四代目 豊臣秀勝

克全

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第二章

織田信雄無残

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 織田信雄の動きは、徳川家康の想定外だった。
 家康は信雄に、清州城から旧織田家家臣に調略の使者を送られよと伝えていた。
 そう伝えておけば、美濃に攻め込むことはないと考えていた。
 信雄は馬鹿でも、側についている家臣は歴戦の武士だから、愚かな事はしないと考えていたのだ。
 家康は、信雄が尾張で挙兵すれば、秀吉は軍を直接率いるか、援軍を送るかは分からないが、柴田勝家に対する兵力を減らすことが出来ると考えていた。
 ところが信雄は、織田家が信雄、信孝、秀勝に分かれた家臣の苦渋も、境目に領地を与えられた家臣の苦渋も全く理解せず、情け容赦なく攻めかかった。
 事前に何かあれば逃げるように指示されていた加賀野井城は、何の抵抗もせずに、城下の民と共に逃げ散った。
 与一郎は織田家家臣の心を掴む好機と判断し、全軍を率いて岐阜城を出陣した。
 与一郎が指揮する五千兵は、山崎の合戦の後十分な休息をとっていた。
 織田信孝との戦いでは、信孝軍が勝手に自壊したので、何の損害も受けていなかった。
 戦いの度に大領を得る与一郎の軍は、羽柴家が戦って破った軍から、優秀な将兵を召し抱えていた。
 しかも信雄が木曽福島城に居る間に、終わりに残った国衆や家臣団に調略を仕掛けていた。
「三介様、止めさせてください」
「ならぬ、加賀井は裏切り者だ。思い知らせねばならぬ」
「加賀井は清州の会議に従い、三七郎様に付けられただけでございます」
「織田家を裏切って筑前に味方したではないか」
「筑前に味方したのではなく、三法師様と御次公に味方されたのです」
「御次を公呼ばわりするな」
「しかし三介様、御次様は清州の会議で後見人と認められたのです」
「上様と呼べ」
「三介様」
「これからは、余が織田家の頭領じゃ。逆らうなら、謀叛人として斬るぞ」
「分かりました上様。しかしながら、織田家の頭領ならば、家臣の苦渋を理解し、大きな心で接していただきたい」
「ならぬ。甘い顔をしていたら、光秀のような裏切り者が出てくる」
「しかし上様」
「黙らねば斬るぞ」
「・・・・・」
 信雄を諫めた滝川一益だったが、結果は惨憺たるものだった。
 この時、一益の心の中にあった、信雄への最後の忠誠心も消え失せた。
 与一郎の率いる一万五千兵が加賀野井城に近づいた時には、信雄軍は略奪の真っ最中だった。
 城内は勿論城下に至るまで、信雄軍は欲望のままに略奪をしていた。
 それでなくても質の悪い将兵で構成された信雄軍が、愚かな信雄に指揮されたことで軍令が行き届かず、野盗の群れと変わらない行動を取るようになっていた。
 全く陣形の取れていない信雄軍は、質の悪い雑兵達が略奪品を持って逃げ出した。
 これを見て、無理矢理徴兵された農民兵も逃げ出した。
 信雄のやり方を見て、愛想をつかしていた地侍や国衆も逃げ出した。
 信雄軍は戦わずして崩壊した。
 最後まで信雄に従うのは、信雄と血縁と僅かな忠臣だけだった。
 彼らは恥も外聞もなく、清州城に逃げ出した。
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