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第一章
三木城合戦
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「死ぬな与一郎、死ぬでない」
「そうじゃ与一郎。御前が死んだら木下家は誰が継ぐのだ」
羽柴長秀と羽柴秀吉は必死だった。
長秀は唯一の息子を失いたくなかった。
秀吉は木下家の後継ぎを失いたくなかった。
織田家でも類を見ない出頭人である羽柴秀吉だが、子宝だけには恵まれていなかった。
ようやく恵まれた一粒種の息子を亡くし、主君信長の四男を養子に迎えている。
家の安泰を図るために、正室・寧々の願いを聞き入れた結果でもある。
本心では、血の繋がった甥である与一郎に継がせたかった。
だが上杉戦線で無断撤退して、信長の逆鱗に触れた秀吉には、信長と寧々の意向に逆らえなかった。
いや、信長から話を聞いて、養子を受け入れる方が得だと言う思いもあった。
確かに於次丸を養子に受け入れれば、於次丸を通じて諸将に命令を下すことが出来る。
上杉戦線の時のように、死地に送られるのを拒否する為に、命令違反する必要もなくなる。
信長が優秀な戦目付を送っても、功績を誇る重臣は言う事を聞かない。
だが信忠はもちろん、信雄や信孝の命には、重臣達も従うほかない。
実際信長は、息子達に優秀な後見人を付け、後見人の策を息子達の口から言わせることで、重臣達を操る方法に切り替えている。
そのために、信長は露骨に子煩悩を演じている。
保身の為にも、更なる出世の為にも、於次丸を養子に迎えた。
だが血筋を残すことを諦めたわけではない。
羽柴家は於次丸に与えるしかないが、木下家は与一郎に継いでもらいたいのだ。
「将監。貴様が付いていながら、与一郎を病に侵させるとは、どういう事だ」
「藤吉郎兄者。それはいくら何でも将監兄者に言い過ぎだ」
「言い過ぎなものか。与一郎はこれが初陣なのだぞ。だからこそ、義弟である将監に後見人を任せたと言うのに、病にかかるまで無理をさせるとは、仇を持っているとしか言いようがあるまい」
「だからそれが言い過ぎなのだ。将監兄者は後見人を立派に果たし、与一郎に初陣を飾らせ、大将首を討ち取る功名まで稼がせてくれたではないか」
「だからそれが無理をさせたと言っているのだ。与一郎は葉武者ではないのだぞ。木下家の後継者であり、羽柴長秀の嫡男なのだぞ。戦働きなど必要ないのだ。必要なのは戦の進退を指揮する軍略なのだ」
「殿の申される通りでございます。全ては臣の不徳の致すところでございます」
「そうじゃ。全部将監が悪いのだ」
「う、う、う、け、け、けんかは、やめてください」
「おお、気が付いたか与一郎」
「との、けんかはおやめください」
「藤吉郎兄者。病の与一郎に気を使わせてどうするのだ」
「すまぬ」
「与一郎の世話は、父親の儂と将監兄者でするから、殿は本陣に戻って指揮を取ってくれ」
「そんな冷たい事を言わないでくれ」
「では難癖をつけるのを止めて、静かにしてくれるのだな」
「・・・・・静かにする」
「そうじゃ与一郎。御前が死んだら木下家は誰が継ぐのだ」
羽柴長秀と羽柴秀吉は必死だった。
長秀は唯一の息子を失いたくなかった。
秀吉は木下家の後継ぎを失いたくなかった。
織田家でも類を見ない出頭人である羽柴秀吉だが、子宝だけには恵まれていなかった。
ようやく恵まれた一粒種の息子を亡くし、主君信長の四男を養子に迎えている。
家の安泰を図るために、正室・寧々の願いを聞き入れた結果でもある。
本心では、血の繋がった甥である与一郎に継がせたかった。
だが上杉戦線で無断撤退して、信長の逆鱗に触れた秀吉には、信長と寧々の意向に逆らえなかった。
いや、信長から話を聞いて、養子を受け入れる方が得だと言う思いもあった。
確かに於次丸を養子に受け入れれば、於次丸を通じて諸将に命令を下すことが出来る。
上杉戦線の時のように、死地に送られるのを拒否する為に、命令違反する必要もなくなる。
信長が優秀な戦目付を送っても、功績を誇る重臣は言う事を聞かない。
だが信忠はもちろん、信雄や信孝の命には、重臣達も従うほかない。
実際信長は、息子達に優秀な後見人を付け、後見人の策を息子達の口から言わせることで、重臣達を操る方法に切り替えている。
そのために、信長は露骨に子煩悩を演じている。
保身の為にも、更なる出世の為にも、於次丸を養子に迎えた。
だが血筋を残すことを諦めたわけではない。
羽柴家は於次丸に与えるしかないが、木下家は与一郎に継いでもらいたいのだ。
「将監。貴様が付いていながら、与一郎を病に侵させるとは、どういう事だ」
「藤吉郎兄者。それはいくら何でも将監兄者に言い過ぎだ」
「言い過ぎなものか。与一郎はこれが初陣なのだぞ。だからこそ、義弟である将監に後見人を任せたと言うのに、病にかかるまで無理をさせるとは、仇を持っているとしか言いようがあるまい」
「だからそれが言い過ぎなのだ。将監兄者は後見人を立派に果たし、与一郎に初陣を飾らせ、大将首を討ち取る功名まで稼がせてくれたではないか」
「だからそれが無理をさせたと言っているのだ。与一郎は葉武者ではないのだぞ。木下家の後継者であり、羽柴長秀の嫡男なのだぞ。戦働きなど必要ないのだ。必要なのは戦の進退を指揮する軍略なのだ」
「殿の申される通りでございます。全ては臣の不徳の致すところでございます」
「そうじゃ。全部将監が悪いのだ」
「う、う、う、け、け、けんかは、やめてください」
「おお、気が付いたか与一郎」
「との、けんかはおやめください」
「藤吉郎兄者。病の与一郎に気を使わせてどうするのだ」
「すまぬ」
「与一郎の世話は、父親の儂と将監兄者でするから、殿は本陣に戻って指揮を取ってくれ」
「そんな冷たい事を言わないでくれ」
「では難癖をつけるのを止めて、静かにしてくれるのだな」
「・・・・・静かにする」
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