火付け盗賊改め同心の娘は許婚に婚約解消され料理人を目指す。

克全

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大和屋の峯次郎

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「峯次郎、お前は勘当だ」

「何だって?
 何を言っているんだ父さん。
 いきなりそんな横暴な話があるものか!」

「いきなりではない。
 もう何度も言って聞かせていたはずだ。
 それなのにお前は、私の名前で遊郭で散財する。
 賭場で借金を作る。
 それだけならまだしも、金を笠に着て弱い者を虐げる!
 もはや許し難い」

「何を言っているんだ?
 父さんだって弱い武士を金で虐めているじゃないか!」

「お武家様と私は真剣勝負をしているんだ。
 ひとつ間違えば借金を踏み倒されるだけではなく、闇討ちされる可能性すらある。
 そんな真剣勝負が札差という仕事なんだ。
 町娘を弄んでおいて、店の金で黙らせるお前のような外道とは違う。
 もう昨日のうちに人別帳からは名前を抜いてある。
 とっとと出て行け」

「嫌だね。
 絶対に出て行かないからな!」

「先生方、話は聞いていましたね。
 叩きだしてください。
 四の五の言うようだったら、両腕の骨を叩き折ってください。
 足の骨を折ると出て行けなくなりますからね」

「ちくしょうめ!
 覚えていろよ!
 必ず仕返ししてやるからな!」

 大和屋の次男峯次郎は捨て台詞を残して自分から家を出て行った。
 父親の本気を感じて、何を言っても無駄だと悟ったからだ。
 何より父親の側にいた用心棒達が怖かった。
 長年父親の仕事を手伝ってきた強面の男達だ。
 父親がやっていいと言っているから、峯次郎が相手でも一切躊躇せずに腕を折る。

 札差の父親から信用され用心棒として遇されている者達は、旗本御家人が追加で借金を申し込むために送り込む、蔵宿師といわれる凄腕を相手にしなければいけない。
 そんな強面を相手にしなければいけない札差は、対談方と呼ばれる凄腕を雇っているが、中には五十両、いや二百両もの給金を得る者までいる。

 年収が二百両を石高で直せば二百石だ。
 手取り二百石といえば知行五百石の直参旗本に匹敵する。
 しかも軍役の家臣や下男下女を雇う必要もない。
 恐ろしく手取りのいい仕事だが、命懸けでもある。
 そんな対談方の中でも、特に信用があり腕もある者が、大和屋与兵衛の用心棒を務めており、それを峯次郎もよく知っていたので、内心は兎も角、素直に家を出て行ったのだ。

 峯次郎には行く当てがあった。
 今迄散々いい思いをさせてきた遊び人が数多くいたのだ。
 ですが、金の切れ目が縁の切れ目だ。
 大和屋与兵衛は、峯次郎が今迄遊び歩いていたところに、峯次郎を勘当したことを知らせていたのだ。

 もう誰ひとり峯次郎の相手をしてくれない。
 遊郭には入れてもらえず、賭場では散々殴られて叩きだされる。
 今迄御追従を言っていた遊び人からも足蹴にされる始末だ。
 ですが、そんな峯次郎に近づく者がいたのだ。
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