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第一章
第8話:麦踏み
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教会歴五六八年一〇月
「レオナルド様、これで本当に麦がたくさん採れるのですか」
児童団の子供が不思議そうに問いかけてきた。
護衛の親衛騎士が厳しい目でその子をにらみつけるが、逆に俺が護衛をにらみつけてやったら、何も言わずに視線をそらしてくれた。
俺の護衛達も最初は乞食団や児童団の言動に怒りを覚えていた。
奴隷ごときが氏族長の長男に話しかける事は、彼ら基準ではとても不敬だからだ。
だが子供達の屈託のない笑顔や、俺が指導して彼らに作らせる料理を食べているうちに、徐々に保護欲に近いモノが生まれてきたようだ。
親衛騎士達の名誉のために断言しておくが、魚介粥や淡水魚の塩焼きの美味しさに魅了されて優しくなったわけではない。
人が美味しいモノを食べて穏やかな気分になる事は、決して恥ではないのだ。
「ああ、そうだよ、色々面倒な作業が多いけど、以前よりもたくさん採れるよ」
俺は麦翁と呼び称えられた権田愛三の麦作りを参考に仮想戦記を書いた事がある。
俺と言っても智徳平八郎の記憶なのだが、俺のやったことに変わりはない。
キッチリと計って適度な間隔を開けて種麦を撒く事で、今まで収穫量の三分の一もの種麦を残しておかなければいけなかったのを、一気に減らす事ができた。
実る麦も大きな粒になるだろうが、そのためにやる事はとても多い
まず麦の根元をしっかりさせて倒伏を防ぐことをやらなければいけない。
だから麦の茎の枝分かれと根部の伸長を促進させる麦踏みをしているのだ。
さすがに、人糞や家畜の糞を使って堆肥を作る時間がなかった。
だから元の十五倍もの収穫量を期待する事はできない。
だが、肥料が少なくても五倍や六倍の収穫量は期待できる。
元々四万人の民を養っていた領地なのだ。
収穫量が五倍になれば、二十万の民を喰わしていく事ができる。
十倍の収穫量になれば、四十万人の民を養う事ができるのだ。
予定通り十五倍の収穫量になれば、六十万人を養っていける。
だがそうなると、オーク王国はもちろん、他の氏族に襲われるのは間違いない。
晩春の収穫時期になる前に、できるだけ多くの戦力を整えなければいけない。
家畜を重視する氏族だから、俺の記憶による価値観とは相容れない部分があるが、家畜のエサであるカブやクローバーを利用する六圃輪栽式農法を導入する。
そうして収穫量を十倍以上にできれば、氏族の圧倒的な支持を得られる。
この豊かな領地を守るために、従属民や奴隷から戦士を登用しなければいけないと言えば、価値観を変えてくれるかもしれない。
どうしても氏族内の価値観が変わらないようなら、従わない分家や戦士を追放して、俺個人の従属民や奴隷だけで国を護る方法もある。
分家や戦士の従属民や奴隷を味方に加える事ができれば、直接戦わなければいけない戦士の数は五〇〇人以下になるだろう。
王家や他の氏族が介入してきても、死に物狂いで戦う従属民や奴隷が二十万人いれば、そう簡単に負ける事はない。
まして王家や他氏族の従属民や奴隷を寝返らせる事ができれば十分勝ち目がある。
問題は従属民や奴隷を一年間喰わしていけるだけの食糧を得られるかどうかだったが、そのめどはついた。
次に問題なのは武器と防具だが、鉄器や青銅器を直ぐに手に入れる事は難しい。
だが、木製の盾やこん棒なら、山の木を伐採すれば作る事が可能だ。
土砂崩れを起こさないように気をつけなければいけないが、不可能ではない。
少々恥ずかしいが、殺傷力があるのなら石器でも構わない。
竹があればいいのだが、なければ完全木製の杖でも十分戦える。
いや、石をわざわざ石器にする必要などなかった。
武田信玄で有名な投石部隊を編制訓練すればいいのだ。
本当は武田信玄だけが投石部隊を使っていたのではなく、全ての戦国武将が普通に投石部隊を使っていた。
大して武芸の訓練をしていない農民兵でも、子供の頃から畑を荒らす鳥獣に石を投げていたから、十分に戦力として活用できた。
全力で投げられた拳大の石が飛んでくるのだ。
当たり所が悪ければ、有力な武将を負傷させて戦線を離脱させる事も可能だ。
まして相手は騎兵が主力の元同胞だから、その効果はもっと大きくなる。
落馬して死んでしまった武将は驚くほど多いのだ。
石を上手く当てて落馬させる事ができれば、結構多くの騎兵を殺すことができる。
いや、なにも人間に当てなくても、大きな的である馬に当てて暴れさせることができれば、落馬させる確率がとても高くなる。
「いいか、今日から毎日畑を荒らす鳥獣に石を投げて狩るからな。
もしうまく狩ることができたら、お前達が食べてもいい。
だから本気で投げて鳥獣を狩るのだぞ」
「「「「「はい」」」」」
児童団にやらせたい事は多いのだが、戦力増強は急務だから、投石訓練は絶対にやらなければいけない。
本当はヒツジやヤギの毛を使って投石器作り、投擲能力を強くしたうえで投石訓練をしたいのだが、貴重な毛織物を奴隷に使う事は俺にも許されない。
そうなると木製の投石器を作る事になるのだが、トレビュシェットだと大きすぎて製作に時間がかかり過ぎる。
オナガーなら小型だが、結局貴重な毛糸を使う事になる。
どうしても貴重な毛糸を使わないといけないのなら、命中率と殺傷力が欲しい。
命中率が高く殺傷力も高い武器で、戦った事のない老人や子供に使わせる事ができるものとなると、弩があるじゃないか。
城や砦に籠って使うのなら、弩に勝る武器はない。
ロングボウを装備したイングランド軍を弩を使うフランス軍が圧勝したはずだ。
問題があるとすれば、弩を作る事ができる職人がいるかどうかだ。
製作図を作って、最初の一つ二つを俺が作る事くらいはできるが、父上を補佐して公国を繁栄させなければいけないので、弩作りにだけに専念する事は許されない。
まずは優秀な職人を探さなければいけないない。
だがこれでは、春までに従属民や奴隷えお戦力化する当初の目的は果たせない。
安全な遠方から一方的に攻撃できる武器は他になかっただろうか。
しかも材料が簡単に手に入り、製作も比較的簡単な武器。
そんな武器がそう簡単に見つかるわけがないのだが、記憶の底に何かないか。
何かを飛ばして敵に当てる事しかないよな。
この世界で飛ばすとなると、投げる事しか思いつかない。
完全木製の投げ槍では、製作の事を考えれば投石以下の武器だよな。
俺が思い出す手で投げる武器となると、手裏剣だけど、これも投石以下だ。
あ、ブーメラン、カイリーがあったじゃないか。
俺の記憶にある長距離用ブーメランの世界記録は二三八メートルだったはず。
投石は最高四〇〇メートルだが、これは訓練された優秀な投石兵の投擲距離だ。
従属民や奴隷ならよくて一〇〇メートル、五〇メートル投げられた御の字だ。
それに、一点で敵に当てなければいけない投石に比べれば、線や面で敵に当てればいいブーメランの方がはるかに実用的な気がする。
なんといっても馬を驚かせて暴れさせるだけでいいのだからな。
まずはブーメランを作って確かめる事だ。
「レオナルド様、これで本当に麦がたくさん採れるのですか」
児童団の子供が不思議そうに問いかけてきた。
護衛の親衛騎士が厳しい目でその子をにらみつけるが、逆に俺が護衛をにらみつけてやったら、何も言わずに視線をそらしてくれた。
俺の護衛達も最初は乞食団や児童団の言動に怒りを覚えていた。
奴隷ごときが氏族長の長男に話しかける事は、彼ら基準ではとても不敬だからだ。
だが子供達の屈託のない笑顔や、俺が指導して彼らに作らせる料理を食べているうちに、徐々に保護欲に近いモノが生まれてきたようだ。
親衛騎士達の名誉のために断言しておくが、魚介粥や淡水魚の塩焼きの美味しさに魅了されて優しくなったわけではない。
人が美味しいモノを食べて穏やかな気分になる事は、決して恥ではないのだ。
「ああ、そうだよ、色々面倒な作業が多いけど、以前よりもたくさん採れるよ」
俺は麦翁と呼び称えられた権田愛三の麦作りを参考に仮想戦記を書いた事がある。
俺と言っても智徳平八郎の記憶なのだが、俺のやったことに変わりはない。
キッチリと計って適度な間隔を開けて種麦を撒く事で、今まで収穫量の三分の一もの種麦を残しておかなければいけなかったのを、一気に減らす事ができた。
実る麦も大きな粒になるだろうが、そのためにやる事はとても多い
まず麦の根元をしっかりさせて倒伏を防ぐことをやらなければいけない。
だから麦の茎の枝分かれと根部の伸長を促進させる麦踏みをしているのだ。
さすがに、人糞や家畜の糞を使って堆肥を作る時間がなかった。
だから元の十五倍もの収穫量を期待する事はできない。
だが、肥料が少なくても五倍や六倍の収穫量は期待できる。
元々四万人の民を養っていた領地なのだ。
収穫量が五倍になれば、二十万の民を喰わしていく事ができる。
十倍の収穫量になれば、四十万人の民を養う事ができるのだ。
予定通り十五倍の収穫量になれば、六十万人を養っていける。
だがそうなると、オーク王国はもちろん、他の氏族に襲われるのは間違いない。
晩春の収穫時期になる前に、できるだけ多くの戦力を整えなければいけない。
家畜を重視する氏族だから、俺の記憶による価値観とは相容れない部分があるが、家畜のエサであるカブやクローバーを利用する六圃輪栽式農法を導入する。
そうして収穫量を十倍以上にできれば、氏族の圧倒的な支持を得られる。
この豊かな領地を守るために、従属民や奴隷から戦士を登用しなければいけないと言えば、価値観を変えてくれるかもしれない。
どうしても氏族内の価値観が変わらないようなら、従わない分家や戦士を追放して、俺個人の従属民や奴隷だけで国を護る方法もある。
分家や戦士の従属民や奴隷を味方に加える事ができれば、直接戦わなければいけない戦士の数は五〇〇人以下になるだろう。
王家や他の氏族が介入してきても、死に物狂いで戦う従属民や奴隷が二十万人いれば、そう簡単に負ける事はない。
まして王家や他氏族の従属民や奴隷を寝返らせる事ができれば十分勝ち目がある。
問題は従属民や奴隷を一年間喰わしていけるだけの食糧を得られるかどうかだったが、そのめどはついた。
次に問題なのは武器と防具だが、鉄器や青銅器を直ぐに手に入れる事は難しい。
だが、木製の盾やこん棒なら、山の木を伐採すれば作る事が可能だ。
土砂崩れを起こさないように気をつけなければいけないが、不可能ではない。
少々恥ずかしいが、殺傷力があるのなら石器でも構わない。
竹があればいいのだが、なければ完全木製の杖でも十分戦える。
いや、石をわざわざ石器にする必要などなかった。
武田信玄で有名な投石部隊を編制訓練すればいいのだ。
本当は武田信玄だけが投石部隊を使っていたのではなく、全ての戦国武将が普通に投石部隊を使っていた。
大して武芸の訓練をしていない農民兵でも、子供の頃から畑を荒らす鳥獣に石を投げていたから、十分に戦力として活用できた。
全力で投げられた拳大の石が飛んでくるのだ。
当たり所が悪ければ、有力な武将を負傷させて戦線を離脱させる事も可能だ。
まして相手は騎兵が主力の元同胞だから、その効果はもっと大きくなる。
落馬して死んでしまった武将は驚くほど多いのだ。
石を上手く当てて落馬させる事ができれば、結構多くの騎兵を殺すことができる。
いや、なにも人間に当てなくても、大きな的である馬に当てて暴れさせることができれば、落馬させる確率がとても高くなる。
「いいか、今日から毎日畑を荒らす鳥獣に石を投げて狩るからな。
もしうまく狩ることができたら、お前達が食べてもいい。
だから本気で投げて鳥獣を狩るのだぞ」
「「「「「はい」」」」」
児童団にやらせたい事は多いのだが、戦力増強は急務だから、投石訓練は絶対にやらなければいけない。
本当はヒツジやヤギの毛を使って投石器作り、投擲能力を強くしたうえで投石訓練をしたいのだが、貴重な毛織物を奴隷に使う事は俺にも許されない。
そうなると木製の投石器を作る事になるのだが、トレビュシェットだと大きすぎて製作に時間がかかり過ぎる。
オナガーなら小型だが、結局貴重な毛糸を使う事になる。
どうしても貴重な毛糸を使わないといけないのなら、命中率と殺傷力が欲しい。
命中率が高く殺傷力も高い武器で、戦った事のない老人や子供に使わせる事ができるものとなると、弩があるじゃないか。
城や砦に籠って使うのなら、弩に勝る武器はない。
ロングボウを装備したイングランド軍を弩を使うフランス軍が圧勝したはずだ。
問題があるとすれば、弩を作る事ができる職人がいるかどうかだ。
製作図を作って、最初の一つ二つを俺が作る事くらいはできるが、父上を補佐して公国を繁栄させなければいけないので、弩作りにだけに専念する事は許されない。
まずは優秀な職人を探さなければいけないない。
だがこれでは、春までに従属民や奴隷えお戦力化する当初の目的は果たせない。
安全な遠方から一方的に攻撃できる武器は他になかっただろうか。
しかも材料が簡単に手に入り、製作も比較的簡単な武器。
そんな武器がそう簡単に見つかるわけがないのだが、記憶の底に何かないか。
何かを飛ばして敵に当てる事しかないよな。
この世界で飛ばすとなると、投げる事しか思いつかない。
完全木製の投げ槍では、製作の事を考えれば投石以下の武器だよな。
俺が思い出す手で投げる武器となると、手裏剣だけど、これも投石以下だ。
あ、ブーメラン、カイリーがあったじゃないか。
俺の記憶にある長距離用ブーメランの世界記録は二三八メートルだったはず。
投石は最高四〇〇メートルだが、これは訓練された優秀な投石兵の投擲距離だ。
従属民や奴隷ならよくて一〇〇メートル、五〇メートル投げられた御の字だ。
それに、一点で敵に当てなければいけない投石に比べれば、線や面で敵に当てればいいブーメランの方がはるかに実用的な気がする。
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