 その事実は、ルイに忘れがたい苦い思いを残すことになった。
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