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後始末
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「黒鉄様。
この度は黒鉄様の陰で命拾いいたしました。
これはお礼というには些少過ぎますが、私の気持ちでございます。
どうか受け取ってください」
地獄の鬼太郎から札差大和屋与兵衛を庇って肩を砕かれた黒鉄長太郎勝頼は、当初高熱を発して生死を彷徨うほどであった。
大和屋与兵衛が医師を送り手厚い治療をした事で、何とか床払いができるところまで回復した。
「いや、いや。
当然の事をしたまでです。
こちらこそ医薬の手配をしていただき助かりました」
「とんでもございません。
命の恩人に医薬の手配をする事は当然でございます。
まして黒鉄様は娘つうの養父様でございます。
できる限りのお礼をさせていただくのは当然の事でございます。
この度の怪我が原因で、お役を引かれ隠居なされるききました。
色々と物入りとも思います。
不躾ではございますが、こちらをお持ちさせていただきました」
大和屋与兵衛も思い切った礼を持ってきた。
時に無礼といわれてもおかしくないお礼だった。
なんと千両箱で五つ、五千両の現金を持ってきたのだ。
「過分な礼恐れ入る。
だが情けない話だが、私ではうまく運用ができない。
手元金を残して大和屋殿に運用してもらいたいのだが、どうであろうか?」
「お任せください。
年利一割五分で運用してみせます。
手元金の方はどれほど残されるのですか?」
「それなのだが、娘の美幸が大奥に勤めたいと言っている。
そのために必要な資金にしたいのだが、大和屋殿に手蔓はないか?
私としては建部様に頼むつもりであったのだが」
「美幸様に事は、誠に申し訳ない事をいたしました。
そのための費用は手元金を使っていただくことなく、こちらで用意させていただきますが、本当に結婚されなくてよいのでございますか?
私共は色々とお武家様を見てまいりました。
頼りになるお武家様も幾人か存じております。
頼もしいお武家様をご紹介する事もできますが?」
「さようか。
今一度美幸と話し合ってみよう」
美幸の覚悟は変わらなかった。
黒鉄長太郎に命を助けられた火付け盗賊改め方長官・建部荒次郎と大和屋与兵衛が本気で後押ししてくれたので、美幸は大奥入りすることができた。
料理と薙刀の腕を買われて、大奥に慣れたら御膳所に詰めて煮炊きを取り仕切る御仲居の役目をもらうことになっていた。
御仲居がもらえるのは切米五石と合力金七両に二人扶持である。
これだけで父親の三十俵二人扶持と同じなのだ。
一方黒鉄家は、刀が持てなくなった長太郎に代わって、長男で十一歳の弦太郎忠信が見習同心として出仕することになった。
大和屋が運用してくれる五千両の利益が年間七百五十両である。
同心の年収が十六両だから四十六倍以上である。
大和屋が潰れない限り、黒鉄家は安泰となった。
この度は黒鉄様の陰で命拾いいたしました。
これはお礼というには些少過ぎますが、私の気持ちでございます。
どうか受け取ってください」
地獄の鬼太郎から札差大和屋与兵衛を庇って肩を砕かれた黒鉄長太郎勝頼は、当初高熱を発して生死を彷徨うほどであった。
大和屋与兵衛が医師を送り手厚い治療をした事で、何とか床払いができるところまで回復した。
「いや、いや。
当然の事をしたまでです。
こちらこそ医薬の手配をしていただき助かりました」
「とんでもございません。
命の恩人に医薬の手配をする事は当然でございます。
まして黒鉄様は娘つうの養父様でございます。
できる限りのお礼をさせていただくのは当然の事でございます。
この度の怪我が原因で、お役を引かれ隠居なされるききました。
色々と物入りとも思います。
不躾ではございますが、こちらをお持ちさせていただきました」
大和屋与兵衛も思い切った礼を持ってきた。
時に無礼といわれてもおかしくないお礼だった。
なんと千両箱で五つ、五千両の現金を持ってきたのだ。
「過分な礼恐れ入る。
だが情けない話だが、私ではうまく運用ができない。
手元金を残して大和屋殿に運用してもらいたいのだが、どうであろうか?」
「お任せください。
年利一割五分で運用してみせます。
手元金の方はどれほど残されるのですか?」
「それなのだが、娘の美幸が大奥に勤めたいと言っている。
そのために必要な資金にしたいのだが、大和屋殿に手蔓はないか?
私としては建部様に頼むつもりであったのだが」
「美幸様に事は、誠に申し訳ない事をいたしました。
そのための費用は手元金を使っていただくことなく、こちらで用意させていただきますが、本当に結婚されなくてよいのでございますか?
私共は色々とお武家様を見てまいりました。
頼りになるお武家様も幾人か存じております。
頼もしいお武家様をご紹介する事もできますが?」
「さようか。
今一度美幸と話し合ってみよう」
美幸の覚悟は変わらなかった。
黒鉄長太郎に命を助けられた火付け盗賊改め方長官・建部荒次郎と大和屋与兵衛が本気で後押ししてくれたので、美幸は大奥入りすることができた。
料理と薙刀の腕を買われて、大奥に慣れたら御膳所に詰めて煮炊きを取り仕切る御仲居の役目をもらうことになっていた。
御仲居がもらえるのは切米五石と合力金七両に二人扶持である。
これだけで父親の三十俵二人扶持と同じなのだ。
一方黒鉄家は、刀が持てなくなった長太郎に代わって、長男で十一歳の弦太郎忠信が見習同心として出仕することになった。
大和屋が運用してくれる五千両の利益が年間七百五十両である。
同心の年収が十六両だから四十六倍以上である。
大和屋が潰れない限り、黒鉄家は安泰となった。
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感想ありがとうございます。
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