4 / 86
多摩編
アヤの価値
しおりを挟む
ここが中古の武具屋か。
「すみません、武器見せてください」
「はい、どうぞ」
魔法道具はこの辺か。
赤樫の魔法杖が百銅貨もするのか。
だがいざという時は、木刀のように使える丈夫さが欲しいから、赤樫を選ぶべきだろう。
赤樫の中でも、表も中も傷の無い物がいいな。
「アヤも重さを確認して、使い勝手のいい杖を選んで」
「うん、これが良さそう。」
「店員さん、ここに来る冒険者さんで、湿地帯を狩場としているパーティはおられますか?」
「はい、そうですね、新人からベテランまで沢山おられます。獲物が多い湿地帯は人気がありますから。あ、あそこに居られる六人組などは、面倒見もいいベテランさんですね」
「はい、ありがとうございます。この杖二本ください」
「はい、ありがとうございます。二本で二百銅貨になります」
「すみません、湿地帯に行かれる冒険者さんですか?」
「そうだが、それがどうかしたかい?」
「僕たち今日初めて湿地帯に行くので、少しでも危険を少なくしたくて、狩場まで一緒に行かせてもらえませんか?」
「そうか、それは俺達も助かる」
「おいおい、新人と一緒で助かるかよ?」
「いや、目・耳は多いほどいいし、厳しいことを言えば、隠密性の高い獣の不意打ちを受ける確率が人数分低くなる!」
「身も蓋もない言い方だが、それもそうか」
「じゃ、行こうか」
「はい、僕はタケル、この娘はアヤです」
「俺はりょうと、コイツがくまきち、アイツがとらお」
「私はあすか、あの娘がみどり、あっちの娘がかえで」
ベテランさんが何気なく危険な場所を避けて下さったので、何の危険もなく湿地帯まで辿り着くことが出来た。
「有難うございました、僕たちは向こうで獲物を探します」
「ああ、気をつけてな」
「アヤ。今日は値動きが少なく安定した買取価格の獣を狙いたい。まず俺の魔法袋容量限界が百七十キログラム以下だから、あの鰐を狙う」
「はい」
「俺が倒すから、アヤは昨日の打ち合わせ通り、重力軽減魔法と運搬魔法で安全なここまで運んでくれ」
「うん、やってみる」
「鰐だから、喉は隠れている。火炎圧縮魔法で、こうして脳を焼いて殺す」
俺は直径六十センチメートル位の火炎を魔力で圧縮し、直径一センチメートルくらいにした。
それを魔力で誘導して、鰐の後頭部付近から脳に直撃させた。
鰐は魔法の直撃を受けた後で多少痙攣するように動いたが、直ぐに全く動かなくなった。
「よし! 運んでくれ」
「はい!」
「うん、上手いぞ。大きさも何とか袋に入りきった」
「次はアヤが練習がてら倒してくれ。ただ、魔力は節約したいから大物狙いだ。うん? 見間違いか? ちょっと遠いが右の方に途轍もなく巨大な鰐! アヤ、どう思う?」
「う~ん、十メートル以上、十五メートル近いかもしれない」
「アヤは何キログラムまで魔法で運べる?」
「四トンくらいかな」
おいおい規格外すぎるよ。
アヤでこれなら、上級魔術師は化け物だな!
「アヤ、行ってみよう」
「はい」
うわ~、やっぱでかいよ、巨大だよ!
でも、いずれは魔界に入って、魔獣や魔竜を狩るようになりたいんだ。
でかいからって、ただの獣にビビってられるか!
「アヤ。あいつは獲物で商品なんだ。だから傷は少ない方がいい。さっきやって見せたように、圧縮火炎魔法で小さく穴開けて、脳だけを焼くんだ」
「はい。やってみる」
「俺も魔法の準備をしておくから、焦らずやればいい。外したら、逃げながら次の圧縮火炎魔法を用意するんだ」
「はい。やります!」
よし、上手い!
死角から迂回させて、火球を後ろに移動させた。
よしバッチリ後頭部から火球が決まった。
おおおお痙攣してる。
流石にアヤは凄い!
何も練習していないのに、見ただけで俺が考えに考え抜いた魔法を覚えるかよ。
「痙攣が止まった。ここまで運んで! よしそうだ、袋に入れて。やったな! 初獲物がチョー大物だよ、何キログラムあるか分かるか?」
「三トン超えるくらいだと思う」
「袋の容量は、あと一トンか?」
「うん」
「じゃ、適当な鰐を狩って帰ろう」
「はい!」
俺とアヤは、何の危険を感じることなく適当な大きさの鰐を狩り、意気揚々と砦に帰ることが出来た。
「小人目付様買取お願いします」
「アヤの担当は横井殿だぞ!」
「僕がリーダーです。僕が現金で受け取り、朝野様の前で公平に折半いたします」
「分かった。それなら体裁は整う。いいだろう、ここに出せ」
「十メートル三トン級の鰐が一頭。同じく五百キログラム級鰐が二頭。百五十キログラム級が1頭ですから、もっと広い場所でないと無理です。」
「な! とびすけ買取長! 冒険者組合の倉庫を使わせてくれ」
「朝野様、私もご一緒させていただきます」
「うむ」
「タケル、アヤ、ついてこい」
俺とアヤは、高揚する心を押し殺して表情を隠し、朝野様ととびすけ買取長の後に続いた。
奴隷冒険者が狩った獲物も、鑑定した後は冒険者組合の倉庫に保管される。
だからあまりに巨大で受付で出せない獲物は、広大な冒険者組合の倉庫で鑑定しようと言う事だろう。
普通の奴隷冒険者の実力では、受付で鑑定出来ないような大物を狩ることは出来ない。
大物が狩れるような実力者なら、貯めた金で自分の身を購入し、奴隷から平民になっている。
そうなれば平民冒険者として冒険者組合の受付に行くことになる。
当然砦からは出ていくことになる。
「出せ」
「はい。アヤ出そう」
「はい。」
「デカイ! 何という大物だ! 買取長、組合の秤を使わせてもらう」
「はい、私が量らせていただきます」
「タケル。アヤ。四頭合計で四千九十七キログラム、八万千九百四十銅貨、一人当たり四万千四百七十銅貨だ。一人づつ渡すぞ、小銀貨四枚、大白銅貨一枚、小白銅貨四枚、大黄銅貨七枚だ、同じくアヤの分、確認したか? なら受け取りに拇印押せ」
「タケル、これ貸してもらってた四百銅貨返すね」
「ああ、目付様ありがとうございました。アヤ武具買いに行こう」
(アヤ、念話聞こえてる?)
(うん、大丈夫、ちゃんと聞こえてるよ)
(これから代官所に行って、奴隷闇売買の捜査をお願いする)
(お代官様は信頼できる人なの?)
(昨日密かに会って話したけど、大丈夫、なかなかの人物だよ)
(そっか、なら安心だね)
(ただ捜査用の密偵を雇う費用は、こちら持ちなんだ。たぶん密偵一人三万銅貨は掛かると思う)
(今日の稼ぎなら、それくらいの費用は大丈夫だね)
(ああ、アヤのお蔭だよ)
「門番様、お代官様に呼ばれた王室奴隷でございます。昨日の奴隷がお呼び出しに従い、門前に参ったと御取次願います」
「なに? そんな予定は聞いておらぬぞ!」
「お代官様に依頼された、御用金の用意が何時出来るか分からなかったのですが、思いがけず一日で出来たため、今日参上致した次第です」
「なに! 御用金とな? 待っておれ直ぐ聞いてくる」
「お代官様、昨日訪ねた申す奴隷が表に参っており、御用金の用意が出来たと門前で申しておりますが、いかがいたしましょう?」
「うむ、庭先に通せ」
門番が戻ってきて、俺とアヤを案内してくれた。
「お代官様、タケルとアヤと申します。御用金献上を御許し頂き、感謝いたします」
「うむ、いくら献上できるか。」
「アヤと二人で、今日八万銅貨ほど稼げました。その内六万は献上できます」
「五万銅貨あれば、卒族級の家臣二人を一年間雇用できる。だが御主から御用金を受けると、賄賂授受を指摘され、互いに不利となる。1日八万稼げるなら、ほかに方策は考えられぬか?」
なに?
昨日と言ってることが違うじゃないか!
だが確かに、相手は恐らく貴族。
最下級士族のお代官様では、何をなされれるにも細心の注意が必要だろう。
考えろ、考えるんだ。
こう仰る以上、お代官様には何か考えがあるはずだ!
そうだ!
俺自身が、証拠を集める者を雇えばいいんだ。
どうせなら、護衛も出来る武力を兼ね備えた者を雇えばいい。
「お代官様、冒険者組合は信用できますでしょうか?」
「うむ、流石だな。儂が紹介状を書こう」
「では、護衛兼運搬役で雇います。費用はいかほどでしょう?」
「証人になればよい。心根がよくて稼げない低級冒険者なら、一日四百銅貨出せば、三十人はおろう」
「百キログラム程度の鰐なら、二人で村まで運べましょうか?」
「楽勝だろうな」
「ならば、二十人は雇えます」
「今すぐ紹介状を書こう」
「有り難き幸せにございます」
「おいおいおい、奴隷が組合に何の用だ!」
ち、不良冒険者か。
「ねーちゃん、こっち来な、遊んでやるよ」
「お代官様の御用で、組合長に面会に来ました、取次お願いします」
「! なに、奴隷風情が嘘ついてんじゃね~よ」
「俺たちは魔術師だ、特にこいつは中級上の魔法使い、それでもやる気かい?」
止めを刺すか。
「受付殿。御代官様の紹介で、明日二十名の護衛兼運搬役を一人一日四百銅貨で依頼に来ました。組合長に取次の上、この者どもに処分をお願いします。お代官様の使者に対する無礼は勿論ですが、奴隷とはいえ我らは王国資産です。王国の資産を傷つけようとした罪は、厳罰ではございませんか?」
「直(ただ)ちに、組合長を呼んでまいります!」
ほとんど待つことなく、受付は組合長を呼んできた。
さすがに冒険者組合の長を務めるだけあって、鍛え上げた肉体をしている。
「御使者どの、私が組合長のさすけです。応接間にご案内いたします」
「まずはこれを。御代官様からの書状でございます」
「これはご丁寧に。拝見させていただきます。確かに筆跡も花押もお代官様の公式書状です。使者殿に無礼を働いた者どもを牢に入れておけ!」
組合長直々の案内で奥に通されたが、二・三の部屋の前を通過する程度で、直ぐに応接間に着いた。
ふ~ん、応接間とはいえ実用重視だな。
家具も質実剛健だな。
「使者殿。御代官様の書状によれば、レベルは低くとも信頼出来る護衛兼運搬役を雇いたいとのことですが?」
「はい。我々二人は、自由民になるべく冒険者奴隷となりました。昨日一日で八万銅貨を稼ぎました」
「買取長から報告は受けております。大変な大物を狩られたそうで」
「二十日順調に狩りが出来れば、無事に解放奴隷として自由民に成れるでしょうが、このアヤを手に入れたい貴族が策動しております。抑止力と証人となる冒険者を、常に側に置きたいのです」
「分かりました、自由民になられた後はどうする心算ですかな?」
「冒険者として身を立てたいと思っておりますし、獣に慣れたら、魔の森で魔獣や魔竜を狩りたいと思っています」
「できますかな? 魔獣はともかく魔竜は強力ですぞ」
「明日、手の者からの報告で判断されていただきたい」
「確かにそうですな。確認も兼ねて、心根のいい冒険者を二十人用意しましょう」
「獲物の運搬でお聞きしたいのですが、私とアヤが狩った獲物を、竹と綱で結んで冒険者に運んでいただきたいのです。手頃な竹がある場所が、ここから湿地帯までの間にありますか?」
「ええ、ありますよ。でも運搬用の六間棒と縄なら、組合から無料でお貸ししましょう」
「ありがとうございます。明日よろしくお願いします」
「了解しました。表までお送りしましょう」
「ありがとうございます」
「すみません、武器見せてください」
「はい、どうぞ」
魔法道具はこの辺か。
赤樫の魔法杖が百銅貨もするのか。
だがいざという時は、木刀のように使える丈夫さが欲しいから、赤樫を選ぶべきだろう。
赤樫の中でも、表も中も傷の無い物がいいな。
「アヤも重さを確認して、使い勝手のいい杖を選んで」
「うん、これが良さそう。」
「店員さん、ここに来る冒険者さんで、湿地帯を狩場としているパーティはおられますか?」
「はい、そうですね、新人からベテランまで沢山おられます。獲物が多い湿地帯は人気がありますから。あ、あそこに居られる六人組などは、面倒見もいいベテランさんですね」
「はい、ありがとうございます。この杖二本ください」
「はい、ありがとうございます。二本で二百銅貨になります」
「すみません、湿地帯に行かれる冒険者さんですか?」
「そうだが、それがどうかしたかい?」
「僕たち今日初めて湿地帯に行くので、少しでも危険を少なくしたくて、狩場まで一緒に行かせてもらえませんか?」
「そうか、それは俺達も助かる」
「おいおい、新人と一緒で助かるかよ?」
「いや、目・耳は多いほどいいし、厳しいことを言えば、隠密性の高い獣の不意打ちを受ける確率が人数分低くなる!」
「身も蓋もない言い方だが、それもそうか」
「じゃ、行こうか」
「はい、僕はタケル、この娘はアヤです」
「俺はりょうと、コイツがくまきち、アイツがとらお」
「私はあすか、あの娘がみどり、あっちの娘がかえで」
ベテランさんが何気なく危険な場所を避けて下さったので、何の危険もなく湿地帯まで辿り着くことが出来た。
「有難うございました、僕たちは向こうで獲物を探します」
「ああ、気をつけてな」
「アヤ。今日は値動きが少なく安定した買取価格の獣を狙いたい。まず俺の魔法袋容量限界が百七十キログラム以下だから、あの鰐を狙う」
「はい」
「俺が倒すから、アヤは昨日の打ち合わせ通り、重力軽減魔法と運搬魔法で安全なここまで運んでくれ」
「うん、やってみる」
「鰐だから、喉は隠れている。火炎圧縮魔法で、こうして脳を焼いて殺す」
俺は直径六十センチメートル位の火炎を魔力で圧縮し、直径一センチメートルくらいにした。
それを魔力で誘導して、鰐の後頭部付近から脳に直撃させた。
鰐は魔法の直撃を受けた後で多少痙攣するように動いたが、直ぐに全く動かなくなった。
「よし! 運んでくれ」
「はい!」
「うん、上手いぞ。大きさも何とか袋に入りきった」
「次はアヤが練習がてら倒してくれ。ただ、魔力は節約したいから大物狙いだ。うん? 見間違いか? ちょっと遠いが右の方に途轍もなく巨大な鰐! アヤ、どう思う?」
「う~ん、十メートル以上、十五メートル近いかもしれない」
「アヤは何キログラムまで魔法で運べる?」
「四トンくらいかな」
おいおい規格外すぎるよ。
アヤでこれなら、上級魔術師は化け物だな!
「アヤ、行ってみよう」
「はい」
うわ~、やっぱでかいよ、巨大だよ!
でも、いずれは魔界に入って、魔獣や魔竜を狩るようになりたいんだ。
でかいからって、ただの獣にビビってられるか!
「アヤ。あいつは獲物で商品なんだ。だから傷は少ない方がいい。さっきやって見せたように、圧縮火炎魔法で小さく穴開けて、脳だけを焼くんだ」
「はい。やってみる」
「俺も魔法の準備をしておくから、焦らずやればいい。外したら、逃げながら次の圧縮火炎魔法を用意するんだ」
「はい。やります!」
よし、上手い!
死角から迂回させて、火球を後ろに移動させた。
よしバッチリ後頭部から火球が決まった。
おおおお痙攣してる。
流石にアヤは凄い!
何も練習していないのに、見ただけで俺が考えに考え抜いた魔法を覚えるかよ。
「痙攣が止まった。ここまで運んで! よしそうだ、袋に入れて。やったな! 初獲物がチョー大物だよ、何キログラムあるか分かるか?」
「三トン超えるくらいだと思う」
「袋の容量は、あと一トンか?」
「うん」
「じゃ、適当な鰐を狩って帰ろう」
「はい!」
俺とアヤは、何の危険を感じることなく適当な大きさの鰐を狩り、意気揚々と砦に帰ることが出来た。
「小人目付様買取お願いします」
「アヤの担当は横井殿だぞ!」
「僕がリーダーです。僕が現金で受け取り、朝野様の前で公平に折半いたします」
「分かった。それなら体裁は整う。いいだろう、ここに出せ」
「十メートル三トン級の鰐が一頭。同じく五百キログラム級鰐が二頭。百五十キログラム級が1頭ですから、もっと広い場所でないと無理です。」
「な! とびすけ買取長! 冒険者組合の倉庫を使わせてくれ」
「朝野様、私もご一緒させていただきます」
「うむ」
「タケル、アヤ、ついてこい」
俺とアヤは、高揚する心を押し殺して表情を隠し、朝野様ととびすけ買取長の後に続いた。
奴隷冒険者が狩った獲物も、鑑定した後は冒険者組合の倉庫に保管される。
だからあまりに巨大で受付で出せない獲物は、広大な冒険者組合の倉庫で鑑定しようと言う事だろう。
普通の奴隷冒険者の実力では、受付で鑑定出来ないような大物を狩ることは出来ない。
大物が狩れるような実力者なら、貯めた金で自分の身を購入し、奴隷から平民になっている。
そうなれば平民冒険者として冒険者組合の受付に行くことになる。
当然砦からは出ていくことになる。
「出せ」
「はい。アヤ出そう」
「はい。」
「デカイ! 何という大物だ! 買取長、組合の秤を使わせてもらう」
「はい、私が量らせていただきます」
「タケル。アヤ。四頭合計で四千九十七キログラム、八万千九百四十銅貨、一人当たり四万千四百七十銅貨だ。一人づつ渡すぞ、小銀貨四枚、大白銅貨一枚、小白銅貨四枚、大黄銅貨七枚だ、同じくアヤの分、確認したか? なら受け取りに拇印押せ」
「タケル、これ貸してもらってた四百銅貨返すね」
「ああ、目付様ありがとうございました。アヤ武具買いに行こう」
(アヤ、念話聞こえてる?)
(うん、大丈夫、ちゃんと聞こえてるよ)
(これから代官所に行って、奴隷闇売買の捜査をお願いする)
(お代官様は信頼できる人なの?)
(昨日密かに会って話したけど、大丈夫、なかなかの人物だよ)
(そっか、なら安心だね)
(ただ捜査用の密偵を雇う費用は、こちら持ちなんだ。たぶん密偵一人三万銅貨は掛かると思う)
(今日の稼ぎなら、それくらいの費用は大丈夫だね)
(ああ、アヤのお蔭だよ)
「門番様、お代官様に呼ばれた王室奴隷でございます。昨日の奴隷がお呼び出しに従い、門前に参ったと御取次願います」
「なに? そんな予定は聞いておらぬぞ!」
「お代官様に依頼された、御用金の用意が何時出来るか分からなかったのですが、思いがけず一日で出来たため、今日参上致した次第です」
「なに! 御用金とな? 待っておれ直ぐ聞いてくる」
「お代官様、昨日訪ねた申す奴隷が表に参っており、御用金の用意が出来たと門前で申しておりますが、いかがいたしましょう?」
「うむ、庭先に通せ」
門番が戻ってきて、俺とアヤを案内してくれた。
「お代官様、タケルとアヤと申します。御用金献上を御許し頂き、感謝いたします」
「うむ、いくら献上できるか。」
「アヤと二人で、今日八万銅貨ほど稼げました。その内六万は献上できます」
「五万銅貨あれば、卒族級の家臣二人を一年間雇用できる。だが御主から御用金を受けると、賄賂授受を指摘され、互いに不利となる。1日八万稼げるなら、ほかに方策は考えられぬか?」
なに?
昨日と言ってることが違うじゃないか!
だが確かに、相手は恐らく貴族。
最下級士族のお代官様では、何をなされれるにも細心の注意が必要だろう。
考えろ、考えるんだ。
こう仰る以上、お代官様には何か考えがあるはずだ!
そうだ!
俺自身が、証拠を集める者を雇えばいいんだ。
どうせなら、護衛も出来る武力を兼ね備えた者を雇えばいい。
「お代官様、冒険者組合は信用できますでしょうか?」
「うむ、流石だな。儂が紹介状を書こう」
「では、護衛兼運搬役で雇います。費用はいかほどでしょう?」
「証人になればよい。心根がよくて稼げない低級冒険者なら、一日四百銅貨出せば、三十人はおろう」
「百キログラム程度の鰐なら、二人で村まで運べましょうか?」
「楽勝だろうな」
「ならば、二十人は雇えます」
「今すぐ紹介状を書こう」
「有り難き幸せにございます」
「おいおいおい、奴隷が組合に何の用だ!」
ち、不良冒険者か。
「ねーちゃん、こっち来な、遊んでやるよ」
「お代官様の御用で、組合長に面会に来ました、取次お願いします」
「! なに、奴隷風情が嘘ついてんじゃね~よ」
「俺たちは魔術師だ、特にこいつは中級上の魔法使い、それでもやる気かい?」
止めを刺すか。
「受付殿。御代官様の紹介で、明日二十名の護衛兼運搬役を一人一日四百銅貨で依頼に来ました。組合長に取次の上、この者どもに処分をお願いします。お代官様の使者に対する無礼は勿論ですが、奴隷とはいえ我らは王国資産です。王国の資産を傷つけようとした罪は、厳罰ではございませんか?」
「直(ただ)ちに、組合長を呼んでまいります!」
ほとんど待つことなく、受付は組合長を呼んできた。
さすがに冒険者組合の長を務めるだけあって、鍛え上げた肉体をしている。
「御使者どの、私が組合長のさすけです。応接間にご案内いたします」
「まずはこれを。御代官様からの書状でございます」
「これはご丁寧に。拝見させていただきます。確かに筆跡も花押もお代官様の公式書状です。使者殿に無礼を働いた者どもを牢に入れておけ!」
組合長直々の案内で奥に通されたが、二・三の部屋の前を通過する程度で、直ぐに応接間に着いた。
ふ~ん、応接間とはいえ実用重視だな。
家具も質実剛健だな。
「使者殿。御代官様の書状によれば、レベルは低くとも信頼出来る護衛兼運搬役を雇いたいとのことですが?」
「はい。我々二人は、自由民になるべく冒険者奴隷となりました。昨日一日で八万銅貨を稼ぎました」
「買取長から報告は受けております。大変な大物を狩られたそうで」
「二十日順調に狩りが出来れば、無事に解放奴隷として自由民に成れるでしょうが、このアヤを手に入れたい貴族が策動しております。抑止力と証人となる冒険者を、常に側に置きたいのです」
「分かりました、自由民になられた後はどうする心算ですかな?」
「冒険者として身を立てたいと思っておりますし、獣に慣れたら、魔の森で魔獣や魔竜を狩りたいと思っています」
「できますかな? 魔獣はともかく魔竜は強力ですぞ」
「明日、手の者からの報告で判断されていただきたい」
「確かにそうですな。確認も兼ねて、心根のいい冒険者を二十人用意しましょう」
「獲物の運搬でお聞きしたいのですが、私とアヤが狩った獲物を、竹と綱で結んで冒険者に運んでいただきたいのです。手頃な竹がある場所が、ここから湿地帯までの間にありますか?」
「ええ、ありますよ。でも運搬用の六間棒と縄なら、組合から無料でお貸ししましょう」
「ありがとうございます。明日よろしくお願いします」
「了解しました。表までお送りしましょう」
「ありがとうございます」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
77
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる