転生 上杉謙信の弟 兄に殺されたくないので全力を尽くします!

克全

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第二章:屍山血河

第79話:威圧行軍、水軍交易分配制度と拿捕制度。

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天文十六年(1547)8月17日:上総木更津海賊城:俺視点

 今年も配下の国人地侍領民を威圧慰撫するために、二十万軍を率いて行軍した。
 昨年同様、日本海側を北上して津軽と下北の両半島を巡り、太平洋側を南下する。

「昨年に引き続き酒宴に御招きいただき、感謝の言葉もございません」

 大宝寺領に入って直ぐに周辺の国人地侍が挨拶に集まって来る。
 彼らも二年目で慣れて来たのか、必要以上の従者を連れて来ていない。

 ずっと争ってきた国人地侍への警戒は忘れていないが、俺の面目を潰して族滅の道を選ぶ馬鹿はいない。

「殿、思い上がった愚か者を処分しておきました」

 もちろん、十分な準備をした上で、万が一にも謀叛が起きないようにしている。
 謀叛の兆候はなかったが、強烈な危機感を持つ北条家が刺客を放ってきた。

 俺なら宝物のように大切に扱う風魔一族を、磨り潰す愚かな使い方をしている。
 形振り構わず自滅させる勢いで刺客を命じているが、無駄な事だ。
 まあ、今の北条家ではそれくらいしか手がないのだろう。

 子供を残して死ねない俺が城をでるのだ、万全の警護体制を整えている。
 内諜報部隊も外諜報部隊も総動員して、風魔一族を殺していった。
 迎え撃つだけでなく、相模、武蔵、伊豆に暗殺者を送って風魔一族を滅ぼした。

 それは当然として、行軍で食糧生産に悪影響が出ないようにしている。
 完全には補えないが、少しでも多くの食糧を生産できるように工夫した。
 女屯田軍を、種蒔きや収穫の時期が少しずつずれるように移動させた。

 春大麦の収穫と秋稲や夏大豆の種蒔きに悪影響が出ないように、屯田軍を温暖な地域から寒冷な地域に移動させている。

 女子供屯田軍を上手く移動させて、出来るだけ収穫量を減らさないようにした。
 俺と共に奥羽から関東に移動するのは、黒鍬軍と男屯田軍が主力だ。
 他は国人地侍で農耕をしなくても良い連中にだけに従軍を許可した。

 昨年は常陸の手前で行軍を停止させたが、今年は家臣を婿入りさせた常陸の国人地侍の城を巡り、厳冬期の間に調略した上総下総の国人地侍にも会った

 もちろん安全第一なので、無防備で上総下総に入ったりはしない。
 前衛軍の黒鍬部隊に、安心できる城を築かせてから入った。
 元々いた国人地侍に城を空け渡させてから入った。

「殿、お待ちしておりました。
 安心してお休みして頂ける城を築いてお待ちしておりました」

 黒鍬部隊が築城してくれた郭はとても堅固で、安心して泊まれる。
 周囲も黒鍬軍と男屯田軍が守ってくれている。
 毎日のように築城される城には、山のような軍資金と兵糧が運び込まれる。

 今年も昨年と同じように、陸軍と水軍が山のような麦と銭を運んでいる。
 行軍途上にある地域に湯水のように銭を撒いて行く。
 越後酒が忘れられなくなるように、毎日乱酒の酒宴を開いて君臣の契りを結ぶ。

「殿、このまま上総下総まで御供させていただきます。
 槍働きで奉公させていただきますので、その時には焼酎を一献賜りますように」

 昨年の行軍で焼酎を飲んだ事のある地侍が願い出る。
 清酒の風味を好む者が多いが、酔うと言う一点では焼酎に勝る酒はない。
 どうしてももう一度飲みたいと思う者がいてもおかしくない。

 そんな風に俺に挨拶できる国人地侍は、現地に婿入りした家臣達が選んでいる。
 昨年から常陸の国人地侍の家に婿入りした足軽大将や足軽組頭は、俺が作った基本方針書に従って、上総下総で調略した国人地侍の家に使者を送る。

 上総下総の国人地侍も、俺の家臣を婿入りさせた家がどれほど繫栄するか、多くの実例を見知っている。

 奥羽、上野下野、常陸で数百の家が以前の百倍千倍と豊かになっているのだ。
 自分も同じように豊かになりたいと思うのが普通だ。
 厳冬期の間、俺が行軍している間も婿を望む使者が跡を絶たない。

 俺が奥羽を行軍している間に、表の諜報部隊が上総下総に入って銭を撒いていた。
 里見家の侵攻で逼塞していた者や大きく領地を削られた者が、俺の家臣を婿入りさせる事を条件に、莫大な銭の支援を受けていた。

 大野城の狩野、国府台城の三階、権現城の上田、万喜城の土岐、中滝城の土岐、久留里城と真里谷城の武田、千本城の東平、秋元城の秋元、三直城の忍足などだ。

 彼らは里見義堯の目を欺き、人を集め城を強化していた。
 そして俺が軍を上総下総に進めると、直ぐに挨拶にやってきた。

「初めて御意を得ます、庁南の兵部大輔清信と申します。
 一命を賭して御仕えさせていただきます、何卒よろしくお願い申し上げます」

 里見家での身分が低く、代官として城を預かっているだけの者が、俺の調略に応じて天神台城、要害城、造海城、峰上城などを明け渡した。

「殿様の弱小国人地侍に対する優しい扱いに一族一門を預ける覚悟ができました。
 この命を捧げさせていただきますので、妻子の事を宜しくお願い致します」

 俺を頼ってきた者を無駄死にさせる訳には行かない。
 一族一門を安全な後方に送るだけでなく、当人も無駄死にしない場所に置いた。

 今の俺は、勝つためなら家臣領民を追い込み死なせていい立場ではない。
 天下を統一する事を前提に、評判を買わなければいけない状態になっている。

 多くの国人地侍が里見義堯から離れたが、忠誠を尽くす者もいる。
 小浜城の鑓田美濃守は俺の調略に惑わされなかった。
 勝浦城の正木時茂と時忠の兄弟も、里見家に忠誠を尽くして調略に応じなかった。

 だが、城代が守る高塚城と最明寺裏城は俺の調略に応じた。
 その影響で小浜城と大多喜根古屋城、佐貫城が里見家から孤立する事になった。

 そこに手柄を求める上野下野と常陸の国人地侍が集結した。
 北条氏康と里見義堯を裏切り、俺に味方した者達が集結した。
 農耕する必要がない上野下野と常陸の六百騎六千兵が、安房との国境に集結した。

 俺が禁じているので戦は仕掛けないが、里見義堯に強い圧力をかけた。
 安房一国は四万五千石しか生産力がない。
 全ての国人地侍が里見義堯に味方したとしても、抵抗するだけの兵力がない。

 安房の国人地侍の多くが海賊や漁で生活の糧を得ている。
 なのに、長尾水軍が安房水軍を湊に封じ込めているので、この一年間水軍の収入がなかっただけでなく、漁師としての収入も激減していたのだ。

 そんな状態では、里見義堯も配下の国人地侍に無理な動員はかけられない。
 何時圧倒的多数の長尾水軍に湊を襲われるか分からない状態の水軍衆に、上総方面に出陣しろとは命じられない。

 俺は毎年日本中の船大工に大型関船を建造させている。
 今では毎年四百隻の新造大型関船が長尾水軍に引き渡される。
 日本国内だけでなく、勘察加から南方まで船団を組んで交易している。

 難所でも座礁させない優秀な船頭は、大型関船百隻を率いる船大将に抜擢して、交易利益や拿捕した艦艇の一割を報酬として与えている。

「利益配分表」船長が指揮官を兼ねている場合は多い方
指揮官 :交易利益が一割、拿捕賞金は一割:人数割り
船長  :交易利益が二分、拿捕賞金は二割:人数割り
組頭以上:交易利益が二分、拿捕賞金は二割:人数割り
平民足軽:交易利益が三分、拿捕賞金は四割:人数割り
平民水主:交易利益が三分、拿捕賞金は一割:人数割り

 長尾水軍に入った優秀な船頭が、一夜にして莫大な財を成すのは交易商人の間では常識だった。

 日本中の水軍から、船頭や水主が長尾水軍に流れているのは常識だった。
 一攫千金を夢見る漁師の子弟が、長尾水軍に入りたがるのも常識だった。

 既に多くの漁師が安房、伊豆、三浦から家族で逃げ出して駿河と常陸に常駐している長尾水軍に志願している。

 俺が奥羽常陸の威圧慰撫行軍を終えて、黒鍬軍が新たに築いてくれた上総一之宮海賊城に入ったのは七月十五日の事だった。
 奥羽と常陸の国人地侍と主従の契りを結ぶのに、九十日かけて行軍した。

 江戸時代、弘前藩が江戸に参勤交代するのに必要だった日数が片道二十日だった。
 街道の状態、安全な必要な日時を考えても、国人地侍と主従の契りを結ぶのに充分な時間をかけた行軍だったと思う。

 俺は上総一之宮海賊城から房総半島を横断して、これも黒鍬軍が新たに築いてくれた木更津海賊城に入った。

 俺が木更津海賊城に入ると、味方すると臣従の誓いをしてから上総に布陣していた、上野下野、上総下総、常陸の国人地侍が俺の元に挨拶に来た。

 今年も昨年に引き続き朱塗りに杯を下して主従の契りを結んだ。
 少しでも親しみが持てるように、主従で歩み寄って関係を築いていく。
 俺は木更津海賊城に腰を据えて、付き従ってくれた国人地侍と親しんだ。

 俺に付き従う長尾水軍の大型関船四百隻が木更津海賊城沖に遊弋する。
 いや、安全に交易できると判断したので、更に八百隻の大型関船を投入した。

 長尾水軍は、里見水軍と北条水軍を無視して房総半島沖を往復した。
 常陸上総下総だけでなく駿河遠江三河から奥羽、いや、蝦夷から南方までの海上交易を盛んにさせた。

 長尾水軍の武力と繁栄を見せつけられる里見水軍と北条水軍の者達が、屈辱と同時に羨望を感じているのが伝わってくる。

 毎日のように長尾水軍に加わる安房、三浦、伊豆の漁師が教えてくれる。
 特に木更津海賊城を向かいに見る三浦衆にはとんでもない衝撃だったようだ。

 三浦衆と言うのは、北条家に滅ぼされた三浦氏の残党を、伊勢に本拠を持つ交易商人、梶原景宗を招いて束ねさせているのだ。

 利に敏い交易商人である梶原景宗が、伊豆の長浜城を与えられて三浦水軍の残党を率いているのだが、この状況をどう考えているかなど手に取るように分かる。

 いや、去就を悩んでいるのは梶原景宗だけではない。
 伊豆郡代の清水綱吉、土肥の富永直勝、江梨城主の鈴木繁朝など。
 彼らもこのまま北条家に残るか俺に味方するか悩んでいるはずだ。

 伊勢湾沿岸と関東地方を結ぶ交易商人でもある梶原景宗。
 自分の交易商人としての能力に自信を持つ梶原景宗が、配下の三浦衆、別名三崎十人衆を引き連れて、俺に降伏臣従するのは当然の事だった。

 北条家に残されたのは伊豆の水軍だけになった。
 下田城の清水、土肥の富永、西浦江梨の江梨鈴木、三津の松下らを主な船大将に笠原、秩父、伊東、仁杉、山中、村田、江川、高橋、桑原、横井などがいた。

 だが彼らも日々海上を我が物顔で遊弋する長尾水軍に封じられている。
 関東から東海にかけての交易が全くできなくなっている。
 海賊仕事どころか、漁師としても働けなくなり、湊は寂れる一方だ。
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