奴隷魔法使い

克全

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多摩編

魔境初挑戦

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「受付殿、お願いしていた撒餌は用意できてますか?」

「はい、できております。臭いが強く食用に向かない、内臓・屑肉・骨・血液でしたね? 千キログラム確かに御用意いたしております。此方について来て下さい」

「ありがとうございます」

 俺とアヤは、受付に案内してもらって解体場まで行った。

「はい。確かに千キログラム確認させていただきました。約束通り、代価二千銅貨です」

「確かに二千銅貨受け足らせていただきました。こちらが受け取り証になります。でもこんなに沢山必要なのですか?」

「常に同じ場所に食料が有れば、魔獣も魔竜も集まってくると信じています」

「分かりました。明日も同量の撒餌を御用意しておいていいのですね?」

「はい、お願いします。あ! さすけ組合長おはようございます」

「タケル殿おはようございます。今日は魔境でしたな? 約束通り厳選した冒険者を集めました」

「ありがとうございます。魔境までは強行軍に成るので、人夫では狩りの時間が確保できません」

「ええ、分かっておりますとも。日当も八百銅貨と今までの倍ですからな。志願者は多いですが、組合の信用問題もあります。厳選した五十八人の冒険者に絞っております」

「こちらが案内人の、きりと殿です」

「きりと殿、タケルと申します。案内よろしくお願いいたします」

「タケル殿、きりとです。こちらこそ、宜しくお願いいたします」

「では皆さん、強行軍で行きます。ついてこれない人は置いていきます!」

『多摩魔境と奥山の境界線』

「タケル殿、ここが境界線になります。慣れれば樹木の違いが分かるようになりますが、一応普通の森の木々に印を刻んでおきましょう。皆も覚えておいてくれ。覚えておけば、生死にかかわるかもしれない」

「では皆さん、万が一に備えて臨戦態勢をお願いします。撒餌を魔法で置いていきます」

「あ、タケル殿! 魔獣は脳も高値が付きます。血液も魔法具作成の触媒や魔法陣を書く塗料に使います。魔獣の血液を使った魔法具や魔法陣は、使っていない魔道具よりも魔力が増します、出来れば聞き及んでいる圧縮風魔法で、魔獣の喉を裂いて倒してください。そして血液を魔法で集めて、魔法袋で新鮮保存されたら、高値で売れます」

「アヤ、聞いた通りだ。風魔法だけで倒すぞ!」

「はい、分かったわ! 任せて!」

 待ち伏せしだして1時間ほど経ったか? 

 風魔法で撒餌の臭いを魔境奥まで流すか?

「ん! 気配がする。多いな?」

「タケル気配がする?」

「ああ、多いな。三十頭以上の群れだ。魔法を準備してくれ」

「うん、森には来ないよね?」

「アヤ殿、タケル殿。今までの経験上、魔獣魔竜は魔境からは出ません」

「魔狗だ! 三百キログラム級だな。全部狩るぞ!」

 喉を裂く!

 血は魔法で浮かせて落とさない!

 一・二・三頭。

 次の魔法も準備発動。

 四・五・六頭。

 アヤも上手くやってるな。

 事前に練習していた甲斐が有る。

「アヤ、十五頭で止めてくれ。魔力を無駄にしないように、終わりは俺が丁度で終わらせるから」

「了解、最後は任せるね」

 わちゃ~。

 噂は聞いていたけど規格外だな。

 三十八頭の魔狗を一瞬で倒すかよ!

 概算で二百万銅貨を一瞬で稼ぎやがった。

「終わったな。アヤ、血抜きして、血液は魔法袋に保管するよ。これからもっと獲物が来たら、血は袋に、肉は冒険者達に運んでもらうよ」

「は~い。思っていたより楽だね」

「うん、そうだね。でも気は抜かないで行こうな」

「はい!」

「皆、交代で食事にしてくれ。あと二時間待ち伏せする」


 また来たな。

 さっきの群れを狩ってから四十分ほどか?

「皆、次の群れが来た。準備してくれ」

「タケル殿魔狼です。五百キログラム級です」

「アヤ、魔狗の血液は俺の袋に入れる。アヤは魔狼の血を入れてくれ」

「了解、そっちに移すね」

 よし、魔狼十二頭仕留めたね!

「皆、警戒しつつ飯食ってくれ。喰い終わったら今日は帰る」

 帰ろうと思ったら次が来たよ!

 「魔狗が来た、適当に狩るよ」

 今度は小さな群れだったね、十一頭なら全部持ち帰れるな。


『奴隷冒険者千人砦買取所・獲物計算所』

 「小人目付様、魔晶石を除いて買取お願いします。」

 「うむ、冒険者が魔狗を運んでいるところを見ると、初魔境狩りも楽勝か?」

 「はい、比較的弱い魔獣で助かりました。」

 「上級魔術師なら魔獣相手でもそんなものか。」
  朝野殿は苦笑いしている。

 「しかし、魔晶石を除外すると半値になるぞ?」

 「はい、悩んだのですが、魔竜を安全に狩るには、魔晶石を魔力の予備として確保しておく必要が有ると考えました。」

 「うむ、目標は魔竜か?」

 「はい!」

 「では倉庫で計ろうか」

『奴隷冒険者千人砦買取所・倉庫』

「だせ」

「はい。魔狗三十九頭、魔狼十二頭です」

「よし。血液も凝固していない。傷も喉だけ。最高の状態だな! 組合長、買取長、魔晶石は除外とタケルが言っているが、可能か?」

「魔晶石だけを除外して解体したりオークションにかけたりするのは手間なのですが、魔竜を狩ってくれる心算なら話は別です。喜んでお受けしましょう」

「全部で二万七百キログラムで二百七万銅貨だ。全部銀貨でいいか? 銀貨なら207枚だ」

「はい、小人目付様。組合長。冒険者の謝礼分は、組合で両替できますか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「小人目付様、銀貨でお願いします」



『冒険者組合』

「さすけ組合長殿、相談が有るのですが」

「なんでしょう?」

「魔晶石を埋め込んだ装備を作りたいのです」

「ほう、具体的にはどのような装備をお考えですか?」

「武具に魔晶石を埋め込み、常に余分な魔力を魔晶石に貯えたいのです。そうすれば、非常時に魔法が使用できると思って」

「ふむ、それだけ大量の魔晶石を確保できますかな?」

 「今回魔境で狩った魔獣から手に入れた魔晶石は六十一個です。アヤと折半したので一人当たり三十個になります。これを魔法陣を刻んだ武具に埋め込んで、魔法防具を創りたいのです」

「確かにいちいち魔法袋やポケットから魔晶石を出していては、命懸の戦闘中には合わず、手遅れになるかもしれませんな。分かりました。信頼できる刀鍛冶、細工師、甲冑師をご紹介しましょう」

「お願いいたします」

『狩場』

「きりと殿、みつお殿。今日は尾行者の気配が多すぎます! 総勢百人はいます。強襲を仕掛けてくるかもしれません!」

「分かりました。皆に注意しておきましょう」

「皆、今日は尾行者が百人以上いるそうだ。強襲が有るかもしれん! 有るとすれば、狩りでタケル殿とアヤ殿が魔獣と戦闘に入った直後だ。その時は御二人を円陣で御護りするぞ!」

「「「「「へい!」」」」」

「撒餌に魔獣が集まってきたぞ!」

 尾行していた奴らの気配が近づいてくる。

 皆に防御陣形を取るように指示しないと。

「敵襲!!」

 俺は叫んだ。

「防御陣形!」

 きりと殿が、俺の意を汲取り素早く指示を出した。

 皆が急いで俺とアヤの守るために陣形を整えた。

 魔獣の狩りと敵襲の防御を同時にやらないと。

「魔猿だ。アヤは自分に防御壁魔法を展開。俺も展開しつつ狩る」

「私も狩るわ」

「無理せず防御最優先だ! アヤの安全が、俺にとっては何よりも大切なんだ」

「弓隊、確認次第放て!」

 きりと殿が襲撃犯に弓を射る指示を出した。

「魔猿は三百頭を超えてるか? 一頭百キログラム前後か? 狩りとしては魔法効率悪いな」

 冒険者は上手く襲撃犯を撃退しているか?

 うん、大丈夫だな。

 強襲側は大した腕じゃない。

 凄ざましい勢いで矢が飛来。

 タケルの外套に突き刺さった!

 ち、油断した!

 竜材を使った強化複合長弓か!

「きゃ~、タケル!」



「大丈夫だ。外套と腕の間に魔法壁を展開した」

 糞野郎が、足を切り飛ばしてやる!

 圧縮風魔法を喰らいやがれ!

 よっしゃ。

 麻痺魔法も効果あった。

 これで自殺もできないだろう!

「ゆきな殿、暗殺者を確保してください」

「は! 直ちに。」

 うん、戦況も楽勝だな。

 襲撃したのは唯の野盗か?

 練達の冒険者には手も足も出ないようだが?

「タケル殿、魔猿はどうされます? 魔猿は脳が珍味で高価に輸出されます。魔晶石も魔狼より大きい六百キログラム級の大きさです」

「!」

 それだと、見逃すのは惜しいな。

「アヤ、半分の魔力で四十五頭狩れるかい?」

「うん、大丈夫。ちゃんと魔力は半分残して狩る」

「俺も半分魔力を残して、七十五頭分狩るから」

 ふ~う、狩りは楽勝だったな!

 しかし、魔猿は賢いな。

 攻撃受けたら直ぐに逃げ散りやがった。

 最大射程から順に狩らなかったら、予定数倒せなかったな。

「みつお殿、何人捕まえました?」

「死亡十三人、重軽傷四十九人、無傷の降伏者が四十五人です」

「よし、帰って代官所に突き出します」

『多摩冒険者村代官所』

「門番様、森林で襲ってきた強盗団を捕まえました。お代官様にお取次お願いいたします」

「なに! 待っておれ」

「お代官様がお会いになる。皆ついてまいれ」

「おお、タケルか。大人数だな」

「はい。狩りの護衛役も一緒です。今日の尾行者は、いつも通り三組でしたが、3組目が無頼の者を集めて襲撃してきました」

「みつお、組合長を呼んで参れ。代官所の牢屋だけでは収監できぬから、組合の魔獣用檻を借りたい」

「は! 直ぐに組合にって呼んでまいります」

 組合長は直ぐにやってきた。

「さすけ組合長、どうじゃ。組合の魔獣用の檻は借りれるか?」

「はい、御貸しさせていただきます。ただ、収監した襲撃犯の見張りは、いかがいたしましょう?」
 
「通常の冒険者警備員だけでは不足か?」

「色んな意味で不足でございます!」

「ならば代官所の卒族を四兵を出そう」

「ありがとうございます。王国の兵士が居てくだされば、誰かが権柄尽くで面会や解き放ちを命じても、こちらも強気で対応できます」

「では、お代官様。私は獲物を提出してきます」

「うむ、タケル、アヤ、ご苦労であった」

「「はは!」」

『奴隷冒険者千人砦買取所』

「小人目付様、今日は魔猿百二十頭でございます」

「うん、だせ」

「買取長、計測しようか」

「はは」

「タケル、襲われたそうだな?」

「はい、遂に襲撃を受けました。常に三組の尾行者がいたのですが、三組目が我慢しきれず強襲してきました」

「で、捕らえたのか?」

「はい。主だった者は生きたまま捕らえました」

「ふむ、では、黒幕がわかるのか?」

「さて、3組目ですので、証拠がどれほど出るかは未知数でございます」

「左様か」

「小人目付様、ご確認ください。魔猿百二十頭で一万二千キログラムでございます」

 俺とアヤは百二十頭の魔猿を全て魔法袋から出し終えた。

「タケル、魔晶石は除外か?」

 「はい、そのようにお願いします。予備魔力の有る無しは命にかかわりますので、魔晶石は手元に置いておきます」

「分かった。買取長、魔晶石はタケルが持ち帰る条件で清算だ」

「はい。百二十万銅貨でございます」

「タケル。銀貨百二十枚でいいか?」

「はい、それでお願いします」

『薩摩辺境伯爵、王都屋敷』

「用人様、犯罪者組合の強襲が失敗しました。百十七人全員逮捕されてしまいました」

「なに! 貴様はそれを見過ごし、おめおめ逃げ帰ったのか!」

「自分まで捕まると、島津家が御取り潰しになります!」

「く! 証拠は残しておらんのだな!」

「用人様以外の証拠はございません」

「なに! 何をいっておる? どういう意味だ?」

「用人様は、度々多摩奴隷冒険者千人隊砦を訪問されております。ここまで事件が明るみに出れば、用人様の名が出るのは防げません」

「儂にどうせよと申すのじゃ!」

「では、お耳を拝借」

「う!」

「根占、仕留めたか? 心臓一突きとは流石じゃな」

「は! ご家老様、殺しましてございます」

「ふむ、目先の欲にとらわれよって! 手に余る大物は、隠れて通り過ぎるのを待つが寛容じゃ。こ奴と一緒に砦を訪問した者はどうした?」

「用人様の家臣と使用人は、既に皆殺しいたしました」

「遺体はどうする?」

「夜陰に乗じて、我が忍軍が大川まで運びます。後は盗賊団を使って富士魔境まで運び、魔獣の餌にいたします」

「うむ、それでよい」

「ご家老様。国もと肝属(きもつき)一族の処分はいかがいたしましょうか?」

「こ奴の嫡男は武勇の誉れ高き勇者、処分はなしじゃ。父は失策を犯し、辺境伯家を守るため、富士魔境に入り自害したと伝える。元々こやつは嫡男成長までの代役、用人と言っても、他の貴族家への使いはさせておらん。黒磯奴隷千人頭だけの汚れ役用人じゃ」

『多摩奴隷冒険者砦』

「アヤ、今日は色々あったね」

「うん。タケルに矢が突き刺さったときは、心臓が止まるかと思った」

 アヤはつ~と、一筋の涙を流してくれた。

 俺は、俺は、俺は馬鹿だ!

 錐で刺すような痛みが胸に走る。

 締め付けられるように心臓が収縮する。

 もう油断はしない!

 決してアヤを悲しませるようなことはしない。

 卑怯下劣な行いであろうと、圧倒的な力で敵を捻じ伏せる!

「御免、心配かけたね! でも大丈夫だよ。外套内側には鎖帷子を仕込んであるから、先ずそれが防ぐよ。外套と鎧の間には、竹ひごで5cmの空間を開けてあるだろ。矢が刺さった時点で、外套の内側に魔狼の血で書いた防御壁魔法陣が、自動起動してくれる」

「うん、分かってるよ。分かってるけど、心配だし怖いよ」

 あああああ、アヤが泣きじゃくりだした。

 愚かな事を言っちまった。

 言い訳や正論は要らないんだ!

「ごめん。もう油断しないから。外套に刺さる前に魔法壁で防ぐから。それに、もっと防御力を高くしよう! 魔力を充てんした魔晶石を、外套の魔法陣に縫い込もう。後は、鎧、手甲、足甲、ブーツにも魔法陣を描き、魔晶石を埋め込もう」

「うん! 私が縫ってあげる」

 よかった!

 アヤが泣き止んで微笑んでくれた。

 今日からは、アヤが笑顔だけで生きていけるようにする。

 俺は心から誓った。

「アヤの外套には俺が縫う。でも先に魔法鍛錬だよ」

「はい!」
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