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2話

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「そのような些末な事は、オリビア御嬢様が心配されなくても大丈夫です。
 事の真実は、すでに社交界に広まっていると連絡を受けております。
 オリバー王太子殿下のなさりようは、みなよく知っております。
 それに御嬢様の城代就任は名聞だけのモノでございます。
 些末な事で御嬢様を悩ませるようなことはございません」

 ありがたいことです。
 本来城代がすべき仕事は、全てこれまで通りジョージがやってくれるようです。
 なのに城代としての実績と名誉は、私にくれるというのです。
 ジョージの変わらぬ優しさが、傷ついた心を癒してくれます。
 
 でも少々ものたらない気持ちもあります。
 ここまで段取りしてくれたジョージには悪いのですが、私も何かやりたいのです。
 好きではなかったとはいえ、王太子に裏切られ面目を失った事を忘れたいのです。
 いえ、妹に裏切られたのが、思っていた以上に私を傷つけました。
 それを忘れるためには、無心になれる事をしたいのです。

「ジョージの気持ちはとてもうれしいわ。
 でも今は、何か無心になれることが必要なの。
 何か仕事を考えてくれないかしら?」

「分かりました。
 御嬢様の無聊をお慰めできるような仕事を、側仕えと相談します。
 ですがしばしお時間をいただきます」

 ジョージが、辺境の城まで私についてきてくれた、乳母のエミリーに目配せしてくれています。
 本当に私の仕事を与えていいのか。
 仕事を与える方が私が幸せになれるのか。
 私が生まれてからずっと面倒を見てくれていたエミリーが、誰よりも、私自身よりも理解してくれているからです。

「ええ、分かっているわ。
 エミリーと相談して決めてちょうだい」

 私は幸せです。
 私の事を本当に大切にしてくれる人たちに囲まれて暮らせるのです。
 もう王太子の婚約者として振舞わなくていいのです。
 王太子の欲望に満ちた視線を感じなくてすむのです。
 心穏やかに暮らせるのです。

 王太子の婚約者に選ばれて以降、帝王学を学ばされました。
 王太子が不出来であることが分かってからは、本来王太子が学ぶべきことまで、私が覚えさせられました。
 寝食を後回しにしなければいけないくらい、多くの事を学ばされました。

 帝王学だけではなく、最低限の武も魔法も学ばされました。
 いえ、最低限ではすみませんでした。
 なまじ才能があったから、いくら覚えても次々と新たな課題を与えられ続け、終わりのない苦行でした。

 社交界では、王太子の醜聞のせいで、私まであしざまに罵られました。
 王太子の婚約者の地位など、いつでも返上したかったのに、許されませんでした。
 許されないどころか、妬んだ者達から命まで狙われました。
 ようやく解放されたのです。
 やっと安心して熟睡できます。
 熟睡できると思ったのに……
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