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第1章
第23話:蔦壁
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毎月必ず来ていた行商隊が来なかった。
塩は1年分以上の備蓄があるし、鉄器の予備も多い。
1月や2月行商隊が来なくても大丈夫だが、フィンリー神官が村人全員を集めた。
「みなに集まってもらったのは他でもない、行商隊と村の事だ。
行商隊とこの村は王侯貴族に目をつけられたようだ。
その目を逸らすために、行商隊は来なくなったのだろう。
無事に生きて行くためには、以前のような貧しい生活に戻る事になる」
フィンリー神官が淡々と話したが、お父さんが反論した。
「全く以前と同じではないだろう。
畑が広くなったし、果樹も増えた。
薬草園もできたし、鉄器も増えた、ケーンのスキルを使わなくても豊かだ」
「その通りだが、1度とても豊かな生活を経験してしまった。
以前よりほんの少し豊かになったくらいだと、不足を感じてしまうのが人間だ」
「フィンリー神官、本当に完全に元通りにしなければいけないのか?
行商隊に酒や薬草を売らなければいいだけじゃないか。
村で飲み食いするだけなら、王侯貴族にも目をつけられないと思うぞ」
お父さんお母さんと同じ、戦う役の男性が反論した。
「それでやっていけるかもしれないし、やっていけないかもしれない。
美味しい果物や酒、普通の薬草だけなら大丈夫だったと思う。
だが、エリクサー薬草が作れるとなると、全力を使って探そうとする。
行商隊が来なくなったとしても、密偵が見張っているかもしれない」
「フィンリー神官、それは大丈夫だと思うぞ。
行商隊代表はとても慎重な性格だった。
前回もエリクサー薬草を買い渋っていたし、現物が売れない限り次は買えないと言っていたから、まだエリクサー薬草は売っていないはずだ」
「……確かにその可能性はあるが、行商隊を信じすぎるのは危険だ。
最悪の状況を覚悟しておくべきだ」
お父さんもお母さんの、フィンリー神官と行商隊代表、村と行商隊、どちらも長年の信頼関係があると言っていたけど、フィンリー神官は疑っているよ?
「フィンリー神官の言う事は間違っていないけれど、村の人たちの気持ちも考えてやって欲しいわ。
王侯貴族の密偵に見張られているからと言って、美味しい果物や酒を我慢するのは難しいわよ」
お母さんが他の村人のために文句を言った。
「それは私も分かっている、妻にも激しく文句を言われた」
フィンリー神官が苦笑いしている。
奥さんはモンブランとフルーツワインが大好きだからな。
「フィンリー神官、密偵にさえ見られなければ良いのですね?」
「そうだな、ケーンが木属性魔術を使えるのは村の衆全員が知っている。
今さら村の衆に隠す必要も意味もない」
「僕も村をも守るために色々と試してみました。
村どころか、果樹林、畑、里山全体を覆う蔦の壁を作れるのが分かりました。
蔦の壁に果樹林を隠したら、その中で木属性魔術を使っても良いでしょう?」
「蔦の壁だと、そんな頼りない物では村を守れないぞ。
まあ、密偵の目を防ぐことができればそれで良いのだが」
「頼りないかどうかは見て確かめてください。
それと、危険でも良いのなら、毒イバラの壁も作れます。
間違って村の人が触ると危険なのですが」
「毒イバラの壁だと?!
それが本当なら安心して暮らせるが……小さな子供には危険過ぎる。
本当に里山全体を覆う事ができるのか?」
「1日ではとても無理ですが、30日くらいかけたらできます。
里山まで行けたら、薪に困る事もないですよね?」
「ああ、十分だ、誰からも襲われないのなら、完全に村を閉じても良いくらいだ」
「おい、おい、おい、塩はどうするんだよ、塩がないと生きて行けないぞ」
お父さんの言う通りだと思う、前世では厳しく塩分制限されていたけれど、無ければ生きて行けないと、スマホで調べた時に知った。
「1つだけ開け閉めできる出入口があれば、こちらの都合の良い時に買い出しに行ける、完全に信用できない行商隊に頼る事もない。
だだ、全てはケーンがどんな壁を作れるかだ。
それを確かめない限り話し合いもできない、今日はこれで解散して、明日の朝集まってケーンに蔦壁魔術を見せてもらおう」
そう話が決まって、その夜の話し合いは終わった。
翌日早々に村人全員が集まって俺の蔦壁魔術を確かめる事になった。
生まれてしばらくの子供から村最年長のおじさんまで集まった。
「プロテクト・ウィズ・ア・ウォール・オブ・アイビー」
僕が選んだ蔦植物は葛、スイカ、アケビ、サルトリイバラなどだ。
葛は葉や茎の繊維を使って布が作れるし、根からは葛粉も作れる。
スイカは実は甘くて美味しいし、何より水代わりになる。
「プロテクト・ウィズ・ア・ウォール・オブ・アイビー」
アケビとサルトリイバラは実が美味しいし、薬としても使える。
更にサルトリイバラには、名前の通り猿でも通れないくらい鋭い棘があるから、密偵の侵入を防いでくれる。
「プロテクト・ウィズ・ア・ウォール・オブ・アイビー」
「これは、1つの蔦ではないのか、何重にも蔦の壁を作るのか?!」
フィンリー神官がとても驚いている。
僕も最初は1つの蔦植物だけで壁を作ってしまっていた。
だが、よく考えたら同じ蔦に拘る必要ななかった。
奥山の大木に這っていた蔦植物が、3種もあったのを見たのだ。
だから僕もやれるのか、蔦植物が喧嘩しないのか確かめてみた。
むしろ違う種類を混ぜた方が良いと分かった。
「はい、これなら密偵の目を防ぐだけでなく、村で必要な物も作れます。
蔦に絡まれる1番外側の果樹を犠牲にしますが、実をつける蔦壁を成長させる時に、それよりも多くの果実を手に入れられます」
塩は1年分以上の備蓄があるし、鉄器の予備も多い。
1月や2月行商隊が来なくても大丈夫だが、フィンリー神官が村人全員を集めた。
「みなに集まってもらったのは他でもない、行商隊と村の事だ。
行商隊とこの村は王侯貴族に目をつけられたようだ。
その目を逸らすために、行商隊は来なくなったのだろう。
無事に生きて行くためには、以前のような貧しい生活に戻る事になる」
フィンリー神官が淡々と話したが、お父さんが反論した。
「全く以前と同じではないだろう。
畑が広くなったし、果樹も増えた。
薬草園もできたし、鉄器も増えた、ケーンのスキルを使わなくても豊かだ」
「その通りだが、1度とても豊かな生活を経験してしまった。
以前よりほんの少し豊かになったくらいだと、不足を感じてしまうのが人間だ」
「フィンリー神官、本当に完全に元通りにしなければいけないのか?
行商隊に酒や薬草を売らなければいいだけじゃないか。
村で飲み食いするだけなら、王侯貴族にも目をつけられないと思うぞ」
お父さんお母さんと同じ、戦う役の男性が反論した。
「それでやっていけるかもしれないし、やっていけないかもしれない。
美味しい果物や酒、普通の薬草だけなら大丈夫だったと思う。
だが、エリクサー薬草が作れるとなると、全力を使って探そうとする。
行商隊が来なくなったとしても、密偵が見張っているかもしれない」
「フィンリー神官、それは大丈夫だと思うぞ。
行商隊代表はとても慎重な性格だった。
前回もエリクサー薬草を買い渋っていたし、現物が売れない限り次は買えないと言っていたから、まだエリクサー薬草は売っていないはずだ」
「……確かにその可能性はあるが、行商隊を信じすぎるのは危険だ。
最悪の状況を覚悟しておくべきだ」
お父さんもお母さんの、フィンリー神官と行商隊代表、村と行商隊、どちらも長年の信頼関係があると言っていたけど、フィンリー神官は疑っているよ?
「フィンリー神官の言う事は間違っていないけれど、村の人たちの気持ちも考えてやって欲しいわ。
王侯貴族の密偵に見張られているからと言って、美味しい果物や酒を我慢するのは難しいわよ」
お母さんが他の村人のために文句を言った。
「それは私も分かっている、妻にも激しく文句を言われた」
フィンリー神官が苦笑いしている。
奥さんはモンブランとフルーツワインが大好きだからな。
「フィンリー神官、密偵にさえ見られなければ良いのですね?」
「そうだな、ケーンが木属性魔術を使えるのは村の衆全員が知っている。
今さら村の衆に隠す必要も意味もない」
「僕も村をも守るために色々と試してみました。
村どころか、果樹林、畑、里山全体を覆う蔦の壁を作れるのが分かりました。
蔦の壁に果樹林を隠したら、その中で木属性魔術を使っても良いでしょう?」
「蔦の壁だと、そんな頼りない物では村を守れないぞ。
まあ、密偵の目を防ぐことができればそれで良いのだが」
「頼りないかどうかは見て確かめてください。
それと、危険でも良いのなら、毒イバラの壁も作れます。
間違って村の人が触ると危険なのですが」
「毒イバラの壁だと?!
それが本当なら安心して暮らせるが……小さな子供には危険過ぎる。
本当に里山全体を覆う事ができるのか?」
「1日ではとても無理ですが、30日くらいかけたらできます。
里山まで行けたら、薪に困る事もないですよね?」
「ああ、十分だ、誰からも襲われないのなら、完全に村を閉じても良いくらいだ」
「おい、おい、おい、塩はどうするんだよ、塩がないと生きて行けないぞ」
お父さんの言う通りだと思う、前世では厳しく塩分制限されていたけれど、無ければ生きて行けないと、スマホで調べた時に知った。
「1つだけ開け閉めできる出入口があれば、こちらの都合の良い時に買い出しに行ける、完全に信用できない行商隊に頼る事もない。
だだ、全てはケーンがどんな壁を作れるかだ。
それを確かめない限り話し合いもできない、今日はこれで解散して、明日の朝集まってケーンに蔦壁魔術を見せてもらおう」
そう話が決まって、その夜の話し合いは終わった。
翌日早々に村人全員が集まって俺の蔦壁魔術を確かめる事になった。
生まれてしばらくの子供から村最年長のおじさんまで集まった。
「プロテクト・ウィズ・ア・ウォール・オブ・アイビー」
僕が選んだ蔦植物は葛、スイカ、アケビ、サルトリイバラなどだ。
葛は葉や茎の繊維を使って布が作れるし、根からは葛粉も作れる。
スイカは実は甘くて美味しいし、何より水代わりになる。
「プロテクト・ウィズ・ア・ウォール・オブ・アイビー」
アケビとサルトリイバラは実が美味しいし、薬としても使える。
更にサルトリイバラには、名前の通り猿でも通れないくらい鋭い棘があるから、密偵の侵入を防いでくれる。
「プロテクト・ウィズ・ア・ウォール・オブ・アイビー」
「これは、1つの蔦ではないのか、何重にも蔦の壁を作るのか?!」
フィンリー神官がとても驚いている。
僕も最初は1つの蔦植物だけで壁を作ってしまっていた。
だが、よく考えたら同じ蔦に拘る必要ななかった。
奥山の大木に這っていた蔦植物が、3種もあったのを見たのだ。
だから僕もやれるのか、蔦植物が喧嘩しないのか確かめてみた。
むしろ違う種類を混ぜた方が良いと分かった。
「はい、これなら密偵の目を防ぐだけでなく、村で必要な物も作れます。
蔦に絡まれる1番外側の果樹を犠牲にしますが、実をつける蔦壁を成長させる時に、それよりも多くの果実を手に入れられます」
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