四代目 豊臣秀勝

克全

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第一章

本能寺の変

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 明智光秀が謀叛した。
 驚く事にそれが成功した。
 事もあろうに、信長と信忠の二人を同時に討ち取ったのだ。
 秀吉は、蜂須賀正勝の密偵から逸早く報告を受けた。
 同時に播磨・備前・但馬では、秀吉軍撤退の準備が進められていた。
「備中、美作、伯耆の割譲と清水宗治の切腹で手を打つか」
 秀吉は光秀を討ちたかった。
 上手くすれば天下の主になれるかも知れない。
 少なくとも明智光秀を討ち取った功績で、大きく発言権が増す。
 毛利家の事は、天下を取った後で考えればいい。
 清水宗治を見殺しにした後の毛利家なら、幾らでも調略出来ると考えていた。
「私に行かせて頂けませんか」
「ならぬ。与一郎の代わりはおらん」
「毛利も愚かではありません。私を殺してしまえば、波多野のように族滅されるのは理解しているでしょう」
「どうせ命を賭けるのなら、於次公の弔い合戦にしてくれ」
「もう弔い合戦は始まっています。ここで上手くやらないと、全てを失ってしまいます」
「では与一郎が備中、美作、伯耆の割譲と清水宗治の切腹を毛利に飲ませてくれるのだな」
「いえ、備中、備後、美作、伯耆、出雲、石見の割譲で、清水宗治以下の高松城の将兵全てを助ける和議を纏めようと思います」
「清水宗治を助ける代わりに、石見を割譲させるのか。それでは、石見を領している吉川元春が絶対納得せんぞ」
「はい。でも、これには裏があります。上様が亡くなられたのですから、和議の内容は羽柴家で自由に決まられます」
「うむ」
「ですから、羽柴家と毛利家の緩衝地帯を設けるのです」
「石見と備後の国衆に、両属を認めるのか」
「はい。元々境目の国衆や地侍は、その時その時の強き大名に流れるモノです」
「うむ」
「羽柴家が毛利家に国衆の両属を提案すれば、多くの国衆の心は羽柴家に傾くでしょう」
「うむ。確かに」
「しかも吉川経家と清水宗治の命を助けているのですから、我らが撤退した後に、上様の死を知って追い討ちをかけようとしても、国衆の足は遅くなり、矛先も鈍るでしょう」
「う~む。よい考えなのだが、吉川元春が領する但馬は、殆ど羽柴を選ばないだろう。それに吉川元春が恨みに思わないか」
「確かにその通りなのですが、石見銀山だけは確保しておきたいですし、尼子の遺児を探し出して、石見に領地を与えなければなりません」
「儂が絶対に味方を粗略に扱わないと、毛利に、いや、天下に知らしめる必要があるのだな」
「はい。それに明智光秀を討ち果たした後なら、国衆も堂々と羽柴家に臣従する事でしょう」
「うむ。ならば行って貰おうか」
 秀吉も、与一郎が言っている事の裏が理解できた。
 今両属の約束を交わしておけば、秀吉が天下の主となった後で、備後と石見の国衆が毛利を離れても、毛利家は文句を言えない。
 今からその布石を打っておけと言う事だ。
 今はまだ、吉川元春のいる石見の国衆と、小早川隆景のいる備後の国衆は、表向き毛利家に属するように見せるだろう。
 だが秀吉が天下人になった後なら、簡単に毛利家を裏切るだろう。
 それが境目に生きる国衆の、生き抜くための手段なのだ。
 小早川隆景ならば、与一郎の考えなど御見通しかもしれない。
 だが同時に、毛利輝元を当主とする毛利家が、吉川元春と小早川隆景亡き後、存亡の危機を迎えることも十分理解しているはずだ。
 そう考えた与一郎は、人質になる危険を犯して、毛利陣中に向かった。
近江:一二万石    :羽柴秀吉
播磨:三五万八五三四石:羽柴秀吉
但馬:一一万四二三五石:羽柴長秀
因幡: 八万八五○○石:宮部継潤他
淡路: 六万二一〇四石:仙石秀久他
美作:一八万六〇一八石:宇喜多秀家
備前:二二万三七六二石:宇喜多秀家
備中:一七万六九二九石:
伯耆:一〇万〇九四七石:
出雲:一八万六六五〇石:
石見:一一万一七七〇石:
隠岐:   四九八〇石:
備後:一八万六一五〇石:毛利輝元
安芸:一九万四一五〇石:毛利輝元
周防:一六万七八二〇石:毛利輝元
長門:一三万〇六六〇石:毛利輝元
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