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密偵
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「周辺国は侵攻を控える考えが主流でございます」
「主流と言う事は、未だに侵攻を諦めていない者達もいるのだな」
「はい。アリステラ王国と争うことになっても、勝てると思っている愚か者もおれば、国境の首長家などの貴族を併合するくらいなら、アリステラ王国も見逃すと考える者もおります」
「だとすると、そのような愚かな考えを払拭する意味でも、ゼスト王国に攻め込むべきだな」
「全てはアーサー陛下の御心のままに」
「からかわないでくれますか、ブラッドリー先生」
「からかってなどおりません。昔指導をさせて頂いたからと言って、戴冠された陛下をからかうなど、あってはならない事でございます」
「分かったよ。それでブラッドリー、魔境は調べてくれたのか?」
「はい。ゼスト王国の魔境とダンジョンでございますが、国境から十キロメートル北に入ったところにあります」
「ゼスト王国最精鋭の部隊と言うのと戦ったが、魔境で鍛えたとは思えない弱さだったが、何故なのだ?」
「ゼスト王国では、魔境で将兵を鍛えていないようでございます」
「冒険者はどうなのだ。魔境を活用しているなら、もう少し豊かだと思うのだが?」
「ゼスト王国では、魔境をうまく活用する制度が整っていません。時に飛び抜けた冒険者が現れるようですが、そのような者は権力者から搾取され、家族を人質に取られて無理な狩りを強いられ、無念の死を遂げるようです」
「ゼスト王国から逃げ出した者はいないのか?」
「おります。ゼスト王国内だけの調べでは、逃げ切れたのか、捕まって殺されたのかは分からなかったですが、アリステラ王国内の冒険者登録を調べると、ゼスト王国から逃げて、アリステラ王国で活動している冒険者がいました」
「なるほど。だとすると、その逃げ延びた者を俺が冒険者騎士として召し抱えたら、ゼスト王国の冒険者を取り込める可能性があるな」
「はい」
「ではその工作を頼む」
「承りました」
「それとゼスト王国の冒険者は、どれくらいの実力なのだ」
「銅級から鉄級です。どれほど強くなっても、銀級以上の魔獣を狙おうとはしません。無理をして強くなっても、権力者に搾取され死ぬまで働かされるだけなので、家族を養える程度にしか狩ろうとしません」
「それでゼスト王国では強者が育たないのだな」
「はい」
ブラッドリー先生は、正式にゴールウェイ王国の密偵頭に仕官した。
父王陛下や王太子殿下の紐付きだとは思うが、密偵網の全くなかったゴールウェイ王国にとっては、喉から手が出るくらい欲しかった人材だ。
二重スパイだろうとも、俺にアリステラ王国と戦う意思がない以上、全く何の問題もない。
王太子殿下や重臣達に、ゴールウェイ王国を併合する野心があれば別だが、そんな事をするくらいなら、素直にネッツェ王国を攻め取った方が簡単だ。
衛星国と言うべきか属国と言うべきかはっきりしないが、叛意のない弟が建国した国を攻め取れば、それこそ周辺国全てから警戒されてしまう。
それよりは俺と手を携え、ネッツェ王国を併合するか、俺にネッツェ王国を牽制させておいて、エステ王国かイーゼム王国に侵攻した方がいい。
「ブラッドリー、父王陛下と王太子殿下の真意を聞いてきてくれ」
「承りました」
王道を歩みたいが、王太子殿下の考え次第では、覇道を歩まなければならないかもしれない。
「主流と言う事は、未だに侵攻を諦めていない者達もいるのだな」
「はい。アリステラ王国と争うことになっても、勝てると思っている愚か者もおれば、国境の首長家などの貴族を併合するくらいなら、アリステラ王国も見逃すと考える者もおります」
「だとすると、そのような愚かな考えを払拭する意味でも、ゼスト王国に攻め込むべきだな」
「全てはアーサー陛下の御心のままに」
「からかわないでくれますか、ブラッドリー先生」
「からかってなどおりません。昔指導をさせて頂いたからと言って、戴冠された陛下をからかうなど、あってはならない事でございます」
「分かったよ。それでブラッドリー、魔境は調べてくれたのか?」
「はい。ゼスト王国の魔境とダンジョンでございますが、国境から十キロメートル北に入ったところにあります」
「ゼスト王国最精鋭の部隊と言うのと戦ったが、魔境で鍛えたとは思えない弱さだったが、何故なのだ?」
「ゼスト王国では、魔境で将兵を鍛えていないようでございます」
「冒険者はどうなのだ。魔境を活用しているなら、もう少し豊かだと思うのだが?」
「ゼスト王国では、魔境をうまく活用する制度が整っていません。時に飛び抜けた冒険者が現れるようですが、そのような者は権力者から搾取され、家族を人質に取られて無理な狩りを強いられ、無念の死を遂げるようです」
「ゼスト王国から逃げ出した者はいないのか?」
「おります。ゼスト王国内だけの調べでは、逃げ切れたのか、捕まって殺されたのかは分からなかったですが、アリステラ王国内の冒険者登録を調べると、ゼスト王国から逃げて、アリステラ王国で活動している冒険者がいました」
「なるほど。だとすると、その逃げ延びた者を俺が冒険者騎士として召し抱えたら、ゼスト王国の冒険者を取り込める可能性があるな」
「はい」
「ではその工作を頼む」
「承りました」
「それとゼスト王国の冒険者は、どれくらいの実力なのだ」
「銅級から鉄級です。どれほど強くなっても、銀級以上の魔獣を狙おうとはしません。無理をして強くなっても、権力者に搾取され死ぬまで働かされるだけなので、家族を養える程度にしか狩ろうとしません」
「それでゼスト王国では強者が育たないのだな」
「はい」
ブラッドリー先生は、正式にゴールウェイ王国の密偵頭に仕官した。
父王陛下や王太子殿下の紐付きだとは思うが、密偵網の全くなかったゴールウェイ王国にとっては、喉から手が出るくらい欲しかった人材だ。
二重スパイだろうとも、俺にアリステラ王国と戦う意思がない以上、全く何の問題もない。
王太子殿下や重臣達に、ゴールウェイ王国を併合する野心があれば別だが、そんな事をするくらいなら、素直にネッツェ王国を攻め取った方が簡単だ。
衛星国と言うべきか属国と言うべきかはっきりしないが、叛意のない弟が建国した国を攻め取れば、それこそ周辺国全てから警戒されてしまう。
それよりは俺と手を携え、ネッツェ王国を併合するか、俺にネッツェ王国を牽制させておいて、エステ王国かイーゼム王国に侵攻した方がいい。
「ブラッドリー、父王陛下と王太子殿下の真意を聞いてきてくれ」
「承りました」
王道を歩みたいが、王太子殿下の考え次第では、覇道を歩まなければならないかもしれない。
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