奴隷魔法使い

克全

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多摩編

視察・交渉・夕餉

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 『視察3』

 「御頭、囮成功の念話来ました!」

 「よし! 弓隊かかれ!!」

 「上使様、通常は撒餌を魔境に投げ入れるのですが、今は既に魔竜魔獣が集まっていますので、弓隊が攻撃します。」

 「うむ、弓兵に魔法使いが付き添っておるのはなぜじゃ?」

 「は、傷を少なく狩るために、弓兵の技量に合わせて照準誘導魔法を使える者、貫通力強化魔法の使える者と組ませております。」

 「回収隊、かかれ!」

 「次に、鈎爪の付いたロープや鎖を投げ入れ、倒した獲物を回収します。」

 「ふむ? これにも少数の魔法使いが配備されておるな?」

 「は、これは投げ縄や鎖鎌の使い手を配備しておりますが、獲物が遠くにいて届かない場合だけ魔法使いが支援します。」

 「弓隊! 今は新人が囮だ、手早く倒せ!!」

 「ふむ、朝野奴隷千人頭代理、中々の収穫だな。」

 「は、魔獣魔竜だけでなく、魔虫も取れています、魔虫も薬・魔道具の材料・食材として高値で引き取っていただけることが判りました。」

 『視察4』

 「ヒロミ、無理するんじゃないよ。」

 「トモコこそ張り切り過ぎじゃない?」

 「そりゃ100トンの魔法袋を貸していただいたんだ、一杯にして稼がないと。」

 「でも尊様と彩様にくれぐれも命を大切にするように言われただろ?」

 「判ってるって、死人にゃ金は無意味だからね。」

 「そうだよ、安全第一だよ!」

 「でもね、御二人の代理で囮役してんだよ、30分はボス惹きつけないとね!」

 「うん、そうだね! 魔法袋をお貸ししていただいた分は踏ん張らないとね!」

 「ボスが他を気にしてるよ! こっちに気をひかなきゃ。」

 彼女たちは砦で無料貸与された石弓で矢を放って、ボスの注意を引いて囮(おとり)に徹した。矢には魔力で貫通力と飛距離を強化している。

 「立て続けに行くよ!」

 『視察5』

 「ヒロミとトモコが囮を終わったようだ、アツシ見張りに飛んでくれ。」

 飛行魔法の使えるアツシがボスを見張るため魔界境界線ギリギリを浮遊した。

 「イシマツ・キク・サチコ攻撃だ。」

 圧縮強化風魔法が使えるイシマツとキク
 圧縮強化火炎魔法が使えるサチコ
 この3人が射程内にいた3頭のティラノサウルスを一撃で仕留めた。

 「ユウキ回収、3人は援護に回れ。」

 飛行魔法が使えるユウキは低空を飛んで、大和様からお借りした100トン級汎用魔法袋に7トンのティラノサウルスを3頭収納して帰還した。

 「ボスを引き付けないと囮に成らない、魔晶石の魔力を使っても魔竜を倒す。」

 『おう!』

 「アツシ、ボスは見えないか?」

 「まだだ。」

 「イシマツ・キク・サチコ再攻撃」

 『はい!』

 3人はアクロカントサウルスを攻撃、見事に一撃で仕留めた。

 「ユウキ回収。」

 「おう!」

 くそ、俺達程度の魔力ではボスを引き付けるのは無理か? いや、やれるだけやる。

 「皆、ボスが来るまで攻撃を続ける、魔晶石の準備は怠るな!」

 『おう!』

 『視察6』

 「上使殿、競売に入ります。」

 「うむ。」

 「ガリミムス405kg、ガリミムス405・ガリミムス405。」
 「81万。」
 「82万。」
 「83万。」
 「90万。」
 「91万。」
 「ガリミムス405・91万、ガリミムス405・91万。」
 「92万。」
 「ガリミムス405・92万、ガリミムス405・92万。」
 「落札。」

 「ガリミムス402kg・ガリミムス402・ガリミムス402。」
 「81万。」
 「83万。」
 「84万。」
 「85万。」
 「ガリミムス402・85万、ガリミムス402・85万。」
 「86万。」
 「ガリミムス402・86万、ガリミムス402・86万。」
 「落札。」

 「頭、ギイチ隊から囮成功の連絡張りました!」

 「入札中止! 狩り再開!! 全員急げ!!!」

 『交渉』

 「彩、みんな頑張ってるようだね。」

 「はい旦那様、私たちも負けてられませんね。」

 「ああ、だが俺達は上使殿に許可を得て、赤石魔境の探査をやろうと思う。」

 「はい、御供させていただきます旦那様!」

 俺と彩は魔法袋一杯の獲物を狩り、小1時間ボスを引き付け、地下室で食事と魔力回復を行い、冒険者組合で獲物売却、万全の状態で上使殿に面会をした。

 「上使殿、視察されてどう思われましたでしょうか?」

 「天晴あっぱれである! これなら十二分に王国へ御奉公できるであろう。」

 「実は折り入ってお願いが有るのです。」

 「なんですかな?」

 「新しい魔境狩場の調査に同行していただきたいのです。」

 「ふむ、資源保全でしたかな?」

 「はい、この調子で狩り続けると、直ぐに多摩魔境の魔竜魔獣が枯渇こかつしてしまいます。」
 
「ふむ、では富士魔境・伊豆魔境へ行かれるのかな?」

 「いえ、赤石魔境に行こうと思います。」

 「富士や伊豆を飛ばす理由は何かな?」

 「富士や伊豆は活火山、下手をすると古代魔龍がいるかもしれません。」

 「なんと! 古代魔龍とな?」

 「はい、古代魔龍だけは魔境を出ることが出来ます、奴らを刺激して王都を襲撃されては不忠、王都近くは火山の無い魔境を狩場にしたいのです。」

 「ふむ、あいわかった、何時行くのか?」

 「明日早朝お願いしたいのです。」

 「うむ、多摩魔境は何の問題も無し、同道いたそう。」

 「では、我らは囮を務めてきます。」

 「うむ、御武運を。」

 『夕餉』

  全ての狩りが終わって、夕食の時間になった。

 「上使様、臨時の砦の為、昨晩より貧相な食事となり申し訳ございません。」

 「いや、王国の使者としての公務気にされるな。」

 「魔竜の戦場焼きと下品な食事となりますが、御容赦願います。」

 俺は魔法袋から、味付けに塩・醤油・赤白の各種味噌・薬味に成る葱・大蒜・生姜・山葵等を漆器と共にテーブルに置き、野陣用の圧縮強化岩盤製の焼き肉プレートを出した。

 「上使様方、ガリミムスの焼き肉を御用意させていただきました、御口汚しに成りますが、どうぞ、お食べ下さい。」

 「なんと! 今宵も魔竜を用意して下さったのか!!」

 「野陣仕様となり、席順の上下無く、上使様には誠に失礼に成りますが。」

 「いや、砦での狩の視察、王城内のような席順は無理であろう、気になさるな。」

 「では、部位毎に切り分けております、自由にお焼きください。」

 心臓・肝・腎臓・大腸・小腸・顔肉・腿肉・腕肉・首肉・バラ肉・ロース肉・ランプ肉などを自由に焼けるように置いて行った。上使一行は、正使・副使2人だけではなく、彼らの護衛随員として供している陪臣たちもいた。彼らは昨晩のケツァルコアトの味を思い出したのだろう、生唾を飲み込んで、犬の様に御預け状態である。

 「上使様、供の方々にも交代で食事していただきたのですが?」

 「左様か、お気遣いかたじけい、半数ずつ御相伴にあずかれ。」

 『は!』

 上使一行は貪るようにガリミムスを喰っている。
 「九州の焼酎と下り酒も御用意しております、どうぞ

 「おう、おう、頂こう。」

 「申し訳ありませんが、私と彩は冒険者組合で獲物の売却手続きが残っております、後は朝野奴隷千人頭代理に御任せしますのです、御自由にお食べ下さい。」

 「うむうむ、そうさせていただこう。」

 水で薄められていない高アルコールの下り酒に、正使殿は早くも出来上がったようだ、御機嫌で飲み食いしている。俺と彩は地下住居に帰って水入らずで休むことにした。

 大幅の加筆修正した『改訂版・奴隷魔法使い』も投稿しております、読んで頂ければ嬉しいです。
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