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アムラ王国・テトラ街
丸投げと魔獣肉の塩焼きそば
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「え~と、ミノル様これはどう言う事なのでしょうか?」
「ダルダーロさん、私は大魔導師なのでしょ、だったら少々の事で驚かないでください」
「これはとても少々とは言えないような気がするのですが」
「おだまりなさい、貴方! 何があってもそれはミノル様だからと思うのです」
「だがな~お前、御神木が 魔獣やモンスターを運んで来て冒険者の訓練に使うのを見て、驚かないなんて普通無理だろう」
「それを驚かずに受け入れ、どうやったらミノル様の御役に立てるかを考えるのが、私達の務めではありませんか!」
「そんなに厳しく言うなよ、哀しくなるじゃないか」
「甘えるんじゃありません! しっかりなさいませ!」
(この男は女房の尻に敷かれているんだな)
(かわいそうな事を言ってやるなセイ)
(だがどう見てもそうであろう)
(それを見て見ない振りをするのが優しさと言うものだよ)
(昨日ミノルが、村人達に言った事が支離滅裂で、言行不一致だったことも見て見ぬ振りをするのが優しさなのだな)
(それは言わないでくれ、ちょっと頭に血が上り過ぎて、脅しと本気の境界を行ったり来たりしてしまったんだよ)
(まあいいだろう)
そうなのだ、昨日はダルダーロ一家に恩知らずな事をした村人達に、皆殺しにするとか連行して裁判にかけるとか、色々脅したりした。だが結局は、テトラ冒険者組合とテトラ役人に丸投げして、面倒事を避けたのだ。
しかも全ての報告や手続きを、如才なくなんでもこなしてくれる、ラーラさんに全て任せてしまった。ダルダーロとラーラさんは、現役冒険者時代には結構有名だったようで、テトラ冒険者組合やテトラ役所でも話が早く済んだようだ。
そして何より助かったのは、テトラと見習村の往復時の安全確保だった。確かに見習達のレベル上昇速度は、冒険者組合のベテランを驚かせ中堅に脅威を抱かせるほどのものだが、いかんせん実戦経験と言うものがない。経験という物だけは場数を踏まねば積めないものだが、それがないと些細な事で命を失いかねない大切なものなのだ。
ダルダーロとラーラさんの加入は、その致命的な欠点を補うのに最適なものだった。
ああいかんいかん、思考の中でいつの間にかダルダーロさんだけ呼び捨てになっていた。気を抜くと現実でも、ダルダーロさんだけ呼び捨てにしてしまうかもしれない。それでなくても小さくなっているのに、これ以上肩身の狭いを思いをさせる訳にはいかない、気をつけよう。
そうそう、ダルダーロさんとラーラさんの事なのだが、ダルダーロさんが最後の冒険で膝を負傷し後遺症が残り、高レベルの魔獣やモンスターとの戦いに多少不安があったから引退したそうなのだ。まあ、その、なんだ、ラーラさんが妊娠してしまい、子供の安全の為に休んでいるうちに、なし崩し的に引退してしまったと言うのが真相らしいのだが。
幸いと言えるのかどうかは別にして、俺の治癒魔法で後遺症が完治した上に、レベルと年相応の最高筋力と最高魔力量まで取り戻した事で、見習達とは比較にならないほどの実力を取り戻された。しかも喜々として、中庭でレベリングに励むのだから、いつまでたっても見習達は追い付けないだろう。
何より悪乗りしたセイが、分身体に俺が見たこともない魔獣やモンスターを集めさせ、ダルダーロさんとラーラさんのレベリングに提供するのだから始末に悪い。
しかも俺が文句を言えば、見習達に出来るだけ多種多様なモンスター対処法を見学させておかないと、不測の事態で死ぬことになると言われ、逆にセイに謝ることになったのだから情けない限りだ。
「ではダルダーロさん、ラーラさん、私は所用をかたずけて来ますから、後はお任せしましたよ」
「「お任せ下さい!」」
(所用と言ってもアグネスに料理作るだけだろ?)
(うるさい! 昨日作ってやれなかったのだから今日くらいいいだろ)
(今日もであろう)
(さっさと行くぞ)
「アグネス、お腹空いていないか?」
「ミャミャミャウ、ミャミャ」
「主~、今日は作ってくれよ~」
「分かって分かってる、任せておけ」
「ミャウミャウ ミャミャミャア」
「何を作ってくれるんだ、主~」
「麺と獣肉を炒めたものだよ」
「ウェッ、ステーキ焼いてくれよステーキ」
「あれは焼くだけだろ、それに昨日もステーキ食べたと言ってたじゃないか」
「主が焼いてくれたのが美味しいんだよ! それに俺もアグネスも元々毎日毎日生肉を喰う種族だぞ? 野菜や穀物喰わされる方が辛いよ。俺には肉なんだよ肉!」
「作り甲斐のない奴だな、それに天魔獣人族のアグネスは、まだ何が主食か分かっていないだろ! アグネスもステーキで好いのか?」
「ミャウ!」
「な! アグネスだって肉が好いて言ってるじゃないか」
「アグネスがそう言うなら仕方ないけど、何で俺と白虎が作ったステーキに違いが出るんだ?」
「それはなミノル、恐らく主従契約の影響だろうよ」
「どう言う事だ、セイ」
「主従契約を結んだ主が、従者の為に手料理を作ってやる。これが大いなる魔力を発生させ、従者を育てることになるのであろう。それが発生した証拠として、料理が美味しくなるのだな」
「何か理解し難い魔術の発生形態だな」
「そんな事を言ってしまえば、火魔法や風魔法・水魔法がなぜ起こるかにまで理論が必要になるぞ。そう言うものだと現実を受け入れろ」
「まあ現実を受け入れるしかないんだが、はい、1枚目焼けたよ」
俺はアグネスと白虎に、それぞれの咀嚼力に応じた厚み焼き方にしたステーキを1枚づつ出してやった。最初は塩胡椒だけの単純なステーキだが、それだけに火加減が大切だったし、何よりセイに言われた事で愛情を込める事に注意してみた。まあ元からアグネスには溢れんばかりの愛情を注いでいたが、白虎に対しても苛立ちを出さないように気をつけてみた。
「満腹になったか?」
「ミャ~ウ、ミャ」
「そうかそうか、寝て来なさい」
「主~、酒くれよ酒~」
「まだこの前のが残ってるんじゃないのか?」
「万が一主が帰ってこれなかった時の事が怖いんだよ~、もう主の酒なしでは生きて行けないよ~」
「しかたのない奴だな、いつものセットだぞ?」
「あれがいいんじゃないか! あんな強くて美味しくい酒が多種多彩にあるんだ、何の文句も無いよ!」
俺はベットに寝に行くアグネスを見送りながら、白虎の為の何時もの酒セットをドローン配送してやった。だがそれで料理が終わった訳では無く、せっかくアグネスと白虎の為に取り寄せていた材料で新作を作ることにした。
「残念であったな、ミノル」
「アグネスが寝てしまったのに、念話に切り替えないのかセイ?」
「ふん! 我の好きにさせるがよい」
「白虎を構いたいのか?」
「うるさいわ!」
「何かセイも段々性格変わってきていないか?」
「それはミノルの影響であろう、デュオなのだから元々の性格は勿論、その時の感情も互いに影響し合うのだ。我は長年生きておるから、少々の事で感情の起伏などないが、ミノルはそうはいくまい」
「そうだな、それは済まなかったな。セイが白虎に文句を言ってくれていたのは、俺の深層心理の影響だったのかもしれないな。俺が言いたくても言えず、心にため込んだ悪感情を、セイが代わりに吐き出していてくれたんだな」
「さあな、そんな細かな事は分からん事だ」
白虎は何も聞こえない振りで酒を飲んでくれているが、もしかしたら全てを知っていたのかもしれない。セイほどではないにしも、白虎も長く長く生きてきた四聖獣の一匹だ、大概の事は経験して知っているだろうし、推察することも出来るだろう。俺は彼らの大きな心と力で護られていたのだな。
つらつらと考えながらも料理の手は休めなかった。アグネスや白虎は食べてくれないかもしれないが、どうせ料理を作るのなら愛情を込めて作るべきだ。それに肉を多めに入れておけば、ステーキとは一味違った肉だけ食べさせてあげることも出来る。
「魔獣肉の塩焼き麺」
魔獣肉 :6kg
異世界麺 :14kg
モヤシ :12kg
葱 :25本
鶏ガラスープ:小さじ50杯
塩 :適量
胡椒 :適量
魔獣脂 :適量
1:魔獣肉は3cm幅に切り、塩・こしょう少々をふる。ねぎは斜め薄切りにする。
2:異世界麺は魔法を使い水蒸気で蒸す
3:フライパンに魔獣脂を熱し、中火で魔獣肉をほぐしながら炒める。
4:魔獣肉に火が通ったらもやし・斜め切りしたねぎを加えて炒める。
5:葱が透き通ってきたら異世界蒸麺を加えて炒める。
6:「丸鶏がらスープ」をふり入れ、塩少々で味を調えて完成
自分も食べる可能性もあるから、今回用意したのはジャイアント・レッドベアーの肉だが、別に何の肉でも構わない。異世界でモヤシや葱を探すのが面倒だったから、ドローン配送で取り寄せたが、見習達に似た食材を集めさせてもいいし、冒険者ギルドに依頼して集めさせてもいい。
まあ見習村の場合は、御神体に創り出してもらうと言う裏技があるのだが、出来るだけ頼らせないようにしないといけないな。まあその辺はセイが上手く取り計らってくれるだろう。
丸鶏スープだが、素材として売れない骨を集めて煮出し、濃縮スープにした物を創り出し、異世界の麺を蒸すときに使えばいいだろう。それとも異世界麺を蒸さずに炒めて、最後に濃縮スープを加えてから仕上げに蒸した方が美味しいだろうか?
仕方がないな、今回出来るだけ小分けに試作して試食しよう。その上で最高に美味しい作り方を、新たに考えだす以外に方法はないな。見習達に食べさせてあげたり、彼ら自身が作れるレシピを考えだすとすれば、日本の食材に頼らない作り方が大切だもんな。
ああいかん!
俺が偏った嗜好だと言う事を忘れていた!
俺だけで味見していたんでは、異世界の人達の好みを無視した料理になってしまう。
「見習村に戻るか、ミノル」
「そうだな、アグネスもよく寝ているし、村に帰って作り試食してもらうよ」
「では肉を変えろよ、ジャイアント・レッドベアーで作った料理など、どんな作り方をしようが美味しく感じるに決まっているからな」
「あ! そうか、レベルの高い肉は無条件で美味しいんだな!」
「ジャイアント・レッドベアーの脂が麺にも野菜にも塗されているんだ、全部美味く感じるだろう」
「そうかそうだな、だったらどうしようか? ティタノボア? アナコンダ? デイノスクス? どれも脂が少ないから焼きそばには不向きなんだよな」
「ミノル、もっとよく考えるんだ、どれも見習には高レベルの魔獣だぞ、料理が美味しいかどうか知りたいのなら、もっともっと低レベルの魔獣かモンスターの肉を使うんだ」
「そうか、そうだな、だとするとホーンラビットかファングラットになるのかな?」
「そうだ、その辺りにしておくべきだろうな」
「だが脂が少ないんだよな、オークじゃ駄目かな?」
「油を買え油を、レベリングとやらで、魔獣相場が暴落するくらい素材を売り払っているではないか、それで得た金で油くらい腐るほど買えるであろう」
「いや、自給自足出来る料理を考えてやろうと思ってだな」
「それならそもそも麺を買う事もおかしいではないか、ミノルの言う事はいつもどこか抜けておるぞ?」
「あ~、そうか、そうだな、間抜けはセイのデュオになっても治らんのだな」
「そう落ち込むでない、そう言うミノルが我は面白くて好きなのだ」
「何か全然うれしくないぞ!」
「まだミノルは五十ではないか、我からすればアグネスと変わらぬ赤子のようなものだ」
「あのな~セイ、俺が元々いた日本じゃ50は初老なんだよ、この世界だってこの前の村じゃ五十は爺と言われたじゃないか」
「ふん! 我から見れば、原初以外の人間など皆愚かな幼子だよ。いやそうではないな、レベルが上がった人間なら、長く長く生きておるから、それなりに知識知恵を備えた者もおるな」
「そうなのか?」
「そうだ、ジャイアント・レッドベアーは勿論、オークやコボルトですらレベルが上がれば階級が上がるであろう、人間も同じように階級が上がるのだ」
「人間種にも、エンペラーやキング・ジェネラルと言った階級があり、そう言う人間は長命になるんだな」
「そうだ、ゲルマン帝国を滅亡させたときに、ミノルが殺したではないか、覚えておらのか?」
「あの時は何も分からず、セイの命じるままにやったから、何も分かってなかったし、今でも何が何だが分からないよ」
「ふむ、まあ仕方ない事であろうな。もう焼きそばは出来たではないか、村に行くんだろ」
「ああ行くぞ!」
「ダルダーロさん、私は大魔導師なのでしょ、だったら少々の事で驚かないでください」
「これはとても少々とは言えないような気がするのですが」
「おだまりなさい、貴方! 何があってもそれはミノル様だからと思うのです」
「だがな~お前、御神木が 魔獣やモンスターを運んで来て冒険者の訓練に使うのを見て、驚かないなんて普通無理だろう」
「それを驚かずに受け入れ、どうやったらミノル様の御役に立てるかを考えるのが、私達の務めではありませんか!」
「そんなに厳しく言うなよ、哀しくなるじゃないか」
「甘えるんじゃありません! しっかりなさいませ!」
(この男は女房の尻に敷かれているんだな)
(かわいそうな事を言ってやるなセイ)
(だがどう見てもそうであろう)
(それを見て見ない振りをするのが優しさと言うものだよ)
(昨日ミノルが、村人達に言った事が支離滅裂で、言行不一致だったことも見て見ぬ振りをするのが優しさなのだな)
(それは言わないでくれ、ちょっと頭に血が上り過ぎて、脅しと本気の境界を行ったり来たりしてしまったんだよ)
(まあいいだろう)
そうなのだ、昨日はダルダーロ一家に恩知らずな事をした村人達に、皆殺しにするとか連行して裁判にかけるとか、色々脅したりした。だが結局は、テトラ冒険者組合とテトラ役人に丸投げして、面倒事を避けたのだ。
しかも全ての報告や手続きを、如才なくなんでもこなしてくれる、ラーラさんに全て任せてしまった。ダルダーロとラーラさんは、現役冒険者時代には結構有名だったようで、テトラ冒険者組合やテトラ役所でも話が早く済んだようだ。
そして何より助かったのは、テトラと見習村の往復時の安全確保だった。確かに見習達のレベル上昇速度は、冒険者組合のベテランを驚かせ中堅に脅威を抱かせるほどのものだが、いかんせん実戦経験と言うものがない。経験という物だけは場数を踏まねば積めないものだが、それがないと些細な事で命を失いかねない大切なものなのだ。
ダルダーロとラーラさんの加入は、その致命的な欠点を補うのに最適なものだった。
ああいかんいかん、思考の中でいつの間にかダルダーロさんだけ呼び捨てになっていた。気を抜くと現実でも、ダルダーロさんだけ呼び捨てにしてしまうかもしれない。それでなくても小さくなっているのに、これ以上肩身の狭いを思いをさせる訳にはいかない、気をつけよう。
そうそう、ダルダーロさんとラーラさんの事なのだが、ダルダーロさんが最後の冒険で膝を負傷し後遺症が残り、高レベルの魔獣やモンスターとの戦いに多少不安があったから引退したそうなのだ。まあ、その、なんだ、ラーラさんが妊娠してしまい、子供の安全の為に休んでいるうちに、なし崩し的に引退してしまったと言うのが真相らしいのだが。
幸いと言えるのかどうかは別にして、俺の治癒魔法で後遺症が完治した上に、レベルと年相応の最高筋力と最高魔力量まで取り戻した事で、見習達とは比較にならないほどの実力を取り戻された。しかも喜々として、中庭でレベリングに励むのだから、いつまでたっても見習達は追い付けないだろう。
何より悪乗りしたセイが、分身体に俺が見たこともない魔獣やモンスターを集めさせ、ダルダーロさんとラーラさんのレベリングに提供するのだから始末に悪い。
しかも俺が文句を言えば、見習達に出来るだけ多種多様なモンスター対処法を見学させておかないと、不測の事態で死ぬことになると言われ、逆にセイに謝ることになったのだから情けない限りだ。
「ではダルダーロさん、ラーラさん、私は所用をかたずけて来ますから、後はお任せしましたよ」
「「お任せ下さい!」」
(所用と言ってもアグネスに料理作るだけだろ?)
(うるさい! 昨日作ってやれなかったのだから今日くらいいいだろ)
(今日もであろう)
(さっさと行くぞ)
「アグネス、お腹空いていないか?」
「ミャミャミャウ、ミャミャ」
「主~、今日は作ってくれよ~」
「分かって分かってる、任せておけ」
「ミャウミャウ ミャミャミャア」
「何を作ってくれるんだ、主~」
「麺と獣肉を炒めたものだよ」
「ウェッ、ステーキ焼いてくれよステーキ」
「あれは焼くだけだろ、それに昨日もステーキ食べたと言ってたじゃないか」
「主が焼いてくれたのが美味しいんだよ! それに俺もアグネスも元々毎日毎日生肉を喰う種族だぞ? 野菜や穀物喰わされる方が辛いよ。俺には肉なんだよ肉!」
「作り甲斐のない奴だな、それに天魔獣人族のアグネスは、まだ何が主食か分かっていないだろ! アグネスもステーキで好いのか?」
「ミャウ!」
「な! アグネスだって肉が好いて言ってるじゃないか」
「アグネスがそう言うなら仕方ないけど、何で俺と白虎が作ったステーキに違いが出るんだ?」
「それはなミノル、恐らく主従契約の影響だろうよ」
「どう言う事だ、セイ」
「主従契約を結んだ主が、従者の為に手料理を作ってやる。これが大いなる魔力を発生させ、従者を育てることになるのであろう。それが発生した証拠として、料理が美味しくなるのだな」
「何か理解し難い魔術の発生形態だな」
「そんな事を言ってしまえば、火魔法や風魔法・水魔法がなぜ起こるかにまで理論が必要になるぞ。そう言うものだと現実を受け入れろ」
「まあ現実を受け入れるしかないんだが、はい、1枚目焼けたよ」
俺はアグネスと白虎に、それぞれの咀嚼力に応じた厚み焼き方にしたステーキを1枚づつ出してやった。最初は塩胡椒だけの単純なステーキだが、それだけに火加減が大切だったし、何よりセイに言われた事で愛情を込める事に注意してみた。まあ元からアグネスには溢れんばかりの愛情を注いでいたが、白虎に対しても苛立ちを出さないように気をつけてみた。
「満腹になったか?」
「ミャ~ウ、ミャ」
「そうかそうか、寝て来なさい」
「主~、酒くれよ酒~」
「まだこの前のが残ってるんじゃないのか?」
「万が一主が帰ってこれなかった時の事が怖いんだよ~、もう主の酒なしでは生きて行けないよ~」
「しかたのない奴だな、いつものセットだぞ?」
「あれがいいんじゃないか! あんな強くて美味しくい酒が多種多彩にあるんだ、何の文句も無いよ!」
俺はベットに寝に行くアグネスを見送りながら、白虎の為の何時もの酒セットをドローン配送してやった。だがそれで料理が終わった訳では無く、せっかくアグネスと白虎の為に取り寄せていた材料で新作を作ることにした。
「残念であったな、ミノル」
「アグネスが寝てしまったのに、念話に切り替えないのかセイ?」
「ふん! 我の好きにさせるがよい」
「白虎を構いたいのか?」
「うるさいわ!」
「何かセイも段々性格変わってきていないか?」
「それはミノルの影響であろう、デュオなのだから元々の性格は勿論、その時の感情も互いに影響し合うのだ。我は長年生きておるから、少々の事で感情の起伏などないが、ミノルはそうはいくまい」
「そうだな、それは済まなかったな。セイが白虎に文句を言ってくれていたのは、俺の深層心理の影響だったのかもしれないな。俺が言いたくても言えず、心にため込んだ悪感情を、セイが代わりに吐き出していてくれたんだな」
「さあな、そんな細かな事は分からん事だ」
白虎は何も聞こえない振りで酒を飲んでくれているが、もしかしたら全てを知っていたのかもしれない。セイほどではないにしも、白虎も長く長く生きてきた四聖獣の一匹だ、大概の事は経験して知っているだろうし、推察することも出来るだろう。俺は彼らの大きな心と力で護られていたのだな。
つらつらと考えながらも料理の手は休めなかった。アグネスや白虎は食べてくれないかもしれないが、どうせ料理を作るのなら愛情を込めて作るべきだ。それに肉を多めに入れておけば、ステーキとは一味違った肉だけ食べさせてあげることも出来る。
「魔獣肉の塩焼き麺」
魔獣肉 :6kg
異世界麺 :14kg
モヤシ :12kg
葱 :25本
鶏ガラスープ:小さじ50杯
塩 :適量
胡椒 :適量
魔獣脂 :適量
1:魔獣肉は3cm幅に切り、塩・こしょう少々をふる。ねぎは斜め薄切りにする。
2:異世界麺は魔法を使い水蒸気で蒸す
3:フライパンに魔獣脂を熱し、中火で魔獣肉をほぐしながら炒める。
4:魔獣肉に火が通ったらもやし・斜め切りしたねぎを加えて炒める。
5:葱が透き通ってきたら異世界蒸麺を加えて炒める。
6:「丸鶏がらスープ」をふり入れ、塩少々で味を調えて完成
自分も食べる可能性もあるから、今回用意したのはジャイアント・レッドベアーの肉だが、別に何の肉でも構わない。異世界でモヤシや葱を探すのが面倒だったから、ドローン配送で取り寄せたが、見習達に似た食材を集めさせてもいいし、冒険者ギルドに依頼して集めさせてもいい。
まあ見習村の場合は、御神体に創り出してもらうと言う裏技があるのだが、出来るだけ頼らせないようにしないといけないな。まあその辺はセイが上手く取り計らってくれるだろう。
丸鶏スープだが、素材として売れない骨を集めて煮出し、濃縮スープにした物を創り出し、異世界の麺を蒸すときに使えばいいだろう。それとも異世界麺を蒸さずに炒めて、最後に濃縮スープを加えてから仕上げに蒸した方が美味しいだろうか?
仕方がないな、今回出来るだけ小分けに試作して試食しよう。その上で最高に美味しい作り方を、新たに考えだす以外に方法はないな。見習達に食べさせてあげたり、彼ら自身が作れるレシピを考えだすとすれば、日本の食材に頼らない作り方が大切だもんな。
ああいかん!
俺が偏った嗜好だと言う事を忘れていた!
俺だけで味見していたんでは、異世界の人達の好みを無視した料理になってしまう。
「見習村に戻るか、ミノル」
「そうだな、アグネスもよく寝ているし、村に帰って作り試食してもらうよ」
「では肉を変えろよ、ジャイアント・レッドベアーで作った料理など、どんな作り方をしようが美味しく感じるに決まっているからな」
「あ! そうか、レベルの高い肉は無条件で美味しいんだな!」
「ジャイアント・レッドベアーの脂が麺にも野菜にも塗されているんだ、全部美味く感じるだろう」
「そうかそうだな、だったらどうしようか? ティタノボア? アナコンダ? デイノスクス? どれも脂が少ないから焼きそばには不向きなんだよな」
「ミノル、もっとよく考えるんだ、どれも見習には高レベルの魔獣だぞ、料理が美味しいかどうか知りたいのなら、もっともっと低レベルの魔獣かモンスターの肉を使うんだ」
「そうか、そうだな、だとするとホーンラビットかファングラットになるのかな?」
「そうだ、その辺りにしておくべきだろうな」
「だが脂が少ないんだよな、オークじゃ駄目かな?」
「油を買え油を、レベリングとやらで、魔獣相場が暴落するくらい素材を売り払っているではないか、それで得た金で油くらい腐るほど買えるであろう」
「いや、自給自足出来る料理を考えてやろうと思ってだな」
「それならそもそも麺を買う事もおかしいではないか、ミノルの言う事はいつもどこか抜けておるぞ?」
「あ~、そうか、そうだな、間抜けはセイのデュオになっても治らんのだな」
「そう落ち込むでない、そう言うミノルが我は面白くて好きなのだ」
「何か全然うれしくないぞ!」
「まだミノルは五十ではないか、我からすればアグネスと変わらぬ赤子のようなものだ」
「あのな~セイ、俺が元々いた日本じゃ50は初老なんだよ、この世界だってこの前の村じゃ五十は爺と言われたじゃないか」
「ふん! 我から見れば、原初以外の人間など皆愚かな幼子だよ。いやそうではないな、レベルが上がった人間なら、長く長く生きておるから、それなりに知識知恵を備えた者もおるな」
「そうなのか?」
「そうだ、ジャイアント・レッドベアーは勿論、オークやコボルトですらレベルが上がれば階級が上がるであろう、人間も同じように階級が上がるのだ」
「人間種にも、エンペラーやキング・ジェネラルと言った階級があり、そう言う人間は長命になるんだな」
「そうだ、ゲルマン帝国を滅亡させたときに、ミノルが殺したではないか、覚えておらのか?」
「あの時は何も分からず、セイの命じるままにやったから、何も分かってなかったし、今でも何が何だが分からないよ」
「ふむ、まあ仕方ない事であろうな。もう焼きそばは出来たではないか、村に行くんだろ」
「ああ行くぞ!」
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