六度目の転生は異世界で

克全

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第一章

第23話:ナポリ陥落

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教会歴五六一年十一月(十二歳)

「ロアマ人に告ぐ、今直ぐ降伏せよ。
 抵抗するようなら皆殺しも辞さぬ。
 生き残った者も死んだ方がましだと思うような待遇の奴隷に落とす。
 いや、俺が使わず、悪名高いアルボイーノ陛下に売り払うぞ。
 だが今直ぐ降伏するのなら、俺の従属民にしてやる。
 農地の所有は認めないが、家財の所有は認める。
 我の従属民となっている商人から、待遇についての話しは聞いているはずだ。
 今直ぐ降伏するか、死ぬか、即座に選べ、時間稼ぎは許さん」

 俺は幾重にも包囲した都市、ナポリの城門前で大声を出した。
 まだ地声が小さいので、銅で作らせたメガホンを使っている。
 奇異の目で見られているが、今回は目立つ事も大切なので、気にしない。
 まだ身体が成長途上の俺は、見た目だけで敵を畏怖させる事ができない。
 味方ならば実績や普段の言動で立場を築く事もできるが、初見の敵には使えない。
 交渉事はどうしても見た目がモノを言うので、道具を使って自身を目立たせる。
 その一つが巨大なメガホンであり、メガホンを支える護衛達だ。

 心から信じられる、裏切る事のない戦士や従属民が護衛を務めてくれている。
 妻や子供といった最愛の者をストレーザ公国に残している者達。
 俺を裏切るような事があれば、最愛の者を父上に惨殺される事になる。
 卑怯な手段ではあるが、こんな弱肉強食の世界では仕方がないのだ。
 歴史上の有名人が、幾人も心から信用信頼していた者に裏切られ殺された事か。
 六度も転生を経験している俺は、知識と実体験で嫌というほど知っている。

 歴史には残らない裏切りを何度も体験している。
 本多平八郎の人生では、主君徳川家康の裏切りを何度も目の当たりにしている。
 生き残るため、天下を取るために信用も信頼も裏切って当然なのだ。
 裏切られないための細工は何重にも施さなければいけない。
 人質が効果的ならば、使わない方がおかしいのだ。
 智徳平八郎の良心などこの世界で生き残るためには邪魔でしかない。

「本当に奴隷にはしないと約束するか。
 お前がよこしたロアマ商人が言った約定を護ると神に誓うか」

 ナポリの代表らしい人間が大声で返してきた。

「俺達ランゴバルド人はロアマ人の神を信じていない。
 だからそんな神に誓った約定など平気で破る。
 だから氏族の祖先と誇りにかけて誓うと書かれた誓約書しか意味がない。
 これからランゴバルド人と約定を交わす時は気をつけるがいい。
 我は信義を重んじる漢なので教えておいてやる」

「では、貴殿は氏族の祖先と誇りにだけ誓って、我らの神には誓わないのか」

「ああ、ロアマの神には誓わない。
 だが、誓約書にはロアマの神にも誓うと書こう。
 お前達ロアマ人にも、神だけでなく氏族の祖先と誇りに誓ってもらう。
 互いに大切に思うモノに誓わないと誓約書など交わす意味がない。
 お前達ロアマ人は、皇帝すら平気で裏切り弑逆するからな」

 さて、どんな返事を返してくれるのかな。
 本当に頭のいい人間なのか、それとも少し知恵が回るだけの人間なのか。
 本当に頭がよくて役に立つ漢なら、戦士階級に取立ててやってもいい。
 戦う力や胆力が不足しているのなら、文官として使ってやってもいい。
 胆力のない奴にこの世界の商人は務まらないから、金儲けにも情報集めにも使えないが、声の感じでは胆力がありそうだ。

「分かった、こちらにはナポリに住む全ロアマ人の名簿がある。
 彼ら全員を従属民として、農地以外の私有財産を保証する契約を交わしたい。
 私が城門から出ていくから、軍を後ろに下げてもらいたい」

「分かった、奇襲できないように軍を下げよう。
 だが忘れるなよ、このような好条件は俺しか出さないぞ。
 他の氏族ならば、損害を顧みずにナポリを力攻めして滅ぼす。
 焼き払い破壊した都市から集められるだけの財宝を集め、生き残った者を奴隷にするだけで、絶対に従属民としては扱わないぞ。
 そんな氏族連中がナポリに集まってきたら、俺の出した条件は反故になるぞ。
 時間稼ぎなど愚か者のする事だが、分かっているのだろうな」

 俺が強く脅したからなのか、それとも南イタリアに侵攻した氏族連中の破壊と虐殺の噂を聞いたのか、ナポリの代表は時間稼ぎする事なく誓約書にサインをした。
 俺がナポリ領主となる事を認め、毎年決まった税を納める事を約束した。
 何の財産も持っていなくても、従属民一人当たり決まった人頭税を払う。
 財産を持つ従属民は、個人所有を認められた財産に対して一定割合の税を納める。
 商売を行う従属民は、利益に応じた税を払うといった約定だ。

 徐々に追い込まれている彼らの気持ちはよく分かる。
 ローマのあるラツィオ地方とその周辺にはロアマ帝国イタリア駐屯軍がいる。
 だがナポリのあるカンパニア地方の大半はランゴバルド人に占領されているのだ。
 今占領を免れているのは、山脈と海に守られた沿岸部の細長い地域だけしかない。
 俺が拠点であるナポリを占領すれば、近隣を占領している残虐非道な氏族達が一気に占領に動くだろう。
 
 だが沿岸地帯は俺の獲物だ、他の氏族に占領させはしない。
 何者にも妨げられない自由を手に入れるために海に出るのだ。
 拠点となる沿岸部を他人に渡すわけにはいかない。
 沿岸部を護るのに役立っていた山脈の木々は、船団を築くのに必要な材料だ。
 今直ぐに戦列艦隊やフリゲート艦隊を編成する事はできないが、代用の艦隊は編制できる。

 そもそもこの世界の船大工に戦列艦やフリゲート艦を建造する事はできない。
 だがロアマ帝国が建造していたガレー船と、ヴァイキングが使っていた船を建造する事はできる。
 ガレー船艦隊とヴァイキング船艦隊を編成する事は不可能じゃない。
 沿岸部と山脈部を領地にできれば、常に皇帝と貴族が争っているロアマ帝国の艦隊が相手なら、十分に対抗できる大艦隊を編成できるはずだ。

 それに領地的には狭いが、細長い沿岸部の領地には大きな利点がある。
 俺の持つ知識を有効に利用できれば、大塩田地帯にする事が可能だ。
 沿岸部の状態を確認したうえで、揚浜式塩田と入浜式塩田、あるいは立体的な枝条架装置を利用した流下式塩田を作らせる。
 俺には以前の十五倍の収穫量を誇るストレーザ公国の生産力がある。
 食糧不足を心配する事なく従属民や奴隷を増やすことができるのだ。
 大量の人力を使って大々的な工事をする事ができる。

 新たに手に入れたナポリと周辺部の労働力も活用する事ができる。
 彼らは俺に人頭税を支払う義務がある。
 ある程度の私財を持っている者以外は、働いて人頭税を稼がなければならない。
 人頭税の代わりに労働させる事も可能なのだ。
 それに、従属民を使わなくても、新たに手に入る奴隷を活用すればいい。
 残虐非道な他の氏族に追われた数多くのロアマ人が、生きていくために、比較的待遇のいい俺の領地に逃げてくる事は目に見えている。

 新たに手に入る奴隷を使って塩田を築き農地を開墾する。
 俺の導入した農業革命をナポリ周辺でも行う。
 そうすればナポリ周辺も今までの十五倍の収穫量になる。
 そうなれば百万を超える領民を養う事も不可能ではない。
 いや、もう領民ではなく国民と言うべきだろう。
 五年計画で父上を公王から国王に押し上げる事を考えよう。
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