賢帝は皇妃と実弟に謀殺され復讐を誓って逆行転生する

克全

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第1章

第18話:男爵位簒奪

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 ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン……

 母上が投擲する度に木製の城門が破壊され守備兵が肉片に変わる。
 守備兵を殺す度に母上の顔色が悪くなる。
 心優しい母上には辛く苦しい事だが、今はやるしかない。

 母上に辛い思いはして欲しくないが、時代と状況が許さない。
 母上がクソ親父を心から愛し、別れる気がない以上やってもらうしかない。
 俺に母上を操る事ができない以上、次善の策でやってもらうしかない。

 ヘンリー騎士爵家で確固たる立場を得るしか、母上の安全は買えない。
 このままいけば、まず間違いなく男爵領を落とせる。
 男爵領を手に入れたヘンリー騎士爵は、間違いなくブラウン男爵を名乗る。

 だが、急に男爵領を含む7つの領地を得たヘンリー騎士爵は人手不足だ。
 領地の統制が全くできず、信じられる兵士もほとんどいない。

 金さえあれば傭兵は雇えるが、それでは駄目なのだ。
 金次第で何時寝返るか分からない傭兵は、心から信じられない。
 比較的信じられるのは、元から統治していた村の住民たちだけだ。

 だが、領民の中にまともに戦える者はほとんど居ない。
 その僅かな戦力の中で、母上の戦闘力は突出している。

 今回の戦いも、母上のお陰で勝てたのは明らかだ。
 その事が世に広まったら、母上を手に入れようとする者が続出する。
 とはいえ仕官先が選び放題だと安心してはいけない、大抵の貴族は性悪なのだ。

 女を言い成りにしようと思ったら、手籠めにすれば良いと思う馬鹿が多い。
 家族を人質に取って言う事を聞かせようとする馬鹿もいるだろう。
 母上を脅かすなら、俺たち兄弟かクソ親父を人質にすればいい。

 酒場のでの会話からの推測だが、ヘンリー騎士爵はそんな馬鹿ではない。
 真っ当な方法で母上の忠誠を買おうとするだろう。
 俺たちを人質にするのではなく、安全な場所に匿う事で働かそうとする。

 元からの領主であろうと、自分たちの周りに俺とフェルを置くのは人質と同じだ。
 だが、初動の違いで意味が全く違ってくる。
 やっている事は同じでも、母上がどう感じるかが違って来るのだ。

 俺たちを攫うのではなく、母上に騎士の位を与えて城の中に部屋を与える。
 そうすると、人質ではなく家臣領民を守っているように見える。
 元からの領主の特権と言うか、最大の利点だ。

 戦国乱世のこの時代はとても危険で、安心して子供を育てられない。
 比較的安全な城の中で子供を育てられるのは、母親の立場なら大歓迎だ。
 母上を護りたい俺としても歓迎できる変化だ。

「今だ、攻め込め、1番手柄を立てた者は騎士に取立てる、戦え!」

 今後の事を考えているうちに戦況が進んでいた。
 城壁が全て破壊され、城門や城壁を守っていた兵士が全滅している。

「「「「「おう!」」」」」

 ヘンリー騎士爵は指揮官として才能がある。
 傭兵、いや、人の欲を上手く刺激して働かせている。
 騎士と傭兵、戦いに命を賭けているのは同じだが、地位と安定が全く違う。

 傭兵は平民でしかなく、戦いがないと雇ってももらえない。
 雇ってもらえなければ金が手に入らず、傭兵以外の仕事をしなくてはいけない。
 何より、平時に同じ身分の平民を殺すと処罰される。

 だが騎士は、 戦いが無くても領地からの収入、或いは主君からの扶持がある。
 よほど非道でなければ、平時に平民を殺しても罪に問われない。

 しかも、傭兵でも自前の馬と鎧を持っている騎兵は騎士に取立てられる事もあるが、馬を持っていない歩兵は良くて兵士に取立てられる程度だ。

 普通の傭兵が騎士になるには、まず自前で馬を買って騎兵とならないといけない。
 更に騎兵として突出した手柄を立てないと、騎士には取立てられないのだ。

 それが常識の世界で、目の前に騎士の地位をぶら下げられた歩兵の傭兵たちが、死に物狂いで戦うのは当然だった。

「「「「「ウォオオオオオ」」」」」

 俺たちは、男爵領都の外で傭兵たちの奮戦を待っていた。
 傭兵たちがブラウン男爵一族を殺すのを待っていた。
 傭兵たちが突入してから1時間くらいして、領都から雄叫びが聞こえてきた。

 ヘンリー騎士爵はとても慎重で、比較的安全な領都の外で待っていた。
 母上やクソ親父といった、少数の村民兵と共に外で待っていた。
 傭兵たちを指揮して軍功を評価するのは弟2人の役目だった。

「騎士爵閣下、ブラウン男爵を討ち取りました。
 話に聞いていた家族も全員討ち取れたと思います。
 影武者や家族と認められていなかった者がいなければ、大丈夫だと思います」

 上の弟は、ブラウン男爵家の反撃を恐れているのだろう。
 家族の仇討ちも怖いが、それ以上に男爵位と領地狙いの反撃が怖い。
 正当な名分をを使える家族を皆殺しにするのは基本中の基本だ。

「そうか、よくやってくれた」

 弟の報告を聞いたヘンリー騎士爵は、ようやく男爵領都に入城した。

「今日から私がブラウン男爵だ!
 軍監2人が一致して1番手柄だと評したオルソー、貴君を騎士に取立てる。
 ローリー騎士領を治める騎士と、扶持をもらう騎士のどちらが良い?」

「おで、村治める、無理」

 身体中古傷だらけの大男、オルソーは叩き上げの傭兵なのだろう。
 学の無いのが明らかな話し方で、自分に領主は無理だと言った。 
 
「そうか、だったら扶持を与えるから、戦の時にだけ働くといい。
 この城の中に部屋を与えるから、そこに住め」

「ありがと」

 ヘンリー騎士爵改めブラウン男爵が次々と傭兵に褒美を与えて行った。
 事前に報酬金額と契約期間が決められている傭兵なので、本来は別に褒美を与える必要はないのだが、今後の事を考えて目の前に餌をぶら下げたのだ。

 最初の契約以外に褒美をもらえたのは僅か10人だが、その褒美がとんでもなく大きい騎士への取り立てだったので、全傭兵に更なるやる気を起こさせた。

 ただ、9人はオルソーと同じ扶持をもらう雇われ騎士だ。
 1人だけローリー騎士領を治める領地持ちになった。
 だが、並の知恵がある者ならローリー騎士爵にはならないだろう。

 新ブラウン男爵が切り取った領地の中で、ローリー騎士領だけが3方をガーヴァー伯爵の勢力に取り囲まれている。
 その事をローリー騎士爵と成った元傭兵は分かっていなさそうだった。

 傭兵でも、騎兵となるような者はそれなりに頭が良い。
 だが熟練になっても歩兵のままでいるような傭兵は、頭の悪い者が多い。
 だから貴族士族にいいように使われて死んでいくことが多い。

 そんな生き残る事が難しい傭兵で、長年生き延びている歩兵はとんでもなく強い。
 若い者、追い詰められて傭兵になった経験の浅い中年傭兵には直ぐに死ぬ弱兵が多いが、熟練中年傭兵はとんでもなく強い。

 そんな熟練中年傭兵を数多く集めてきた新ブラウン男爵は切れ者だと思う。
 母上の主君として最低限の力を持っていると思う。

「イリナを騎士に取立て、この城に部屋を与える。
 子供たち2人を城で育てて良い。
 だが、夫のコルスを城に入れる事は禁じる。
 別れろとは言わないが、コルスを領都に入れる事は禁じる」

 思っていた通り、新ブラウン男爵は母上を騎士に取立てた。

「コルスは兵士に取立てる、励め」

「ありがとうございます!」

 正式な兵士に取立てられたクソ親父が飛びあがらんばかりに喜ぶ。

「ローリー騎士領に援軍に行け、他の領地に移動する事を禁じる」

「え、それは……」

「コルス!」

「はぃいいいいい」

「酒場の女を愛人にしているだろう!」

「ひぃ」

「酒場の女だけでなく、村の寡婦たちの所に通っているだろう!」

「ひぃ、お許しください、お許しください!」

「イリナと別れろとは言わない。
 ローリー騎士領に女たちを連れて行く事は許す。
 だが、ローリー騎士領から出る事は絶対に許さん!
 イリナと会う事も絶対に許さん、分かったか!」

「はぃいいいいい」
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