浮気には死を

克全

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第一章

第1話絶望

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「ああ、愛しているよ、君ほど美しい女性はいないよ」

「ああ、私も、私も愛しているは、ロビン」

 忘れ物を家に取りに帰った私の耳に、信じられない睦言が入って来た。
 心から愛し信じた相手、ロビンが、他の女性に愛をささやいている。
 ロビンとの愛のために、全てを捨てた私には、信じられないし信じたくない。

「なんて美しい手なんだ、この白く傷のない手を食べてしまいたいよ」

「ああ、食べて食べて、手だけでなく、身体中を食べて」

 思わず自分の荒れた傷だらけの手を見てしまった。
 ロビンと出会う前は、貴族の嗜み以外した事のない美しい手だったけれど、今では毎日の農作業と家事で荒れてしまっている。
 草に切られ、水仕事でぱっくりと割れ、血のにじむ傷がある。
 皺や指紋、爪の間には農作業のために泥が入って、とても黒ずんでいる。

「ああ、なんて白く澄んだ肌なんだ、こんな美しい肌は初めてだ。
 顔の肌だけでなく、身体中の肌が、手で触れば吸い付きそうなほど艶やかだ」

「ああ、ああ、ああ、触って、触って、触って。
 どこもかも、ロビンに触られる喜びに震えているわ」

 顔の肌艶を確かめたくても、この家には鏡などない。
 ロビンに出会って屋敷を出るまでは、金銀宝石に彩られた最高級の銀鏡を持っていたのに、いまでは桶に汲んだ井戸水に映る顔を見るしかない。
 でも、鏡で確かめなくても、自分がどんな顔をしているかは分かっている。
 激しい日差しの下で農作業を続けたことで、透けるように白かった肌は浅黒くなり、厚く硬くなってしまっていた。
 今では所々シミまで浮かんでしまっている。

「ねえ、私は奥さんよりも美しい?
 私はあなたの奥さんよりいい女?」

「ああ、当然だよ、比べようもないよ、君は最高だよ。
 あんな日に焼けてやつれた女なんか、女として何の価値もない」

 私のこれまでの人生はなんだったのでしょう?
 恋に殉じて生きると誓い、伯爵令嬢の地位を捨てて屋敷を出たのに。
 求婚してくる紳士をふり、地位も名誉もない、吟遊詩人のロビンを選んだのに。
 力仕事が苦手で、容姿や声が衰え稼げなくなったロビンに代わって、辛く厳しい農作業に汗水たらしていたというのに。
 その報いが、浮気をされ悪しざまに罵られることだなんて、私はなんて愚かだったのでしょう!

 この恨み、晴らさずにはおきません。
 ロビンは勿論、私を蔑み罵る事で、不倫の快楽を深めた女!
 私の愛を踏み躙り蔑ろにした男も、絶対に許さない!
 私が感じたのと同じ苦しみを、いえ、倍する苦しみを味わせてやる。
 悪魔に魂を売って、永劫の地獄に落とされることになっても、必ず復讐してやる!
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