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第一章
第3話:悪女アイリン
ツビンズ公爵アーシム卿は追い込まれていた。
忠義と恐怖と愛情のはざまで煩悶していたが、どれほど考えても解決策が思い浮かばず、逃げ出したいと思うほどだった。
だが逃げる事など許されず、わずかに忠義に心が振れた時に。
「御父上様、嫌でございます、助けてくださいませ、御父上様。
殺されてしまいます、獲って喰われてしまいます、助けてくださいませ!
死神に嫁がせられるなど、死ねと言われるのも同然でございます、御父上様」
絶妙のタイミングを計って、アイリンは父親の心に訴えた。
人の表情を読むのに長けたアイリンは、このままでは死神と結婚させられると理解し、それを止めるために父親に哀訴したのだ。
そんな所に稀代の悪女になる才能の片りんがうかがえる。
彼女には王太子に嫁ぎ王妃になるという野望があったのだ。
その為には、死神という綽名がつくほどに敵味方に恐れられた、冷酷非情なシャンム辺境伯イヴァーンに嫁がされるなど、絶対に阻止しなければいけないかった。
「分かってくれ、アイリンよ、これは王命による君臣の絆を結ぶための政略結婚で、何の理由もなく断る事などできないのだよ。
いや、私のアイリンへの愛情は山よりも高く海よりも深い、それは保証する。
だがどれほど愛していようと、公爵の私でも、王命を逆らうのは厳しいのだよ」
「嫌でございます、嫌でございます、嫌でございます。
死神など使い捨ての騎士が武勇で成り上がっただけではありませんか。
何時戦場で死んでしまうか分からない存在ではありませんか。
そんなモノに嫁ぐなど、絶対に嫌でございます。
それよりは御父上様のお力で、王太子殿下と結婚させてください。
その方が御父上様のために役立てるではありませんか」
稀代の悪女アイリンは、長年かけて育てた父性愛に訴えると同時に、欲深く身勝手なツビンズ公爵の欲望にも訴えた。
ツビンズ公爵にしても、武勇は疑いなく王国随一だが、成り上がりの辺境伯に過ぎない死神の義父になるよりは、将来の国王の義父になりたいのだ。
それに、愚かな王太子の義父になることができれば、この国の権力を一手に握ることが可能だと分かっていた。
「旦那様、アイリンの申す通りでございます。
ここは旦那様の力で、アイリンを王太子と結婚させてください。
死神には誰かよその令嬢を宛がえばいいではありませんか。
成り上がりの辺境伯なら、同じような成り上がりの伯爵家の令嬢で十分ではありませんか?」
ツビンズ公爵家の夫人ウリヤーナもアイリンの味方をして訴える。
言葉遣いは下手に出ているが、王妹のウリヤーナツはビンズ公爵を下に見ている。
自分の溺愛するアイリンを、成り上がりの辺境伯と結婚させるなど、屈辱以外の何物でもなかった。
アイリンに相応しいのは王太子だけだと思っていた。
いや、悪女アイリンに長年かけてそう思わされていた。
忠義と恐怖と愛情のはざまで煩悶していたが、どれほど考えても解決策が思い浮かばず、逃げ出したいと思うほどだった。
だが逃げる事など許されず、わずかに忠義に心が振れた時に。
「御父上様、嫌でございます、助けてくださいませ、御父上様。
殺されてしまいます、獲って喰われてしまいます、助けてくださいませ!
死神に嫁がせられるなど、死ねと言われるのも同然でございます、御父上様」
絶妙のタイミングを計って、アイリンは父親の心に訴えた。
人の表情を読むのに長けたアイリンは、このままでは死神と結婚させられると理解し、それを止めるために父親に哀訴したのだ。
そんな所に稀代の悪女になる才能の片りんがうかがえる。
彼女には王太子に嫁ぎ王妃になるという野望があったのだ。
その為には、死神という綽名がつくほどに敵味方に恐れられた、冷酷非情なシャンム辺境伯イヴァーンに嫁がされるなど、絶対に阻止しなければいけないかった。
「分かってくれ、アイリンよ、これは王命による君臣の絆を結ぶための政略結婚で、何の理由もなく断る事などできないのだよ。
いや、私のアイリンへの愛情は山よりも高く海よりも深い、それは保証する。
だがどれほど愛していようと、公爵の私でも、王命を逆らうのは厳しいのだよ」
「嫌でございます、嫌でございます、嫌でございます。
死神など使い捨ての騎士が武勇で成り上がっただけではありませんか。
何時戦場で死んでしまうか分からない存在ではありませんか。
そんなモノに嫁ぐなど、絶対に嫌でございます。
それよりは御父上様のお力で、王太子殿下と結婚させてください。
その方が御父上様のために役立てるではありませんか」
稀代の悪女アイリンは、長年かけて育てた父性愛に訴えると同時に、欲深く身勝手なツビンズ公爵の欲望にも訴えた。
ツビンズ公爵にしても、武勇は疑いなく王国随一だが、成り上がりの辺境伯に過ぎない死神の義父になるよりは、将来の国王の義父になりたいのだ。
それに、愚かな王太子の義父になることができれば、この国の権力を一手に握ることが可能だと分かっていた。
「旦那様、アイリンの申す通りでございます。
ここは旦那様の力で、アイリンを王太子と結婚させてください。
死神には誰かよその令嬢を宛がえばいいではありませんか。
成り上がりの辺境伯なら、同じような成り上がりの伯爵家の令嬢で十分ではありませんか?」
ツビンズ公爵家の夫人ウリヤーナもアイリンの味方をして訴える。
言葉遣いは下手に出ているが、王妹のウリヤーナツはビンズ公爵を下に見ている。
自分の溺愛するアイリンを、成り上がりの辺境伯と結婚させるなど、屈辱以外の何物でもなかった。
アイリンに相応しいのは王太子だけだと思っていた。
いや、悪女アイリンに長年かけてそう思わされていた。
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