夢にまで見た異世界転移だけど、勇者に成る気はありません。引き籠って生きたいのです。

克全

文字の大きさ
68 / 68
第二章

第63話:王配

しおりを挟む
転移148日目:山本光司(ミーツ)視点(バカ天使に盗み見させた知識込み)

「俺がクラリス王女を戴冠させて王配となる、反対する者は名乗り出ろ!」

 数多くの魔獣を引き連れて入城したダニエルズ辺境伯マイルズが言う。
 この3日間、あらゆる可能性の考えセリフを覚えさせたマイルズが言う。
 
「……誰に断って私の夫になると言っているのですか!?」

 数千の魔獣を引き連れて王城に押し入り、謁見を強要したマイルズに対して、恐怖に顔をひきつらせたクラリス王女が問い質す。

「誰にも断ってなどいない、好きでやっている訳でもない。
 辺境伯家の当主を交代させ、王国の宰相を失脚させ、腐った王侯貴族士族を皆殺しにした大魔術師にやれと言われたから、仕方なくやるんだ」

「大魔術師……それは、王都で暴れた魔獣使いの事ですか?」

 クラリス王女がマイルズを守る数十の肉食魔獣を見ながら聞く。
 魔獣は王城の謁見場にいるだけではない。
 王城の要所全てと、良識派貴族の王都屋敷にもいる。

「さあね、俺は王女殿下の言われる魔獣使いに会った事がないから分からん。
 分かっているのは、これ以上愚かで腐り切った王侯貴族士族には付き合いきれないと、大魔術師殿が激怒された事だけだ。
 敵対する連中がいなくなった途端、これまでの仲間と権力争いをするような連中に、国の行く末を任せられないと、判断された事だけだ。
 俺が王配になって国を治めないのなら、残っている王侯貴族を皆殺しにして隣国に統治させると、大魔術師に言われただけだ」

「なんだと?!」
「隣国に国を売ると言うのか?!」
「この不忠者が!」

「「「ぎゃっ」」」

 自分の行いを棚に上げて他人を非難する奴は、魔獣に食わせる。
 文句を言った元仲間が、魔獣の爪に引き裂かれ、内臓を引きずり出されて貪り食われる様を見た良識派貴族達は、震え上がっている。

「本気、なのですね?」

「本気だと? 冗談でこんなとこまでは来ない。
 俺は、言われた事を嫌々やるだけだが、大魔術師殿は本気で怒り狂っているぞ。
 国を治めて民を救うと言っていた癖に、暗闘に走る家臣達を止められない。
 散々酷政を繰り返して民を苦しめた王を処分しない。
 俺が役目を引き受けなかったら、今頃お前達は皆殺しになっている」

「ダニエルズ辺境伯閣下、閣下と大魔術師殿の言い分は分かりました。
 確かに我々は私利私欲の暗闘を繰り返した。
 だがそれは、少しでも民に被害を与えないためだ。
 表立って争ったら、民に被害が及ぶと思ったからだ」

 クラリス王女の親衛隊長になったマギーの姉御が言い訳をする。

「言い訳にもならない嘘を吐くのは止めろ。
 表立って争っても民に被害などでない、王都にいる魔獣が即座に皆殺しにする。
 お前達は、自分の命は惜しいくせに、不当に権力や富を手に入れようとした。
 その責任は、自分の命で支払うしかない、それだけの事だ」

「待ってくれ、謝る、私が悪かった、謝るから殺さないでくれ」
「私も謝る、もう権力には近づかない、だから殺さないでくれ」
「反省する、王都から離れる、領地に戻る、だから殺さないでくれ」

 目の前で3人の貴族が魔獣に貪り食われているのだ。
 王配の座を争っていた貴族達は必死で謝る。
 
「俺に言っても無駄だ、お前達の生死を決めるのは大魔術師殿だ。
 何より、口先だけの言い訳など何の意味もない。
 お前達は、国のために働くと言った誓いを反故にして、私欲に走った。
 殺されたくなければ今直ぐ行動で示せ!」

「分かった、急いで領地に戻る、もう二度と王都に来ない」
「私も領地に戻る、もう二度と国政には関わらない」
「館に戻って急ぎ領地に戻る準備をする、だから殺さないでくれ」

 良識派貴族だった連中が急いで謁見の間から逃げ出した。
 仲間だった貴族3人が魔獣に貪り食われる現場から逃げたかったのだろう。
 
「誰も残りませんでしたね」

 マイルズが馬鹿にするように言った。
 良識派貴族が全員逃げ出して、ダニエルズ辺境伯とマギー近衛隊長、マギー配下の元冒険者近衛兵だけしか残らなかった。
 後は、姿も気配も臭いも消して、全てを確認している俺とネイだけだ。

「情けない、良識派などと良く名乗れたものだ!」

 マギーが吐き捨てるように言う。
 ずっとクラリス王女を助けて来ただけに、愚かな争いをした者達が許せないのだろう、当然の感情だが、今怒るならこうなる前に命懸けで動くべきだった。
 
「人の事よりも自分の事を反省しろ。
 ここまで来る前に、もっとやれることがあっただろう!」

「その場にいなかった奴が、好き勝手言うんじゃない!
 実際に王国の政治を携わると、思っていた通りにはできないんだ!」

 マギーがマイルズに反論するが、俺から見れば言い訳に過ぎない。
 ただの冒険者だったマギーだとしかたがないのだが、王女がいるのだ。
 自分でできない事は、人を上手く使ってやらせれば良いのだ。

 少なくとも王女であるクラリスには、家臣を上手く使って政治を行う責任がある。
 マギーもそれが分かっていて、クラリス王女を庇っているのかもしれないが、庇い続けていたら何時まで経っても成長しない。

「マギーに言っているんじゃない、王女殿下に言っているんだ。
 王都には隔絶した力を持つ魔獣使いがいた。
 1度は面識を持っていたから、その気になれば会う事も助力を願う事もできたのに、ちっぽけなプライドの為に自分でやろうとした。
 何でも自分でやろとするのは、平民や一兵卒の生き方だ。
 上に立つ者、それも王位を継ぐ者なら、使える者は誰でも使うべきだった」

「言い訳のしようもありません、全部私の弱さがこの事態を引き起こしたのです。
 これまで何かと助けてくれて来た、良識派の者達に厳しく接しられなかった。
 全部私が悪いのです、ですが、私以外に適任がいないのではあませんか?
 隣国に統治を任せると言われましたが、それでは圧政になるのではありませんが?
 圧政を防ぐのに、また戦わなければいけないのではありませんか?
 実力不足でも、私の方がマシなのではありませんか?
 だからこそ、大魔術師殿は、ダニエルズ辺境伯を王配にしようとしているではありませんか?」

「分かっているなら、素直に俺を王配にしてくれ。
 あ、それと、俺の台所領に孤児院長が接収した領地は全部もらうぞ」

「欲深いにも程があるぞ!」

 マギーの姉御が目をむいて怒る。

「仕方がないだろう、ダニエルズ辺境伯領とオースティン伯爵領を大魔術師殿に取られて、今の俺は全く領地の無い貧乏人なんだ。
 孤児院長殿が接収した領地くらいもらわないと、王配としての対面も保てない」

「なんだって、ダニエルズ辺境伯領とオースティン伯爵領を奪われた?!」

「元々大魔術師殿がいなかったら手に入らなかった領地だ。
 寡婦や孤児、老人を養うのに必要だから出ていけと言われたら、逆らえない。
 国を治める手助けをしてやるから、それくらいの領地は寄こせ。
 それと、大魔術師殿に領地を与えておかないと、心底愛想をつかれたら、この国から出ていってしまうぞ。
 大魔術師殿に出ていかれたら、今の状態では、隣国に滅ぼされるぞ」

「……分かりました、大魔術師殿に見捨てられて、隣国に売られるのも殺されるのも嫌です、孤児院長殿が接収した領地はダニエルズ辺境伯に渡します。
 あ、もうダニエルズ辺境伯ではなかったのですね」

「俺が貰う領地の中に伯爵領があっただろう?
 他の領地も全部合わせて、辺境伯でも侯爵でも良いから、新たな爵位をくれ。
 その代わり、絶対に始末しなければいけない国王を殺してやるよ」

「絶対に殺さないといけないのですか、僧籍に入れるだけではいけないのですか?」

「今の言葉を、国王の酷政で死んでいった者と、後に残された人達に言えるのか?」

「それは……」

「王女殿下の手で、実の父親を殺せとは言わない、王配になる俺が殺してやる。
 殺して王都に晒して、民にこの国が変わった事を訴えるんだ」

「分かりました、私も覚悟を決めます、この手で父王を殺します」

 これでひと段落ついた!
 ただ、ここで全部押し付けて引き籠もるほど無責任ではない。
 この国の民が苦しまないように、目を光らせ手を貸し続ける。

 それでも、この国の為に使う時間をかなり減らせるはずだ。
 余裕が出た時間は全部ネイの為に使おう。

「ネイ、魔境に帰ろうか?」

「うん!」
しおりを挟む
感想 32

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(32件)

湖
2025.10.05

何でクラリスは王都に魔獣を連れ込んじゃ駄目って言うんだろう、ちゃんと魔獣を支配下においているって知らないのかな

2025.10.05 克全

湖さん、コメントありがとうございます。

普通は魔獣を使役出来ないのです。
魔獣も野獣もコントロールできないので、耕作すら満足にできていません。

解除
美夕
2025.10.01 美夕

気持ちがいいくらい、悪人たちを倒していってますね!
女性たちに復讐?仕返しが出来るようにもしているのは共感が持てます。
まあ、来る奴らを叩きのめしていれば、そのうちに良識ある貴族たちから接触がある筈ですし、「今」は孤児院の事に集中していればいいと思います。
国って言うのは、偉そうにふんぞり返る王・貴族だけでは何もできない。国民あってこそって言うのを程度の差があれ、理解出来ている王族がいて欲しい。
酷い・辛い目に遭っている女性と子供を優先して助けていますが、中には善良で虐げられている男性もいると思うので、救済して、農工業に励んで自給自足体制になれればいいと思います。

遅くなりましたが、更新再開とても嬉しいです

2025.10.01 克全

美夕さん、コメントありがとうございます。

そうですね、男性も苦しんでいますよね。

助けるようにします。

解除
湖
2025.09.30

悪人を再起不能にするくらいなら殺してあげたほうがいいよ、生かしておいても何の得もない

2025.09.30 克全

湖さん、感想ありがとうございます。

情けをかけて即死させるのも1つですね、でも、悪人を楽に殺して良いのでしょうか?

多くの人々を苦しめたのと同じだけ、苦しい思いをさせてから殺すべきだと思っています。

そして、直接殺す権利は、苦しめられた人か、その遺族に有ると思っています。

解除

あなたにおすすめの小説

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます

碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」 そんな夫と 「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」 そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。 嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。