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第一章

第1話:茶番劇

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「以上の証拠と証言をもちまして、ローズマリー嬢の罪科は明白でございます。
 ローズマリー嬢自身が罪を認めて一切の抗弁をしていません。
 これは情状酌量を願っての事だと思われます。
 当貴族院もその殊勝な態度を全く認めないわけではありませんが、今まで行ってきた事があまりにも酷過ぎて、情状酌量の余地なしと全会一致で判断いたしました。
 ローズマリー嬢の死刑を国王陛下に求刑いたします」

 噴飯モノの茶番劇でした。
 貴族院はもう既にタイラー侯爵オーガストに牛耳られています。
 トッテナム王家の藩屏となるべき我がテンペスト公爵家も、当主である父が憶病者でタイラー侯爵に逆らうことができません。

 トッテナム王家とタイラー侯爵家の融和を目的に、テンペスト公爵家の公子だった父とタイラー侯爵令嬢だった母は結婚しましたが、全く何の役にも立っていません。
 気の強い母に臆病者の父は全く逆らえず、トッテナム王家を護るはずのテンペスト公爵家が、タイラー侯爵家の走狗に成り下がってしまいました。
 王家の為に公爵家の実権を取り返そうとした私もこのざまです。

「待ってもらおうか、これはあまりに信じられない証拠証言だ。
 どこの世界に自分の娘や姉を誹謗中傷して陥れる母や妹がいる。
 この者達は本当にローズマリー嬢の母親と妹なのか。
 王都でささやかれている噂では、テンペスト公爵夫人サヴァナは不義密通を重ね、テンペスト公爵の種ではないセリーナ嬢を産んだという。
 そのような噂のある夫人や令嬢の証言に信憑性はない」

 ああ、愛するバイロン王太子、もうやめてください。
 もう抵抗しても無駄なのです。
 ここまで貴族院の買収が進んでしまった状態では、何を言っても無駄なのです。
 今は王家の立場を少しでも悪くしないように立ち回るべき時なのです。
 もう私の事は切り捨ててください。

「バイロン王太子殿下、いくら殿下でも今の言葉は聞捨てなりませんぞ。
 事は歴史ある公爵家の夫人と令嬢の名誉にかかわる事なのですぞ。
 殿下も王太子の誇りがおありなら、頭を下げて詫びていただきましょう」

 おのれ、タイラー侯爵オーガスト!
 バイロン王太子殿下の正義感と優しさを計算して罠に嵌めましたね。
 私を散々貶めて、我慢できなくなった殿下に失言させる心算だったのですね。
 その失言を追及して殿下に頭を下げさせるのが最初からの目的だったのですね。
 許しません、絶対に許しません。
 
 もう命を賭けた最後の手段を取るしかありません。
 自分の命と引き換えに救国の聖女を召喚する大魔術。
 バイロン王太子殿下を御守りしたくて研究してきた大魔術。
 殿下を愛してしまい、幸せな暮らしを夢見るようになって使えなくなってしまった大魔術、今ここが使うべき時です。
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