念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全

文字の大きさ
29 / 45
第一章

第29話:薬物

しおりを挟む
 祖父が内憂となる佞臣奸臣悪臣を全て粛清した。
 側近くにいた実力者をすべて粛清し、軍の幹部も少なくない数を粛清したので、清廉潔白な性分だからこそ出世できなかった連中が、数多く抜擢された。
 以前にも言ってたが、長い物には巻かれていたような小者までは殺さず、境界域での強制労働刑にして穀物の生産に役立たせた。

 俺は辺境伯代理と役目をもらった事で、色々と忙しくなってしまった。
 エドワーズ子爵としての役目を十分に果たせる状態ではなくなってしまった。
 そこで異母弟のメイソンにエドワーズ子爵代理の役目を与えた。
 まだ11歳のメイソンに領主の仕事ができるとは思っていない。
 俺だって前世の記憶と知識があっても十分に役目は果たせていないのだ。
 だが、カチュアの使用人たちを補佐につければ、上手くやれると思う。

 それはドラゴン伯爵の役目も同じだった。
 祖父に成り代わり、誰にでもできるような、儀式の場で座っているだけの役目を、三代目候補の父が担っていたのだが、それを同母弟のコナンに任せたのだ。
 母が見張っている父にやらせたら、祖父やカチュアが見逃した佞臣奸臣悪臣が、父を傀儡にして復権しようとするかもしれない。
 小者だと思って軽い処分に済ませた者が、以外に悪知恵が働くかもしれない。

 だからコナンにドラゴン伯爵代理の役目を与え、儀式などの出席を任せたのだ。
 父の時と同じように、コナンの事は母の護衛騎士や戦闘侍女が護ってくれる。
 何より大切なのは、異母弟のメイソンに役目を与えた事への配慮だ。
 エドワーズ子爵代理はメイソンにしか任せられないが、その所為で母が危機感を持ったり警戒心を持っては、辺境伯家一族内に亀裂を生んでしまう可能性がある。
 母の実子には、エドワーズ子爵代理に異常の役目を与える必要があったのだ。

「カーツ様、ご身内を粛清して頂かねばならない事が分かりました」

 今日もまたヴァイオレットが挑戦的な表情で言ってくる。
 今更誰を粛清しなければならなくなっても驚かない。
 問題は俺がカチュアたちの望む答えを返せるかどうかだ。
 正しい答えが返せれば、傀儡と言うべきなのか、主君だと言っていいのか分からないが、辺境伯代理を務める伯爵のままでいられるだろう。

「誰を粛清しなければいけないのだ」

「大英雄アーサー様のご長女、オリビア様の傍流がピーターソン子爵家に嫁がれておられるのですが、ピーターソン子爵が領民を奴隷のように酷使しております」

「ふむ、人道としては許し難いが、領主としても許されない事なのか。
 滅んだ皇国の法ではなく、辺境伯家の法に従って罪なのか。
 法を犯した証人がいるか、証拠があるのなら、私も処罰が必要だと思う。
 私が権力を握ったからと言って、私憤や気分で人を処罰などできない。
 むしろ権力を握ったからこそ、今までのような粛清は許されない。
 どうなのだ、ヴァイオレット。
 ピーターソン子爵家がやっている事は、処罰するのが当然の事なのか」

「さすがでございます、カーツ様。
 カーツ様の申される通り、ピーターソン子爵が領民を酷使した程度では、処罰するわけには参りません。
 権力を握られたからこそ、それを使う事に慎重になられる。
 人の上に立つのに相応しい態度でございます」

 ヴァイオレットがにやりと笑いながら褒めてくれるが、その表情から判断すると、まだ50点なのだろうな。
 うれしいような哀しいような、以前よりも正確にヴァイオレットの表情が読めるようになってきたが、それを伝える訳にはいかないな。
 そんな事を口にしたら、隣りに座っている義姉さんが焼餅を焼いてしまう。

「だがそれは、今私に報告してくれた範囲の事なのだろう。
 まだ報告していない事があると思うが、なんなのだ」

 ヴァイオレットがうれしそうな笑顔を浮かべてくれる。
 それはいいのだが、隣りの義姉さんから不機嫌な気配が伝わってくる。
 俺を挟んで反対側に座っているメイソンがオロオロしているのが可哀想だ。
 その隣に座っているイザベルさんからはおもしろがっている気配が伝わってくる。
 ああ、本当に情報の共有など言いださなければよかった。
 こんな事になるとは全く考えていなかった。

「まだ証拠はつかめていないのですが、ピーターソン子爵家で違法薬物が作られているという噂がございます」

「ヴァイオレットが私たちに聞かせるという事は、まず間違いないのだな」

「はい、証拠をつかむのは難しいと思いますが、間違いないと思っています」

「証拠をつかむ前に私たちに教えたのは、辺境伯家の縁者をピーターソン子爵家から連れ戻せと言う事だな。
 辺境伯家の事を考えてくれるのはいいが、それでは証拠をつかむのが難しくなるのではないか」

「その通りではあるのですが、その薬物はかなり危険なモノで、使った相手を言いなりにする事ができるのです。
 ピーターソン子爵家が辺境伯家を傀儡にするつもりなら、傍流の女性に使われている可能性があります」

「ヴァイオレットがそんな危険があるというのなら、すでにオリビア殿のオリビアン家の人々に使われている可能性があるのだな」

「はい、ピーターソン子爵夫人は度々実家に戻られておられます。
 オリビアン家の人々も度々ピーターソン子爵城に訪問されておられます」

「その違法薬物には常習性や禁断症状があるのか」

「領内に出回っている違法薬物を買った者たちを調べましたが、強い常習性と激烈な禁断症状があるようでございます」

「違法薬物にどっぷりとはまった人間から薬を抜くことはできるのか」

「領内の常習者たちを調べた範囲では、不可能に思われます。
 違法薬物を手に入れるためなら、売春や強盗はもちろん殺人まで平気でやります。
 一生隔離しておかなければ、いつ誰かを殺すか分かりません」

「ヴァイオレットは、俺が一族を助けるために動くのか、元凶を取り除くために一族を切り捨てるのかを確かめたいのだな」

「はい、その通りでございます」

 義姉さんたちが俺の言葉に息を飲んだ。
 くわしい事情は分からないが、ピーターソン子爵夫人やオリビアン家の人々は、騙されて薬物中毒にされた被害者かもしれない。
 俺が同じ立場でも、同じように薬物中毒にされていたかもしれない。
 本家の者として、一族を助けるべきだという考えの者もいるだろう。

「可哀想だが、証拠をつかむ事を優先する。
 ここで取り逃がせば、どのような手段を使って辺境伯家の人間に薬物を使ってくるか分からない。
 もう中毒になった人を元通りにする事ができないのなら、助けた後でできるだけ人らしく生きて行けるように手助けするだけだ。
 なにがなんでも薬物犯罪の証拠をつかめ。
 どうしても証拠がつかめず、だがピーターソン子爵の元に確かに薬物があるというのなら、義姉さんと一緒にピーターソン子爵城を強襲する」

「ご下命、承りました。
 必ず証拠をつかんで見せます」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました

竹桜
ファンタジー
 誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。  その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。  男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。   自らの憧れを叶える為に。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

処理中です...