仇討浪人と座頭梅一

克全

文字の大きさ
6 / 88
第一章

第六話:探索

しおりを挟む
 梅一はそれから十日間賭場に通った。
 幾つかの顔を使い分けている梅一はそれなりに忙しいのだが、それでも時間をやりくりして、毎日少しの時間でも賭場に通っていた。
 初日に百両以上の大金を勝って、その一割を賭場の代貸に渡した事で、賭場の掟に精通していると思われていた。
 そうでなければ初日の帰り道に襲われていた事だろう。

 賭場ではほぼ毎日浪人者とも顔を合わせたが、特に何も口はきかなかった。
 知り合いだと思われたら、博徒に警戒される可能性がある。
 無用の危険は避ける主義の梅一は、浪人者とは目もあわさない。
 とは言いながら、女子供が困っていると、命懸けで助けようとする性分の梅一は、何度も死にかけているのだが。

「ここだけの話しなんだが、ここにいる娘達は病気なんて持ってないだろうね」

 梅一は、初日に案内してくれてから何かと話しかけて仲良くなった賭場の三下、豊二に小声で話しかけた。

「宗助さん滅多な事を口にするもんじゃないよ。
 ここにいる娘さん達は、親の借金の所為で身体を売ってはいるが、どなたも立派な武家のお嬢さんなんだよ。
 それにここに来られるお客さん達は、身分の高い方かお金持ちの人達だ、病気持ちのいるような悪所には行かれていないよ」

 豊二は本気で梅一の事を心配してくれていた。
 生れた陸奥の南部で凶作が続き、生きるために盗みを働きながら江戸に出てきた豊二は、まだ完全に悪党にはなっていなかった。
 だからこそ余命な事を口にしたせいで、梅一が親分や兄貴分達に殺されるような事は避けたかったのだ。

 長年裏社会と表の社会で多くの人を見てきた梅一は、ひと目でそんな豊二の性格を見抜き、心を盗るように心がけてきた。
 毎日賭場に来る時には、博徒衆に渡すか菓子とは別に、豊二にだけ心付けを渡して特別扱いしていた。
 帰りには勝った金額の一割を代貸に渡すと同時に、豊二にだけ心付けを渡した。

「そうですか、私もここに来させてもらってまだ間がないものですから、余計ない心配をしてしまったのです。
 私も父に江戸で店を出す差配を任された以上、病気になるわけにはいかないので、つい無礼な事を口にしてしまいました」

「宗助さんの気持ちは分かりますが、口は禍の素ですから、気をつけてくださいよ」

 梅一は本気で心配してくれる豊二に心の中で詫びていた。
 素性を偽り偽名を使い騙している事を詫びていたのだ。
 だが、だからといって浪人者との約束を破る気はなかった。
 豊二にも事情があるのだろうが、豊二以上に娘さん達が可哀想だった。
 何としても今の状況から助け出してやりたかった。

 だからこそ、当初は避けていた、娘さんを抱く決意をした。
 賭場の中でひと通りの情報を集めたが、証文の保管場所は分からなかった。
 調べるには一人になって屋敷の中を探らなければいけない。
 そのためには、ゆっくり時間をかけて調べる必要があった。
 そのためには、女と二人きりになる必要があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

花嫁

一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

麗しき未亡人

石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。 そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。 他サイトにも掲載しております。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

処理中です...