2 / 8
1話
しおりを挟む
「マリア様!
聖女様!
大変です!
子供達が城壁の下敷きになりました!」
王都の貧民街に住む男が、廃屋に見えるボロボロの家に飛び込んできた。
日頃から余裕があれば、このボロ屋を修理したり掃除したりする者の一人だ。
辛い貧乏生活の中でも、笑顔を忘れずにいる人の好い男だった。
その男が、血相を変えて飛び込んできたのだ。
「直ぐに案内してください」
「はい、聖女マリア様」
修道女服を着た、まだ幼さの残る黒髪の娘が、顔を引き締めてボロ屋をでる。
彼女には大体の情景が思い浮かんでいた。
広大な王都には、表もあれば裏もある。
繁栄しているように見える王都にも、彼女が住む貧民街がある。
城門を出入りする通行税が払えない貧民は、城壁が崩れた周囲に住んでいる。
一部が崩れているとはいっても、一国の王都を守る城壁だ。
乗り越えるには残った城壁を結構よじ登らなければいけない。
子供達には大変な事なのだが、城壁を超えて城外の森や草原に行かなければ、孤児の子供達は飢えて死んでしまうのだ。
聖女と称えられてはいても、マリアには孤児達すべてに食事を与え、飢えないようにする事などできなかった。
「子供達を癒します。
まず傷口の小石を取り除いて、きれいな水で傷口に洗ってください。
癒した子供達に水を与えたいので、今から湧かして冷ましてください」
聖女マリアが駆けつけた場所には、想定よりも悪い光景が広がっていた。
マリアが考えていたのは、城壁をよじ登ろうとして落ちた事。
もう一つは、城壁をよじ登ろうとして、レンガや石が落ちてきたこと。
だが実際に来てみれば、抜け穴を作ろうと城壁を掘っている途中で、城壁が崩れて十三人もの子供が下敷きになっていたのだ。
多くの子供の骨が折れ肉がえぐれている。
なかには胸が潰れている子までいた。
頭が潰れて即死している子がいないのは幸いだが、肺が潰れている子は急いで高位治癒魔術をかけなければいかない。
傷口には小石や砂が入り込んでいる。
この世界には傷口の洗浄やデブリードマンの知識はないから、一つ一つ教え指示しなければいけない。
何より問題なのは、重傷を負った十三人もの子供を、一度で高位治癒魔法を施せる力がある事を隠さなければいけない事だ。
その力が噂になったら。
貧民街で治療を続けることができなくなってしまう。
王侯貴族に無理矢理囲い込まれて専属治癒術師されるか、神殿に囲い込まれて金儲けと信者集めの道具にされてしまう。
そんな事は絶対に嫌だった。
だが、治療をためらったら、眼の前の子供達が死んでしまう。
マリアは一瞬の迷いを断ち斬った。
聖女様!
大変です!
子供達が城壁の下敷きになりました!」
王都の貧民街に住む男が、廃屋に見えるボロボロの家に飛び込んできた。
日頃から余裕があれば、このボロ屋を修理したり掃除したりする者の一人だ。
辛い貧乏生活の中でも、笑顔を忘れずにいる人の好い男だった。
その男が、血相を変えて飛び込んできたのだ。
「直ぐに案内してください」
「はい、聖女マリア様」
修道女服を着た、まだ幼さの残る黒髪の娘が、顔を引き締めてボロ屋をでる。
彼女には大体の情景が思い浮かんでいた。
広大な王都には、表もあれば裏もある。
繁栄しているように見える王都にも、彼女が住む貧民街がある。
城門を出入りする通行税が払えない貧民は、城壁が崩れた周囲に住んでいる。
一部が崩れているとはいっても、一国の王都を守る城壁だ。
乗り越えるには残った城壁を結構よじ登らなければいけない。
子供達には大変な事なのだが、城壁を超えて城外の森や草原に行かなければ、孤児の子供達は飢えて死んでしまうのだ。
聖女と称えられてはいても、マリアには孤児達すべてに食事を与え、飢えないようにする事などできなかった。
「子供達を癒します。
まず傷口の小石を取り除いて、きれいな水で傷口に洗ってください。
癒した子供達に水を与えたいので、今から湧かして冷ましてください」
聖女マリアが駆けつけた場所には、想定よりも悪い光景が広がっていた。
マリアが考えていたのは、城壁をよじ登ろうとして落ちた事。
もう一つは、城壁をよじ登ろうとして、レンガや石が落ちてきたこと。
だが実際に来てみれば、抜け穴を作ろうと城壁を掘っている途中で、城壁が崩れて十三人もの子供が下敷きになっていたのだ。
多くの子供の骨が折れ肉がえぐれている。
なかには胸が潰れている子までいた。
頭が潰れて即死している子がいないのは幸いだが、肺が潰れている子は急いで高位治癒魔術をかけなければいかない。
傷口には小石や砂が入り込んでいる。
この世界には傷口の洗浄やデブリードマンの知識はないから、一つ一つ教え指示しなければいけない。
何より問題なのは、重傷を負った十三人もの子供を、一度で高位治癒魔法を施せる力がある事を隠さなければいけない事だ。
その力が噂になったら。
貧民街で治療を続けることができなくなってしまう。
王侯貴族に無理矢理囲い込まれて専属治癒術師されるか、神殿に囲い込まれて金儲けと信者集めの道具にされてしまう。
そんな事は絶対に嫌だった。
だが、治療をためらったら、眼の前の子供達が死んでしまう。
マリアは一瞬の迷いを断ち斬った。
0
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
どうぞお好きになさってください
みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。
婚約者の第一王子殿下は言った。
「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」
公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。
「好きになさればよろしいわ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる