女将軍 井伊直虎

克全

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本編

内政

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 榎並城を落とした直竜と、池田城を落とした義元は一旦合流し、今後の方針を話し合った。話し合ったと言うのはあくまでも家臣に対する体裁で、実際は義元が直竜を教育しつつ、松平と関口に細々とした指示を出したのが真相だ。

 今後の方針については、事前に義直将軍や直虎とは十二分に話し合っていたが、多少の意見の相違はあった。問題となったのは、一向宗の力を今後も借りるのか、それとも抑えるようにするかと言う事だった。猜疑心の強い義元は抑える方向でいたのだが、直虎がそれをなだめて、利用出来る限り利用し尽くすそうと提案した。

 義元は底光りする眼でじっと直虎を睨んでいたが、睨み返す直虎の眼から真意を汲み取り、にんまりと笑って承諾することになった。

 義元・直竜・関口の3軍に分けられた幕府軍は、摂津に残る三好方に降伏を呼びかけて周った。ただし条件として、竿入れ検地を受け入れ軍役を厳格に守ると言う事だった。同時に幕府軍の雑兵から希望者を募り、魏の曹操を手本として屯田兵を摂河泉の三国に置くことにした。

 この政はほとんど全ての国衆・地侍に喜ばれ、紀伊国の畠山を滅ぼし幕府御領所とした不満を打ち消した。特に摂津の播磨国境に子弟を封じてもらった、雑賀衆・根来衆の不満を恩に変えることに成功した。幕府としたら、生き残った三好長逸と赤松家が手を組んで、摂津に逆激して来る事に備えなければいけなかった。それを鉄砲の名手が揃う雑賀衆・根来衆の子弟に、僅かな領地を与えることで果たせるのだから、こんなに美味い話はなかった。しかも紀伊と摂津西端なら、共同して敵対するのは遠すぎる、まして後々領地替えする心算なのだ。


1568年『近江・観音寺城』今川義直・直虎

「御教書を書き終わられましたか」

「はい、領内の主だった大名・国衆の分は書き終わりました」

「将軍として、大名や寺社に係わらず強制的に竿入れ検地を行い、幕府への軍役を明らかにしなければいけません」

「はい、母上様」

「大陸との交易や銭の地方価値の差を生かして、幕府には政に必要な利益が確保出来ています、その軍資金を生かしてください」

「はい、出来るだけ早く今川の名を消して、公方・幕府として大名・国衆に命令を与えるように致します」

「それと六郎も元服させましょう」

「まだ12歳ですが、早すぎませんか」

「出来るだけ早く戦場に慣らさなければなりません、それに各軍勢の総大将は公方様の弟で固めましょう」

「他の者に手柄を立てさせないようにですか」

「兄弟相争うような事は防がなければなりませんが、一軍の大将を臣下に任せるのも恐ろしい事です」

「一軍揃って私に刃を向けないようにですね、しかしこれは弟でも気をつけないといけませんね」

「私も御隠居様も、出来る限り弟達への教育に力を注ぎました、しかし公方様と氏真殿との確執を忘れてはいけません」
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