前世水乙女の公爵令嬢は婚約破棄を宣言されました。

克全

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第二章「恋愛」

60話

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 火竜シャーロットは強大だった。
 ドラゴニュートも、普通の士大夫や騎士では傷一つ付けられない、頑強無比の体表をもち、フルアーマープレートを切り裂く爪と牙を持っていた。
 そんな火竜シャーロットとドラゴニュートが、東西の第二次ゴライダ王国支援軍を壊滅させた。

 いや、壊滅させただけではない。
 人間牧場で飼う事になった。
 その時に、仕方なく家族で従軍した女が大切にされた。
 人間牧場の母人間にされたのだ。
 無残な話だった。

 権力者の欲が、地に足を付けて暮らしている民を地獄に叩き落した。
 権力者がサライダ王国を手に入れようとしなかったら、誰も人間牧場で飼われることはなかったのだ。
 砂漠や荒野で喰い殺されることはなかったのだ。

 火竜シャーロットは大量の食糧を手に入れた。
 今いる子供や孫の数を計算して、牧場で飼う人間の数に余裕を持たせた。
 同時に涙を呑んで、ドラゴニュート同士から産まれた孫を生贄にし続けた。
 アシュラム達を強化する事を止めなかったのだ。
 強い子を産みたい本能なのか欲望なのか?

 だがアシュラム達はあまり王城に来なくなった。
 カチュア姫との交友を優先したのだ。
 カチュア姫の考え方を、自分達に都合がいいように誘導したのだ。
 万物にとって正しい考え方などない。
 種族や時代によって正義は変わるのだ。

 当然火竜と人間の正義は違う。
 同じ人間でも住む国によって正義は違う。
 同じ国でも時代によって正義は変わる。
 別の国で生まれ育ったカチュア姫とアシュラムの正義が一致するはずがないのだ。
 それなのに、カチュア姫の考えをアシュラムの考えに染めようとしたのだ。

 アシュラムが何を考えているのかは分からない。
 だが身体強化のための鍛錬を続けた。
 ドラゴニュートを斃すことなく、身体強化を図った。
 ある程度身体強化が出来たアシュラム達が、命懸けの実戦稽古を行い、互いの能力を引き上げようとしてるのだ。

 アシュラム達には精霊がついている。
 いや、憑いていると言った方がいいのかもしれない。
 だからこそ、火竜シャーロットの考えも分かるのだ。
 ある程度の強さになったら、交尾相手として拉致され、人間牧場で飼われることになる事を。

 だから自分達だけで身体強化が出来るように、色々と創意工夫したのだ。
 その中の一つが、自分達の限界を出して鍛錬する事だった。
 特に効果があったのが、それぞれの守護精霊の力を借りて、死力を尽くした鍛錬をする事だった。
 一つ間違えば、相手を殺してしまうような鍛錬だった。

 その鍛錬がアシュラム達を格段に強くした。
 しかしそれが、火竜シャーロットに決断をさせてしまったのだ。
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