大国王女の謀略で婚約破棄され 追放になった小国王子は、 ほのぼのとした日常を望む最強魔法使いでした。

本文

妊娠

「なあ、ガビ」
「はい。何でございますか」
「やはり夫婦と言っても、ある程度のプライベートは必要なのではないかな」
「確かにその通りでございます。しかし子供が出来れば、嫌でも別々の時間が増えてしまいます」
「そうだね」
「本当に何時も一緒にいられるのは、子供が授からない今だけでございます」
「確かにそうだね」
「では、出来る限り一緒にいた方がいいのではありませんか」
「そうかも知れないね」
「そうかも知れないのではなく、そうなのです」
「そうなのか」
「そうなのです」
　ガビに口で勝てるはずがなかったのだ。
　だがそれでも、一人の時間を作りたい。
　ガビの言う通り、子供を作るという方法もあるが、こればかりは天意だ。
　それに、子供が授かったとしても、産まれるまでに十月十日かかる。
　いや、ミカサ一族と人間族の混血になるはずだから、十月十日とは限らない。
　一日二日と言う事は有り得ないだろうが、犬や狼のように二カ月程度と言う事も有り得る。
　だが、どちらかというと、大型の動物や魔獣のように、二年三年の妊娠期間だと思う。
　いや、ダイが龍だったのだから、ガビも龍の可能性が高い。
　もしかしたら、龍以上の人間が知らない聖獣や魔獣という可能性もある。
　そうだとすると、妊娠期間が五年十年でもおかしくない。
　まさかとは思うが、卵で産むと言う事はないだろうか。
　卵で産んで、五年十年温める必要があるのなら、今の期間が大切なのも分かる。
　その上、孵化してから人間と同じように世話をする必要があるのなら、とても大変だろう。
　まさかとは思うが、余も王配として卵を温めないといけないのだろうか。
　普通に父親として接することは出来るが、卵の世話など全く分からない。
　それに、王子として育ってきたから、庶民のような育児は経験がない。
　ミカサ公爵家は、半独立国の高位貴族だから、乳母や傅役が公子の世話をしてきたとは思うが、特別な一族だから、独自に育児法があると考えるべきだろう。
　余からガビに聞くべきだろうか。
　それとも、ガビが話すのを待つべきだろうか。
　こんな時にダイがいてくれればいいのだが、あれ以来余の前から姿を消している。
　骨身を惜しまず、復興に力を尽くしていると聞いているが、もしかしたら、ガビが余を独占したくて遠ざけている可能性もある。
　聞くべきか聞かざるべきか、それが問題だ。
　余から聞いた場合は、育児を放棄して旅に出るわけにはいかないだろう。
　卵を温めるのは無理にしても、何か役に立たないといけないだろう。