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内政親愛編

18話

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「なんと言われようとも私自身がまいります!
 それが皇帝の務めでございます。
 民の生活を知らなかったからこそ、エマヌエーレ様は道を誤れたのです。
 それを見てきた私が、民の生活を見過ごすわけにはまいりません」

 アリアンナはクリスティアンと激しく言い争っていた。
 アリアンナは民の生活を視察すると言い、クリスティアンはそんな事をすれば民が迷惑すると言った。
 クリスティアンからそう言われたアリアンナは、密かに視察すればいいと言い、クリスティアンからそれでは危険だと諫められた。

「危険などありません。
 私はクリスティアン様に護られているではありませんか。
 クリスティアン様の護りを破れるモノなど、神々以外はおられません。
 だったら何を恐れるというのですか?」

 アリアンナの言う事はもっともだったが、だからといってクリスティアンも「はいそうです」と受け入れる事はできなかった。

「今はいい。
 俺はアリアンナの事を心から大切に思っている。
 だから完璧に護ってやることができる。
 だが次代の皇帝を、次代の神々の御子が、大切に思えるとは限らん。
 アリアンナが前例を作ってしまうと、子孫が同じことを真似するかもしれない。
 次代皇帝が皇帝に相応しくない奴だったら、簡単に暗殺されるのだぞ。
 それはアリアンナの子であるかもしれないし、孫であるかもしれないのだぞ」

 そこまでクリスティアン言われると、アリアンナも強く言えなくなってしまった。
 アリアンナは今まで男性を好ましく思ったことなどない。
 今はクリスティアンの事が気になっていたが、二人の間に子供を作るという実感は全くわかなかった。
 皇帝である以上、子供を産み育てなければいけないのは分かっていたが、差し迫った問題としては受け止められなかった。

「ではクリスティアン様が考えてください。
 クリスティアン様も、皇帝が民の生活を実感する必要があると、心から思っておられるのでしょ?
 だったらクリスティアン様の智謀で、後々の皇帝に危険が及ばず、次代の神々の御子の手を煩わせない方法を考えてください」

 完全な無茶振りだった。
 こんな方法は、クリスティアンがアリアンナを大切に思っていなければ成り立たない、無理無体なお願いだった。
 だがそれがかなってしまうのが、今の二人の関係だった。
 クリスティアンは必至で考えった。
 どうせやらなければいけないのなら、アリアンナの他の願いも一緒に解決してしまおうと考えた。
 一度にかたずけておかないと、何度も無理無体を押し付けられると考えたからだ。
 そしてある方法を思いついた。
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